日本財団 図書館


6. 船殻重量の推定
 高速船では速力に対する重量の影響が極めて大きいから、極力重量軽減には配慮しなければならない。唯、艦艇等と異なり経済性を無視する訳にはゆかないので、例えば軽め穴を明ける範囲等についても費用対効果の面から判断する必要がある。パイセクションを使用する場合も、単に溶接歪み防止のみに捉われず、重量軽減の得られるパイセクション材選定の設計を行わねばならない。
 速力に対する重量の影響の目安として、排水量1t当たりの速力変動を見ると、勿論船型にもよるが、ほぼ下記のようなレベルになる。
 
LOA(m) 15 20 30
速力変動(kt) 0.6 0.4 0.3
 
 小型船では船・機・電全ての重量を手計算で求めるのはさほど困難ではないが、初期設計時には時間的制約もあるから、類似船の実績データから略算するのが実際的である。然し此の種データは殆ど公表されないので自社で計算データを蓄積し、又、数少ない他社公表データと自杜実績とを対比させつつ逐次データを整備して行くことが肝要である。
 
6.1 旅客船の船殻重量
 サンプル数は少ないが、限定沿海以下の旅客船の船殻重量を図6−1に示す。高速船の重量比較の場合、メジャーには船の全長LOAと型幅並びに型深さを用いたLOA×B×D及びLOA×(B+D)を採用することが多い。図6−1では、旅客船の船殻重量をLOA×B×D=CNで除した係数Caは、大部分が0.3〜0.5の範囲にある。
 一方、軽荷重量に占める船殻重量の比率を見ると、図6−2に示す様に0.03〜0.05の範囲に入るものが多い。船殻重量情報が少ない場合、比較的公表データの多い軽荷重量情報から粗見当をつけるには、本図は参考になるかも知れない。
 一般に高速になるにつれ、機関部の比重が高くなり、船殻重量の比率は小さくなる。又、船室等が高仕様になると、同様に船殻重量の比率は減少する。
 又、旅客定員増や客室の高仕様化により、近年船の重心が昇する傾向にあり、KG/Dが1.0を超えるものも増えて来ている。これが直ちに危険につながるものではないが、上部の重量軽減を軽視してはならない。
 船の重心の前後方向位置は浮力中心とも関係し、船の静止時及び航走時のトリムに大きな影響を与える。抵抗最小航走トリムも念頭に置く必要がある(2.4 滑走艇の抵抗参照)。
 何れにしても、重心位置は線図作成時に浮心位置と連動させて適正位置に来るようにする。一般には軽荷時の重心はφより後方にあり、が5〜10%(平均5%)程度の位置にあるようである。
 
6.2 漁船の船殻重量
 漁船の船殻重量は、操業海域(地域)、漁種並びに船型及び船主要求等による変動が大きく、平均的指標を定めるのは困難である。例えば北海道周辺の漁船は氷海中の航行及び操業を考慮した、構造基準値より過大な部材寸法のものが多い。
 従って、漁船の船殻重量を推定する場合は、仕向け地毎の情報に基づく資料・データを使用する必要がある。
 マクロ的ではあるが、漁船のCN〜Caパターンを図6−3に示す。
 
図6−1 CN〜船殻重量比Ca(旅客船)
(拡大画面:26KB)
 
図6−2 CN〜船殻重量比CH(旅客船)
(拡大画面:28KB)
 
図6-3 CN〜船殻重量比(漁船)
(拡大画面:12KB)
 
7. 舵
7.1 舵面積
 舵面積比(AR/LWL×d)は高速になる程小さくなる。これは高速になる程転舵と同時に船尾がドリフトし、舵への水流の有効流入角が小さくなることによる。高速船の実績では1/30以下のものが多い。
 必要以上に舵を大きくするとコスト高になるだけでなく、抵抗増を来たし、高速船としての性能を損なうことになる。舵心より前部と舵の全面積との面積比即ちバランス比(AF/AR)も25%以下とする。高速船では転舵すると小角度でトルクがバランスするから、バランス比を大きくすると逆にオーバーバランスする。
 図7−1に所要舵面積の算定式の一例と、計算値並びに実績値を示す。
 
図7−1 所要舵面積(Ar)の算定式と実績値
(拡大画面:26KB)
 
7.2 舵の配置等
 2軸2舵の場合、舵位置は推進軸抜き取りを考慮して、軸心より100〜200mm側方にずらす。方向には特に意味はないが、通常は船体中心側にずらすことが多い様である。
 1軸高速船ではシューピース付スケグ船型が多いが、この型ではシューピースの剛性が不足勝ちとなり、2点指示とは見なされないことが多く、この場合には舵は実質的には吊り下げ舵として扱うべきである。又、2軸船にはスケグがないのが普通であるから、1軸船でもスケグなしの吊り下げ舵とすることが出来る筈である。この方が抵抗も大幅に減る。必要なら浅いスケグを付ければ良い。
 舵板はSUS又は軟鋼製とする。複舵板は空気吸い込み、キャビテーション、溶接部亀裂を起こし易い。舵設置位置をトランサムに近付け過ぎるとエアドローを起こし、方向不安定となることがあるから注意が必要である。高速では楔型断面の舵が有利である。アスペクト比はプロペラ後流を利用するため1.5〜2.0となる。アスペクト比が大きいと小角度での直圧力は大きいが、早くストールする。部材寸法は各摘用ルール又は基準により計算する。
 
8. 速力と主機関出力の推定
8.1 主機出力と推進力の関係
 船が前進するためには、船の受ける抵抗と大きさが等しく方向が反対の推進力が必要となる。この推進力は、主機関が船体抵抗の外、推進装置系で発生する各種の仕事損失(ロス)に打ち勝って船を前進させる動力により提供される。主機出力と推進力の関係を図8−1に示す。
 
図8−1 主機出力と推進力の関係
(拡大画面:41KB)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION