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2. 表示記号
 頻繁に使うものは、覚えてもらって、簡単に書けるように効率を、逆に、たまにしか出なければ、多少面倒でも分かり易さを優先する。また、記入する道具や工作法の進歩に合わせて、変えていく。
 NC切断では開先切り機能の有/無で表示は異なるし、極論であるが、小組立・取付ロボット開発研究の結論では、マーキンの一切が不要というものであった。
 表示が、用語化、記号化されてないときは、簡潔に自由に文字や略図で表現した「能書」を入れればよい。
 造船所によっては、素材の指定:鋼種・板厚・寸法・プライマー塗装・・・の表示を必要とするが、本書では、設計指示や管理帳票にも絡むことであり、説明を省略する。
 
2.1 切断
2.1.1 切断線マーキン位置
 部材端か、切断火口位置か、どちらにするか・・・によって切巾(ガス道)の半分だけ違うことになる。
 [図2.1.1 切断マーキン線と切巾]で:−
 (On)切断線=切断火口経路
 (At)切断線=部材外周(火口経路は一点鎖線:マーキンされない)
を示す。図の切断線に付した△マークは、直切の符号。黒塗部分が切巾である。
 切巾は、ガス溶断では、2〜4ミリで、火口種類や切断板厚により差が生じる。
 切断は(At)では、部材の内/外を見分けねばならないが、(On)なら、その必要はなく、ひたすら線上をトレースして走ればよい。
 二つの部材の外周を合わせて、一度に切るのを「共有辺切断」というが:−
 (On)なら、一本線(ただし外周は半切巾の減少)で示せるが、
 (At)は、正確には切巾分空けた2本の平行線をマーキンすることになる。
 
図2.1.1 切断マーキン線との切巾
 
 かつての大方の造船所では、この問題を暖昧なまま放置し、半切巾1〜2ミリは切断誤差の範疇として無視してきたのではないだろうか。
 もしマーキンが(At)のつもりなのに、切断が(On)で行われたら、切巾分のマイナス2〜4ミリが生じ、これに切断線のトレース誤差(±1ミリ)が(−)に働けば、部材の種類によっては、誤作となろう。3ミリ以上のギャップは増し脚長ではカバーできないからである。
 では次に、部材の種類によっての問題を眺めてみよう。
 
 事例として、桁板の防撓材を[図2.1.2 部材寸法の過不足]に示す。
 図の(+):材料巾寸法の不足は許されない。図面指示通りが要求される。この防撓材が帯鋼取材なら、若干(+)側にロールされているので、(−)は起こらない。問題は板からの「單品個別ネスティング切り出し」や「プレーナー裁ち帯板への取材」にある。
 逆に図の(−):防撓材クリップ端は、僅かにギャップが空く程度の短さがよい。ほんの僅かの(+)でも、組み付け時に「当たり」が出て、再切断することになる。現場で火を入れると、増し脚長の要る嫌なギャップとなりがちだ。更に注意したいのは、クリップ端が載る形鋼がまた(+)素材で、その分の(−)も見ておかなければならないことである。したがって、この防撓材長さの最適(−)量は、素材/切断の両精度の統計的な調査分析をしないと解らない。
 
図2.1.2 部材寸法の過不足
 
 このように適切な部材切断仕上がりを求めるには、現図の外周形状線を与えるだけでは、>マーキン>切断・・・と続く次工程への情報としては不完全と言える。
 だから数値現図での優れたシステムは、NC切断に限らずに「切巾補正」の機能を持つし、上記の精度管理に必要な「端部補正」や、溶接収縮を補償する「延べ尺処理」も付加できるようになっているはずである。このとき補正前の「原寸」を、特に「ネット寸法」と呼んで区別している。
 さきに『1.1 型・定規の機能』で、1.1.1 形状の伝達、として「型定規は少なくとも現図通り正確に作成される必要がある」と規定したが、これはあくまで手作業ベースの現図の話なのである。作画現図では、そのような補正の取り扱いはできない。
 アナログの限界とデジタルの優位は、ここでも明らかで、『1.3 現状の問題点』で指摘した1.3.2 手作業作画とコンピュータ処理の混用・・・を嫌う理由の一つに数えたい。
 
 したがって、手作業での「現図>マーキン>切断」工程での約束事は、次のように統一する程度が現実的であろう。
 
1)現図職は、仕上がり形状「原寸」で型定規を作る。
 但し(−)になってはいけない所には、切断後の「仕上がり寸法」を指定する。
2)マーキン職は、「仕上がり寸法」指定の所のみ切巾分(+)してマーキンする。
 他は「原寸」通りに型定規をコピーする。
3)ガス職は、マーキン線上に火口を定めて切断する。
 
