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8. 溶接についてのその他の注意事項
8.1 過大余盛高さの排除
 前述したLWS Q 8101規定値を守ること。過大余盛の得失を列記すると次の通り。
1)溶着金属の強度が母材より低い場合、静的継手強度をカバーする。
2)溶接ビード表面付近に発生し易いブローホール等の欠陥を補完する。
3)局部的な剛性増加により、或いはビード止端部等に応力集中を生じ、特に疲労強度を低下させる。船体の損傷の大部分は疲労破壊であるから、疲労強度を低下させぬ為にも過大余盛は避けねばならない。
4)余盛高さが高くなる程一般には溶接入熱が大きくなり、溶接歪み、収縮、熱影響範囲或いは残留応力の増大を招く。
5)溶接資材消費量増、工数増を招き、コスト高となる。
6)水線下の過大ビードは船体低抗を増加させ、速力低下を招く。
7)外観を損なう。
 
8.2 ブローホール防止法
 特効薬はないが、下記につき十分留意すること。ブローホールの発生原因は水素であり、その水素源としては次のものが考えられる。
1)母材、溶接材料の表面に付着又は吸着した水分、有機物、腐食生成物
2)母材や溶接材料に固溶している水素
3)シールドガス中の水素及び水分
4)アーク雰囲気中に巻き込まれた大気中の水分
防止法
1)指定された母材並びに溶接材料の保管方法を厳守する。
2)溶接開先部の前処理を確実に行なう(酸化被膜、汚れ等の除去)。
3)仮付け溶接から本溶接迄の開先部の保護と汚染防止の徹底。
4)シールドガスのトーチノズル部での露点の管理。
5)溶接ワイヤの円滑な送給が可能なワイヤ送給装置の選択、及びその保守点検。
6)原則屋内溶接。屋外では溶接部での無風環境を作り、シールドガスが流れぬようにすること(風速1m/Sとする)。
7)極力下向溶接姿勢とする。
8)相対湿度85%以上の環境下では溶接不可。
10)極端なロングアークやショートアークは避ける。
11)止端部にはタブ板を設ける。
 
8.3 多層盛り溶接時の層間温度
1)層間温度(次層を溶接スタートする時の前層の温度)が高いと、次の溶接入熱により、溶接ボンド近傍の熱影響部に屡々微小割れが発生する。
 一般に層間温度が80℃以上になると微小割れの発生が顕著となり、継手強度の低下を招く。
2)従って、層間温度は70℃以下とすることを標準とする。
 
8.4 ミグ溶接ビード近傍のスマット(smut:黒粉)除去の要否(図8−1)
 本件については、(社)軽金属溶接構造協会の施工法委員会で研究作業が続けられ、下記結論が報告されている。
1)溶込み形状への影響 影響無し
2)内部品質への影響 〃
3)溶接継手強度への影響 〃
4)耐食性への影響 〃
 以上より、スマット(黒粉)は除去する必要はない。
 
8.5クリーニング作用(図8−2)
1)アルミニウム表面の酸化被膜はアルミニウムの融点約660℃より遙かに高温の2,000℃以上でないと溶けない。この酸化被膜をアークで破壊するのがクリーニング作用。
2)クリーニング作用は母材が陰極の場合に限り生じる現象(陽極側では発生しない)。
3)又、クリーニング作用が起こる範囲は、アルゴンガスで十分シールドされている範囲であり、少しでも大気が混入した領域では発生しない。
4)クリーニング作用が発生するとビードの周辺部が白くなる。
 
8.6 溶接歪み発生防止法及び歪み取り法
 特効薬はなく、従来より述べられている経験的方策や教科書に記載されている方法に依らざるを得ない。
 
図8−1 スマットの実例
軽金属溶接Vol.39(2001)No.3
(社)軽金属溶接構造協会
 
図8−2 ティグ溶接でのクリーニング作用
LWS W 8101 ベース
軽金属溶接Vol.38(2000)No.2,
(社)軽金属溶接構造協会
 
9.クラック、破口の補修法
9.1 線状クラックの補修
a)応急修理の場合は、クラック端部にストップホールをあけ、後、二重張り板を溶接する(図9−1)。
b)クラック先端にストップホールをあけ、クラックをはつり、溶接ビードで補修する(図9−2)。
c)クラック再発が懸念されるところでは、クラックをはつり、面取りをした後二重張り板を溶接し、その後クラック部を溶接する(図9−3)。
d)クラックが複雑で範囲が広い場合は、口を開けた裂け目の補修と同様に、切替え板で補修する。
9.2 口を開けた裂け目の補修
a)応急処理の場合は、極力裂け目が平坦になるようにハンマリングした後、二重張り板を当てる(図9−4)。
b)裂け目の周囲を切り取り、二重張り板を当てる(図9−5)。
c)裂け目の周囲を切り取り、同材質、同一板厚以上の切替え板を溶接する(図9−6)。
9.3 溶接ビード部のクラック補修
a)クラック先端の延長上約15mm離れた位置にストップホールをあけ、その間を完全にはつり取る。すみ肉溶接の場合には、表面に現れているクラックよりルート側の方が大きいことがあるので、注意してはつらなければならない。
b)クラックが貫通していない場合には、はつった側から溶接する。クラックが貫通しているか、又は、はつり取った幅が広い場合は、一層目をティグ溶接するのが良い。
c)すみ肉溶接部のクラックが大きい場合は、骨材毎切り取り、新替えしなければならない。
9.4 留意事項
a)クラックは目視以上に板又はビードの内部で先の方に走っていることが多い。ストップホールはクラック先端より15mm程度先に開けることが望ましい。
b)クラックをはつった後の開先が広い場合には、第1層はティグ溶接の方が楽である。
c)クラックの原因が単に工作不良のみによる時は、補強としての二重張り板は不要。
d)補修溶接を行う近傍の部材の塗膜は完全に剥ぐ。
 
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