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3.3 解撤動向と新造船の乖離
 以上の2節からして、最近の解撤動向と新造船発注には若干の明白な乖離が見られる。タンカーについては以下の通りである。
 
・ULCCは解撤が進みながら新造は僅少:2002年に3隻のULCCが引渡されたが、これは1983年以来初めての新造で、これが新規発注意欲の復活のさきがけとなる予想はない。1隻が竣工に近づいているが、後続については商談の報道すらない。この船型区分は急速に縮小が進んでいるが、現実的な補充の見込みはない。その主因は、ULCC運航の機会が非常に限られていることにある。近年ULCCの起用は主として中東ガルフ(MEG)/USガルフ間の輸送と、MEG/紅海間の短距離航路に限定されている。ヨーロッパ向けの用船も減少気味で、1980年代前半からMEG発東航トレードには食い込む余地がない。
 
・VLCCの解撤は2000年以降増加し、同年には26隻が解撤され、ダブルハル規則の施行により今後も高い水準が予想される。この趨勢を恐らくさらに強化する要素として、「プレスティージ」号の沈没以後、一部の用船主がシングルハル船を忌避する傾向が一段と高まったことが挙げられる。この点を考えるとVLCCの発注残は、a)他の船型のタンカーの発注残と比較して、またb)2010年までの間に多数のVLCCが解撤される見通しに対して、かなり少ないといわざるを得ない。現在のところ61隻、18.5mdwtが発注されているが、これはトン数ベースで現有船腹の14%をわずかに超える程度の量である。新たな発注意欲を起させるもう一つの要因は、近年VLCCの運航上の柔軟性が増し、中東の積取地域への依存度が低下したことである。西アフリカ、北海、そして(時には)ベネズエラからのVLCC運航が増加したことから、揚地がスエズの西であれば復路にも貨物を運ぶ機会が期待できる。このため船主は所有船の載荷状態(すなわち収入を上げる状態)をそれだけ長く維持することができる。VLCCはまた、OPECが過去2年間しばしば適用してきた生産制限、そして/またはイラクに対する輸出制限がやがて撤回されれば、その恩恵を最も大きく受ける船型でもある。一方、VLCCには非OPEC地域、すなわち西アフリカ沖の新積取ターニミナルや構想中のムルマンスク(ロシア)のVLCCバースからの積取機会が増大するに違いない。それでもなお、既に発注済の船腹量からして、これらの新積取地がVLCC全体の輸送能力に過大な負担をかける見通しはなく、従って将来の新規発注はそれだけ制約されることになろう。
 
・スエズマックスについては、トンマイル・ベースの稼動率が高いことに加えて、アジアにおけるスイート軽質原油の需要が高いことから、過去10年間、スエズ以東における稼動が増加した。さらに、米国の西アフリカ原油輸入増や北海、黒海、東地中海発の稼動機会が増えたことから、1990年代ではこの船型の新造が活発化した時期が多かった。従って、スエズマックス船腹のダブルハル船による補充はほぼ完了し、残存するシングルハル船は比較的少数に過ぎない。そうではあっても、そのためにスエズマックス新造投資に水が差されることはなく、多数が2005年以前の引渡しを待っている。しかしながら、この船型では旧型船が比較的少ないことから、2003−4年に多数の新造船が引き渡されても、それに対応して解撤が大きく進むことは考えられない。
 
・原油輸送の「馬車馬」として、アフラマックスは大抵の主要地域を積地あるいは揚地として広く運航されている。2000年以降、旧型船の解撤は比較的進んでいるが、過去2年間の新造発注急増のペースがそれを追い越している。既に発注されている膨大な数のアフラマックスは、OPECがさらに生産制限を実施したり、中東で軍事行動があってイラクからの輸出が止まったりしない限り、なかなか吸収され得るものではない。これらの要因はいずれも2003年におけるこの船型の需要をさらに低下させ得るものである。この部門では引き続きさらに大量の解撤が行われる可能性はあるものの、2003年には2002年の予測値1.7mdwtをさらに上回る船腹純増が見込まれる。これは運賃市況の回復を遅らせるものであるから、2000年代後半における発注意欲をさらにくじくことになる。a)OPECが2001−2年における生産削減の方針を逆転させて、ベネズエラ等の加盟国からの積取量増加を認めたり、かつ/またはb)世界の石油需要の伸びが2002年の緩やかなペースを大きく上回るという自体が生じない限り、この見通しは成立する。アフラマックスの稼動を増加させるもう一つの要因は、FSU(旧ソ連)からの石油輸出がまた大きく伸びる年が来るとすれば、そういう時期的要素である。また、別の見通しとして、アジア経済回復のペース如何によるという見方もある。2003年に回復に弾みがつき石油化学工業を再活性化させれば、最重要なMEG/極東・アジア航路の貨物量、船腹需要が増大するに違いない。アフラマックス部門全体としては、1980年代建造船が急速にフェーズアウトしない限り、現在の発注残からして船腹供給が逼迫することはあり得ない。
 
・前章3−2に指摘したように、過去3年間、新造意欲が回復したにもかかわらず、パナマックス部門には依然として多数のシングルハル船が残っている。この船型はダーティ石油製品に大きく依存しているため、重質燃料油の輸送をダブルハル船に限定するというEUの最近の決定に影響されるところが特別大きい。この決定の結果、2003年1月1日から、この船型はバルチック、地中海、黒海発の稼動機会が減少することになり、旧型の船舶はEU加盟国に貨物を運ぶことはおろか、EU領海を通過することさえ許されなくなるため、代りの運航機会は狭く限定されてしまう。このため2003年には解撤がさらに加速するものと思われ、石油会社から承認されない船は特にリスクが高い。しかし、シングルハル船の供給量が減れば、2003−4年に船腹量純増の見通しがあるにせよ、新型船にとっては将来のトレード条件改善の助けになる。そうであれば、これは改めて新規受注を刺激することになるかもしれない。42
 
