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9. 推進器の選定
 高速船の推進器(装置)には、スクリュープロペラとウオータージェット推進装置(W/J)が使用される。3軸推進で、中央軸がブースターとして用いられる場合、或いは主機配置に制約がある場合、両舷軸をプロペラ、中央軸をウオータージェット推進とする等の配置も採られる。
 
9.1 プロペラの翼型の種類
 普通使用されているプロペラのタイプは、エーロフォイル型(翼型)、オジバル型(円弧型)、ホローフェイス型及びスーパーキャビテーション型(SC型)の4種に大別される。それぞれの翼形状や特性については後述するが、これらが使用される速力域の目安はほぼ次の通りである。
 
速力域(kt) 〜25 25〜35 35〜45 45〜
エーロフォイル エーロフォイルオジバル(ホローフェイス) ホローフェイス スーパーキャビテーション
 
 プロペラ選定の計算にはプロペラ設計図表が必要であるが、各プロペラメーカーで自主研究・開発したものは公表されておらず、公表され、一般に使用出来るものはほぼ次の通りである。
 
翼型 設計図表 グループ 記号 翼数
エーロフォイル 運研 U UB 3
UA 4
AU AU 4
AU 5
AUw 6
トルースト TB 3
4
5
オジバル テイラー   3
4
GAWN   3
ホローフェイス NEWTON−RADER   3
クレセント   3
SC SSPA   3
TMB(テイラー)   3,4
     
(注)
NEWTON−RADER及びクレセントはNACA翼型(ホローフェイス)をベースとしている。
 
図9−1 代表的な翼型の断面と翼面圧力分布
(拡大画面:42KB)
 
9.2 プロペラの各翼型の特性
1)エーロフォイル型
●航空機用翼型の開発により、広く採用される用になった。
●プロペラ効率は良好。
●負圧の最低圧力点が前縁近くにあり、かつその圧力が低い為キャビテーションが起こり易い。
●現在では、キャビテーション対策として、ボスに近い部分ではエーロフォイル断面、周速が大きくキャビテーションの起こり易い翼先端部は円弧(オジバル)断面としている。
2)オジバル型
●キャビテーションを起こし難く、製造も簡単な為、モーターボート用として古くから広く使用されて来た。
●正圧(ピッチ)面はキャンバーがなく平坦で、背圧面が円弧形状。
●エーロフォイル型と較べ、キャビテーション発生のない速度領域では効率は若干劣るが、背面の負圧分布に余り大きなピークがない為、キャビテーション性能は良い.
3)ホローフェイス型(NACA型)
●プロペラの高速高荷重時のキャビテーション発生を減少させ、効率を低下させないことを狙った翼型。
●キャビテーションの発生を減少させる為には、翼断面により発生する揚力を翼幅方向に一様に分布させることが望ましい。
●本型は、背圧面の揚力をキャンバーラインに沿ってほぼ一様に分布させるよう、正圧面は平坦ではなく、キャンバーを有するホロー(凹)型となっている。
●このため、エーロフォイル型並びにオジバル型に較ベキャビテーション性能に優れている。
●カップ付プロペラもホローフェイス型の一種と考えて良い。
4)SC型
●積極的に安定したキャビテーションを発生させて使用するプロペラ。
●プロペラ前縁で発生した気泡(キャビティー)が後縁を超えて伸び、背面が完全に水蒸気で覆われた状態で作動する。
●揚力は、他の型の様な背圧面の負圧に依らず、正圧面の正圧による。
●キャビテーション数が低下するにつれ効率が上昇。
5)サーフェスプロペラ
●プロペラボスより上部が水面上に露出したまま作動するよう設計された半没水型プロペラ。半没水のハンディキャップはあるが、推進軸、シャフトブラケット等の大きな抵抗がなく、高速では極めて有利。
●水面から空気を吸い込み、背面が空気に覆われた状態で作動するから、安定した空気吸い込みが行われることが必要(スーパーキャビテーションに似たスーパーベンチレーション状態での作動)。
●翼型はSC型と同様揚力を正面側の正圧により得る翼型。
●プロペラ軸可動型と固定型がある。
6)カップ付プロペラ(図9−2参照)
●通常型プロペラでは、高速時や、急速増速時或いは曳航荷重の大きい時、キャビテーションが発生して性能が低下する。
●これに対応するため、プロペラの正圧面にキャンバーを付けたものをカップと言い、翼後縁のみ折り曲げたものをLip Cup、前縁及び後縁を折り曲げたものをFull Cupと言う。
●加速性は良いが、高速時のキャビテーションは完全には防止出来ない。
●Full Cupプロペラはクレセント型の一種に相当するが、加工が困難であるから、最初からホローフェイス型として設計する方が得策である。
 
図9−2 カップ付プロペラの効果
(拡大画面:30KB)
 
7)ハイスキュープロペラ
●翼が大きな後退角(25°以上)を持ち、プロペラ起振力を減少させるプロペラ。
●スキュー角の定義は下図参照。
●ハイスキュープロペラは、翼の各半径位置でのキャビテーションのピークの位置が揃わないので、ほぼ揃う通常型に較べ、翼全体のキャビテーションの発生量は少ない(図9−3(a)参照)。
●キャビテーション発生のタイミングがずれることで、翼全体のキャビテーションの発生、消滅が平均化され、全体としての水圧変動が穏やかになる。
●スキュー角と水圧変動減少の関係を、図9−3(b)に例示する。40°程度で水圧変動は半減。
 
スキュー角の定義
 
(拡大画面:25KB)
図9−3(a)
通常型、ハイスキュー型のキャビテーション発生パターンの比較
 
(拡大画面:14KB)
図9−3(b)スキュー角と水圧変動減少量の関係
ナカシマプロペラ資料







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