 こう決めれば、現図職は切巾量を知らなくてよく、型定規は、切巾の異なる加工先に共通になる。マーキン職とガス職は隣接した作業場なので、切巾での連携はうまく行く。
 一般に「仕上がり寸法」を指定するのは、「巾裁ち」される部材:平板スキン、フェイスプレート、フラットバー・・・であり、設計図にスカントリングとして明記されているものと把らえてよい。その他は、切巾分(−)しても許容とするのである。
 
 仕上がり寸法を指定する定規例を示そう。
図2.1.3 帯鋼取材のF.B定規
帯鋼寸法が指定されている。もし板材から巾裁か、ネスティングして取材するときは、巾100が確保されなければならない意味となる。ちなみに、左端Sは標準のスニップ。右端「切ド」は実角表示の規約で、コーナーに標準スキャロップが要る。
 
図2.1.3 帯鋼取付材のF.B定規
 
図2.1.4 巾裁ちのFc.PL定規]
巾×長さ兼用で、幅は原寸と寸法とのダブル表示になっている。ここでの左端STは、T付きFc.の標準のスニップ。右端は後述するが、反マーキン面の標準V開先。
 
図2.1.4 巾裁ちのFc.PL定規
 
図2.1.5 皮板巾定規]
図は左端のみ。2m幅素材からプレーナー仕上げする設計寸法幅が、原寸と併せて示されている。仕上がり板縁はマーキン面Y開先。右端も同じ要領、広くなれば見落とさないように両端併記にする。
 
図2.1.5 皮板巾定規
 
 ちなみに、ガス溶断が切断手段として登場した初期、なぜ切巾が問題とされなかったのであろうか。
 当時、「巾裁ち」はシャリング、そしてエッジプレーナーで引っ掻くのが、主流。
 その他がガス溶断に移ったが、まだ型用フイルムのない時代、木型に墨差しを沿わせてマーキンすると、ひとりでに切巾分ほど(+)になったからではないだろうか。
 もっとも、その頃の精度意識が貧しかったのも確かである。
 
2.1.2 開孔
 構造部材には、各種の開孔がある。[図2.1.6 開孔と表示]参照。
大別すると:−
1)部材内部にある開孔
 MH:マンホール、LH:軽め孔(ライトニングホール)
2)外周沿いにある開孔
 AH:空気孔(エァホール)、DH:水抜孔(ドレンホール)
3)外周沿いにある「半」開孔
 スロット類、スキャロップ類になる。「半」としたのは、完全な開孔でなく、外周の一部をなすからである。
 これらの開孔形状は、各造船所にて標準化され、治具マーキンか治具切断、または型倣い切断とされることが多い。この項では、スキャロップ類についてのみ説明し、他は後述の2.1.13半自動切断の項に譲ることにする。
 
図2.1.6 開孔と表示
 
演習題:−
 こんな半開孔のような紛らわしい取り扱いとせず、NC切断トーチが走るように外周そのものとしたほうが判りやすいのでは?・・・利点/欠点を比較せよ。
  
 
 スキャロップの種類と表示要領:−
 オープン・タイプ:−
●(半円)スキャロップ:板継溶接線を通すトンネル形状孔
●コーナースキャロップ:隅肉溶接線を通す1/4円孔
 
 いずれも、AH、DHの機能も持つ。型定規表示は、部分円弧状なぐり描きに半径数値を添える。最も多い一般的な半径の表示は、省略:デホルトに決めておくと効率的。例として[図2.1.3 帯鋼取材のF.B定規]の右端部のように単純になる。
 クローズ・タイプ:−
●水切スキャロップ:部分的にルートギャップ付45度レ形開先を設ける。
 目的は二つある。一つは、水密部材に板継溶接線を通し、板継溶接完了後に開先内「わかし込み」で埋める。もう一つは、水密のため「わかし込み」溶接で、隅肉溶接部の「つたい」の縁を切る。
●ビードスキャロップ:板継溶接が先に完了していて、盛り上がったビードがある。その上に部材を取り付けるとき、ビードをハツリ取る代わりに、前もって盛り上がり分だけぬすんで削っておけばよい。
 いずれも、オープン・タイプのように巻き溶接がないのも狙い目である。詳細形状は標準化し、対応する型定規ならびにマーキンの表示要領も[図2.1.6 開孔と表示]に例示するような取決めが要る。
 
図2.1.7 隅切と表示
 
 このクローズ・タイプのスキャロップを、板継溶接版とすれば、その隅肉溶接版は「隅切」である。[図2.1.7 隅切と表示]参照。
●ビード隅切:ビードスキャロップに対応する。隅肉脚長分だけ角を落とす。
●水切隅切:水切スキャロップに対応する。レ形開先わかし込みとなる。
 これら隅切要領も、クローズ・タイプ・スキャロップに同じく標準化が必要不可欠である。また、これらの現図指示に関しては、前もって組付けと溶接の順序と水切の部位・・・が決まってなければならない。
 
演習題:−
 組立溶接順序・水密要領の決定は、現図技術の範囲か?・・・でなければ、どこで?
  







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