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第1章 総論
1.1 船体強度と船殻設計の関係
1.1.1 船殼の役割
 船殻とは船体の外皮という意味で、船体を構造物としてみた場合の言葉である。船殻は外板構造(外板、肋骨、縦通材)、甲板構造(甲板、梁、甲板下縦桁)、船底構造(単底助板、内竜骨、桁板、二重底内底板)、船首構造(船首材、肘板)、船尾構造(船尾骨材、船尾助板)隔壁構造(隔壁板、防撓材、横桁)などと、これらを連結する肘板、梁柱などを総称する。上部構造(船楼、甲板室)も含む場合が多い。
 船殻は、(1)水圧に対抗して外形を保ち、船に浮力を与え、(2)機関、艤装品の取付台となり、船に行動性と作業性を与え、(3)船員、旅客の住居となり、(4)貨物の格納場所となり、(5)推進・抵抗の面からは最適の水面下船型を維持し、(6)荒れ海の波からの力を受け止め、(7)長年月に亘ってその作用を維持する、というもっとも大切な役割をもっている。船殻に何らかの故障(破損)が起これば、浸水、転覆、船体切断、沈没の事故のもととなり、直接に船の安全が脅かされるから、政府は船舶安全法を制定し、第一番に船体の安全性を要求している。(第2条1項1号ならびに関係諸規則)
 上に説明した船殻の役割を要約してみると、船の形を維持すること(波にもまれたときにひずんだり、ゆがんだりしないこと。剛性という)、外力を受けて破損しないこと(荷物などからの静的な力、波の繰り返し力と瞬間的な衝撃力に対して。強度という)、さらに機関、艤装品の取付座となるための局部的な強さと、長年月良い状態を維持できる耐久性となる。すなわち破損しない(強度)、変形がごく少ない(剛性)が船殻に要求され、耐久性については、鋼材の性質と塗装(防食処理)に関連して要求される。
1.1.2 船体強度とは
 船体強度とは造船学(船舶工学)の一分野であって、船体強弱学または船体構造力学ともよばれ、材料力学(材料の強度、構造要素の強度)および構造力学(構造の強度と剛性)を船体に応用し、船体に特有な構造について、外力のかかり方、各部材に生ずる応力、材料の必要強度、各種接合部(継手・固着)の強度などを研究する学問である。船体振動がこれに含まれることがある。(この指導書では扱わない)船体強度の基礎となるものは、複雑な形をしている船体に波、荷物などからの外力のかかった場合に各部分にどのような応力が生ずるかの計算(強度計算)と、鋼材その他の材料がこの応力に耐え得るかどうかの判定(材料強度、安全率)である。またある場合にはこれらの理論的計算が妥当かどうかを試すために、模型または実船について応力、変形などを測定する実験を行なうことがある。最近、電子計算機技術の発達によって、複雑な構造の応力計算が容易にできるようになったが、船は自然界が相手であるため、まだまだ実験を積み重ねた研究を行なう必要がある。
 船体強度に関する理論の歴史は古く、約100年ほど前から徐々に発達し、今世紀の初めには確立されている。古くからの木船は各地に自然発生的に生まれ、長い間の経験の積み重ねと、伝統的な勘によって作られたのに対し、新しく鉄鋼船が出現し、船の大きさを飛躍的に大きくする必要に迫られて、理論が発展したのである。今日の30万トン、さては50万トンにもなろうとする超大型船の出現は、船体強度理論の発達によるものである。
 従来木船の造修を行っていたものが、鋼船を手掛けるようになるには、以下説明する船体強度および設計の概要を修得し、これを実務に生かし、より優秀な船を、より経済的に建造できるように心掛ける必要がある。勘と経験のみでは限界があり、やはり新しい発展のためには学理にもとづいた設計能力が必要である。
1.1.3 船殻設計とは
 船殻構造の方式を定め、各部材の寸法を求め、図面にこれを書き示すことを船殻設計という。手順としては、まず仮に構造を定め、これにかかる外力を推定し、各部材に生ずる応力と変形を計算し、応力と変形を許しうる限界内に収まり、かつ構造重量が最小になり、確実な工作が行なえることを検討して、構造を決定する。したがって、設計図と計算との間には数回の往復があってよい。(これを試行錯誤、何回も失敗を重ね修正しながら目標に迫って行く方法という)
 しかし、一般の船の主要な構造部材については、船舶安全法による船舶構造規則または海事協会の構造規則(NK、ロイド、エービー)があって最小寸法が与えられているから、これによって部材の寸法が一応決められる。しかし、この構造規則はあくまで普通の構造で、普通の使い方をする船について定めた最低基準であることを忘れてはならない。したがって、小型鋼船でもとくに倉口の長い船とか、重量貨物を積む船とかでは、部材の寸法について割増しが必要な場合がある。また反対に、高速で喫水の浅い船では、構造材の寸法(とくに上部構造)を軽減しないと、船体重量が重すぎて所要の速力が得られない場合がある。船級協会の構造規則は、入級船の条件となり、各協会により少々の差がある。
 それでは、これら構造規則はどうやって作られたかというと、過去の実積船(安全に運航されている船)の資料を用いて構造強度計算をし、応力と変形の値が妥当な値となるように、船の大きさに従って整理し、構造寸法を数式または表の形式で表したものである。したがって、構造規則によって船殻設計のできる範囲は限られており、とくに一般船から外れた船の場合には船体強度の知識が根本になければ、合理的な船殻設計はできないといっても過言ではない。
 
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第1.1図 船殻設計の手順
 
 第1.1図は船殻設計の手順を示したものである。
 船殻設計で画く図面は1.1図に示すように、中央横断面図、鋼材構造図、外板展開図、船尾骨材及舵の4枚が基本的なもので、これらは構造規則にもとづいて構造寸法計算書で計算された寸法を表示し、とくに一般配置図との相互関係に注意し、特殊条件は計算を行い、また船体振動についての検討を必要とする場合がある。
 その他に詳細設計段階で、甲板、隔壁、甲板室などの構造図を画き、これらが工作図のもととなる。
1.1.4 この指導書の意図するところ
 この指導書は、船体強度理論のあらましを説明し、これと船体構造との関係を保ちながら、構造図面の画き方を解説することとした。船殻設計の最終目標は良い構造図面を描くことにあり、良い構造図とは、強度、剛性を満足し、軽量で工作性のよい船殻構造を、分かり易く図示したものである。
 この指導書で引用する船は199トン型貨物船を主とするので、さきに発行された、小型鋼船建造要領−設計要領−(昭和43年3月)を参照されたい。またその一部は、学習指導書第3章にも説明がある。







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