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3−3 環境に優しい技術
 
 1999年以来、クルーズ船産業をはじめとする各種運航会社から、煙や煤塵などの可視的な排出ガスを削減する技術開発の要請が強くなってきた。このような声を契機として、Wrtsil社は、世界最大のクルーズ会社であるCarnival社との共同開発の協定を結び、EnviroEngine(Wrtsil社の環境対応仕様エンジンに対するブランド名)の設計を開始した。EnviroEngineの特徴は、Common Rail Injection(CRI:コモンレール式電子制御燃料噴射システム)を活用させ、エンジン負荷に関わらず可視的な排気ガスを除去させることができることにある。以前に開発されたCRI技術でのエンジン負荷の変動に伴う効率が大きく左右された。特に20%以内の負荷率にはほぼ無効であった。このCRI技術は電子制御により燃料を噴射させていたため、燃費効率の向上やNOxなどの不可視的な排出ガスをも減少させるという利点がある。
 
 又は、水直噴射技術(Direct Water Injection)や簡易な選択触媒還元技術(Compact SCR)をも組み合わせることにより、これまで難題とされていた煙を排出させないでエンジン始動を可能とする特長も有する。現在、既にEnviroEngineはCarnival社のSpirit級の一部舶舶において、実船で搭載稼動している。
 
 SOx削減技術に関してWrtsil社は、舶用ディーゼルエンジンに適応できる方法として、アルカリ洗浄方法と半乾式脱硫システムの適用について検討を行った。この2通りの方式について比較検討した結果、アルカリ洗浄方法の採用を決定し、1993年から1996年に亘ってその実用化について研究開発を実施した。しかしながら、陸上用と比べて小規模となる舶用への適用には、費用対効果の面でメリットが見えないとの結論に達し、この方式は今もって普及していない。
 
 Wrtsil社は、他のエンジンメーカー同様、1990年代から、市場ニーズの力であれ、規制の強化であれ、NOx削減技術の開発の必要性を十分理解しており、それに向けた研究開発を進めてきた。既にMARPOL条約附属書VIに定められた排出制限値を超えるエンジンを開発したが、さらに、燃焼過程を徹底的に研究してエンジンの最適化を行った結果、35%強のNOx削減を達成した。この研究を通じて、4ストロークエンジンの燃費効率の改善にも寄与することができた。
 
 NOx削減技術には、一次的方法と二次的方法に分けられる。一次的方法には以下の手法が含まれる。(1)NOxそのものの形成を防ぐ水蒸気の使用、(2)主として煤煙の削減を狙ったコモンレール式燃料噴射技術の使用、(3)低NOx燃焼の使用、(4)重油ほど燃焼した際にNOxを発生しない代替燃料(主として天然ガス)の使用。これに対して二次的方法では、SCRを使用する。1990年から6年に亘ってバルチラ社は、アンモニアと尿素の両方を使って、SCR技術を駆使したテストと基準化実験を徹底して実施した。これらの実験では、対象を主に硫黄含有率の低い重油と軽油に絞っている。実験の結果、SCR技術がNOx排出量を85%から95%まで減らすことが可能である事実が判明した。4ストロークエンジン向けとしてWrtsil社は、解決策としてコンパクト化されたSCR装置の開発を行なった。この小型装置は、サイレンサーとSCR装置とが組み合わされた仕様でありながら、通常のサイレンサーとほぼ同じサイズとなっている。これは、客船、クルーズ船、フェリー、RO/RO船のように、機関室のスペースが最優先される船舶にとって、特に有利となっている。
 
 Wrtsil社は、現在のところ、SCRを使用する二次的方法よりも、一次的方法において、既存の技術をすべて平行して活用するという手法に焦点を当てている。すなわち同社では、(1)シリンダ内燃焼制御システム(低NOx燃焼)および(2)燃焼チェンバーに直接水を噴射する技術(直接水噴射)の二手法によるディーゼルエンジンNOx削減対策を開発している。(1)の低NOx燃焼技術を使用すると、エンジン特有の燃費に影響が全く及ばないか、あるいは多少の燃費改善をともなって、25%から35%までNOx削減が達成できる。一方、(2)の直接水噴射方法では、50%から60%までNOx削減が可能となる。Wrtsil社は、排ガス削減技術開発を1990年代初期に開始しているが、1999年まて製品化には至らなかった。現在、Wrtsil社による排ガス削減技術を取り入れたエンジンは、既に船舶に搭載されたものと受注済みのものを合わせて50基に及んでいる。
 
3−4 今後の動向
 
 現在Wrtsil社で開発中の技術は、以下の通りとなっている。
 
1. NOx排出削減を狙った設計の空気飽和燃焼システム
2. NOx、CO2排出削減を狙った設計の蒸気噴射ディーゼルエンジン
3. NOx、SOx、CO2排出削減を狙った設計の二重燃料エンジン
4. 2ストロークエンジンで燃費を犠牲としない、排気ガス再循環(EGR)内装および水噴射を組み合わせた、特殊NOx排出削減システム
 
 さらに同社では、非常に安価であり、従来の燃料より水分含有率が高いため結果としてNOx排出がより少ないという利点があるオリマルジョン(Orimulsion)6という代替燃料を研究している。ただし、このオリマルジョンでは、重油を燃料とした場合と同じく、他の排出物が出てしまうという欠点がある。それにも拘らず、陸上における発電実験に使用された初期結果では良い成果が出ており、将来が期待されている。
 
 Wrtsil社では、環境保護問題における焦点が二酸化炭素やメタンのような地球温暖化ガスに移行しつつあることから、次の課題は排気ガス中の微粒子群となると予想している。しかしながら、舶用エンジンの観点からすると、二酸化炭素排出削減は、それほどの問題ではないとされている。むしろ陸上交通エンジンの排ガス規制において、二酸化炭素削減にプレッシャーがかけられてゆくと思われる。その上、二酸化炭素の生成は直接エンジン効率と比例するため、二酸化炭素排ガス削減対策は、同社としても商品開発において常に取り組んできたテーマでもある。Wrtsil社では、排ガスに含まれる有害物質全部を重視しているが、使用される燃料によって対策が可能であることから、SOx排出量削減に関してだけは、優先順位は低く設定している。
 
 Wrtsil社は、既存エンジンの改善と新機種開発の両方において、環境保護性能を最優先としている。新しい、より効果的なNOx削減技術の開発を継続すると同時に、同社は、煤煙を除去する技術の開発にも積極的に取り組んでゆくとしている。
 

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0rimulsionは南米ベネズエラのオリノコ瀝青と水を混合された燃料である







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