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2−3 排ガス削減対策
 
 1970年代以来、舶用エンジン(陸上の動力設備とは異なり)に関しては排出の制限が無かったにも拘らず、MAN B&Wグループでは2ストローク、4ストローク両エンジンからの排気ガスのテストや計測を行ってきた。また、IMOで合意された規則に合わせて、NOx排出削減に関して更に研究開発が進められている。新しいエンジンの開発ばかりでなく、研究開発事業部門では、既存エンジンの性能、寿命及び、運転改良に尽力している。目標は、エンジン効率の低下を最小限に抑えながら排ガス量を減らし、またエンジン設置・運転コストの増加を最小限に抑え、エンジン運転をいたずらに複雑化することを防ぐことである。
 
 陸上動力施設からの排ガス制御規制に従ってきたため、MAN B&Wグループではかなり長期間排ガス削減の研究を行ってきたことになる。それ故、同グループでは、この核となる技術を開発してきており、それを海事環境における独特な要件に適応することが出来るのである。
 
 同社は1998年以来、同社エンジンがIMOで合意された規則をクリアできることを確認するために数々の船級協会と協力してきた。その結果として、格付けコストは最小限に抑えながら、その一貫性を確保するためライセンシー各社が生産活動に必要とするエンジン格付けテンプレート、あるいは技術資料(Technical File:TF)が開発された。船級協会、ライセンシー各社など関係者全員にとって、この一連のプロセスが貴重な経験となったことが報告されている。
 
 実際にMARPOL条約附属書VIは、技術資料(TF)の確立に必要な詳細にわたる指示を提供しておらず、それが原因で、エンジンメーカーは異なる船級協会の異なる要求に基づいて、多岐にわたるTFを作成する羽目になった。MAN B&Wグループが開発した統一型TFは、ライセンシー各社と船級協会の両方が使用できる共通のフォーマットを確立した。これはまた、船主にとっても、後日、エンジンの部品交換や調整が必要になった時に必要な手順を確立することとなった。
 
 MAN B&Wグループの基本的アプローチの土台となる原則は、定義された「NOx成分」とエンジン性能データによって、エンジンがNOx排ガス制限に適応しているかどうかを示すことが可能であるというものである。過去においては、エンジン性能データではなく、部品設定許容値を使っていたライセンシー会社もあった。しかし、運航会社が部品の交換やエンジン調整を行った場合、後に海上で適合性を検査される際に、エンジンが適合状態にないことも有り得る。そのような場合でも、MAN B&Wグループが確立したTFに従うことによって問題の原因が解明され、NOx排ガス規制適合を遵守することができる。
 
 このアプローチの一貫性は、認証コストと排ガス量監視コストを最小限に抑えるばかりでなく、エンジンがIMOで合意された規則に適合していることと、その適合性を容易に提示することが可能となるため、顧客は安心できるのである。
 
 IMOで合意されたNOx技術コードでは、エンジンを以下の三種類に定義している。
 
・エンジン単体(Single Engine)
・エンジングループ(Engine Group)
・エンジンファミリー(Engine Family)
 
 エンジングループとエンジンファミリーは、中心となる親エンジンと、多数の子機エンジンで構成される。単体エンジンと、親エンジン用に設定された検査手順はおおむね同じである。グループ/ファミリーの中で、親エンジンの排ガス試験を行えば、一群の残りのエンジンは必ずしも必要ではなくなる。MARPOL条約附属書VIに適合した構成部品や設定に関連する部品交換および設定変更は全て、異なるタイプの変更に関連してMAN B&Wグループが用意した基準書によってカバーされている。
 
 検査の方法には、其々のケースで基準となる手順書に沿って行われる工場検査、海上検査及び、船上検査が含まれる。工場でのエンジン検査は、検査方法の基礎となるもので、将来の検査の参考となるベンチマークを確立するものである。構成部品の交換や設定変更なしで行われる海上検査及び船上検査では、そのエンジンの適合性を証明するため、NOx構成部品チェックを行なえば充分である(すなわち、エンジン構成部品がオリジナルの物であるか如何かを証明するために、エンジン構成部品のシリアル・ナンバーをチェックすればよい)。構成部品の交換または、設定の調整変更が行われた場合は、全書類の検査が必要となり、その結果は将来、参考資料として使用される時のため、記録されなければならない。
 
 ライセンス生産されているものを含めて、MAN B&W社のエンジンは全て、IMOの規則に適応可能である。ただし、一部のエンジンは環境保護よりも利益を優先するがために、現在のところIMOの規則に適合する方法で運転されていない場合があると考えられる。もし、MARPOL条約附属書VIが発効となった時には、比較的マイナーな改造をもってエンジンを適応させることができるようになっている。同社では、更に低排ガス性能を誇るエンジンを製造することは可能であるが、生産コストと運航コストが現行モデルより高くなるため、顧客には受け入れられないだろうとしている。
 
2−4 今後の動向
 
 環境保護関連の改善策を模索し続ける間にも、MAN B&Wグループでは特にエンジン運転効率に焦点を当てている。なぜなら、エンジン運転効率改善が結果として環境保護に繋がることが多く、また同社としては、より環境に優しいエンジンを手頃な価格で購入してもらい、納得のゆく運転コストで愛用してもらいたいと望んでいるからである。スウェーデンの船主たちは、環境保護に大きく貢献することができるならばコスト増加もやむなしとするスタンスを取っているが、他の船主がスウェーデン船主のリードに従う傾向は現在のところ緩慢であり、しかしながら多少は環境保護を優先するアプローチに対する興味が鼓舞されている兆しはあると言われている。
 
 MAN B&W社は、米国によるリードに従って、将来の傾向は市場ベースの流れよりも規制によって決まってゆくと信じている。2002年夏にアメリカ環境保護局(EPA)は、IMOの案より更に30%厳しいNOx削減案を提案した。この環境保護局(EPA)提案レベルでNOx削減を達成するためには、前述の一次的方法だけでは不十分であり、SCR等の使用による二次的方法が必要となるのは間違いないとされている。MAN B&W社では、燃料噴射システムのレイアウトによっては、水の直接噴射あるいは水エマルジョン実験を経て、NOxの40−50%の削減を達成できると考えている。MAN B&W社の経験によれば、50%以上NOx削減を達成するには、NOxを80%以上削減できるSCR装置を使用するしかない。環境保護局(EPA)の上記規制案は現在、米国国会での審議を経て、2003年前期には発効すると見込まれている。
 
 MAN B&W社では、MARPOL条約附属書VIが2003年春には批准され、その12ヵ月後に発効すると予想している。また同社では、この後5年以内に、更に30%の削減が規制要件となると予測して、排ガス削減方針が強化される方向に向かうと見ている。この削減率は任意の数値ではあるが、顕著な排ガス削減を狙う意図を仄めかすものと思われる。同社では、当初の目標値を設定するには時間がかかるが、目標値の変更には余り時間を要しないと考えているのである。
 
 MAN B&W社は、排ガス規制における次の課題として、NOx削減より更に困難な、一酸化炭素(CO)と炭化水素の排出量削減が議題に上ってくると予想している。







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