・ハンデイマックス・タンカーについては、2001−2年の大量新造発注があった一方で、解撤はごくわずかに過ぎず、船腹量は著しい純増を示した。一部情報によれば、ハンディマックス・タンカーの船腹量は今年1.1mdwtの純増となり、2003・4各年にはさらに大きな純増が予想される。43従ってこの船型区分は、タンカーの他のどの船型よりも船腹過剰のリスクが大きいと思われる。旧型船が少数であるため解撤の余地が限られていることもこれに拍車を掛ける要因である。しかしながら今後数年間にハンディサイズとパナマックスのシングルハル船が大規模に解撤されれば、ハンディマックスがダーティ油のトレードに参入する機会は増えるかもしれない。さらに世界的に石油需要が回復すれば、長距離のクリーン製品のトレード需要を喚起するものと思われる。これはアジアの精油所のみが、処理量の大幅増を賄えるような余剰能力を具えているからである。すなわち大西洋地域の石油需要が回復すれば、アジア産の石油製品の供給増を受入可能となり、ハンディマックスや大型のプロダクツ船のトンマイル・ベースの需要を嵩上げすることになろう。
 
・ハンディマックスとは対照的に、ハンディサイズ部門では解撤量が大きく、新規発注が少なかったため、船腹量は純減を記録した。現有船腹は2002年に約0.2mdwt縮小する見通しで、2005年より前にさらなる縮小が見込まれる。VLCC同様、現在の受注残は現有船腹量の14%前後に相当する。しかし現有船腹では15年超の、従ってシングルハルの高齢船の比重が大きい。うち多数は、特にEUが重質燃料油の輸送に課そうとしている新たな制約もあって、2010年までにはフェーズアウトされる。しかし揚地、積地の港では喫水に制約があり、また多数の用船者が引き続き30,000dwt以下の船を好むことから、この船型に対する需要は消えることがない。様々なトレード・パターンに対応可能で、また大型船の新造価格と比較して取得コストの絶対額が低いことと相俟って、新規発注意欲がある程度再燃するに違いない。さらにこの需要は、一部の航路において少なくとも(ダブルハルの)新型ハンディマックスの大量な供給との競合が予想されるにしても、EUが重質燃料油の輸送にシングルハル船の使用禁止を発表する以前に予想されていたものよりも高いものと思われる。
 
ドライバルク部門では:
 
・前章3−2から明らかなように、ハンディサイズの大規模解撤に対応するような、大規模代替発注があるわけではない。それどころか、この船型区分の縮小は、2001−2年の大量解撤の中で継続したものである。ハンディサイズの船型構成からして(約45%は20年超)、この船型は2010年頃まで引き続き解撤市場への有力な供給源となることが予想される。しかし一部の港がこれより大型の船を受け入れられるようになるまでは、あるいはそうならない限り(または貯蔵能力を拡大しない限り)、ハンディサイズに対する需要はある程度残ることになろう。ハンディマックスが貨物の「半載運航」により貯蔵能力不足の問題をある程度克服できるが、全ての港がこの船型を受け入れられるとは限らず、また一部の用船者がハンディマックスを好まないということもあり得る。
 
・ハンディマックス部門は全体的に見れば引き続き拡大するが、現在の拡大基調は主として50,000dwt超の船型の発注によるものである。これより小さい船型は不人気になってはいるが、様々な航路で(深度のある新港の開発に助けられれば)引き続きハンディサイズにとって代る可能性があり、従って全く廃れることはあり得ない。一方、ハンディマックスの船腹は新型船が多いことから、その解撤は低水準にとどまるものと予測される。船腹供給の増大はむしろ旧型パナマックス、すなわち60,000dwt未満の船舶の解撤増加という形で影響を及ぼすことになろう。
 
・2001年にパナマックスの解撤が増加したにもかかわらず、膨大な数の新造船が就航したために船腹量は大幅に増大した。2002年に入って新規引渡しのペースは鈍ったが、解撤のペースも落ち、その結果この船型では新規参入の率と撤退の率との間に不均衡が残っている。パナマックスの供給は引き続き増大し、最近の運賃市況の回復がスクラップ売船に水を差すと思われることから、2003年も供給拡大は続くことになろう。
 
・ケープサイズでは、a)スモールケープ(80,000−139,999dwt)の高い船齢構成、b)2001年の運賃市況の軟調、そしてc)少なくとも太平洋水域においては旧型船の使用に対してポートステートの強い抵抗があるにもかかわらず、解撤は過去2年間、進行が比較的遅かった。しかしこの船型の全体的船腹量は、兼用船(その一部は長い間、殆ど乾貨ばかりを運んでいる)の解撤がさらに進んだことから目減りが生じている。
 
 コンテナ船については前章3−2に指摘したように、オーバーパナマックス船型で大幅な船腹増加が見られ、現在の発注残からすれば、今後も増加傾向の継続が予想される。これに対して解撤は、中型船により従来の航路からはじき出されたコンテナ船と新型船に航海速力と燃費で対抗できない旧型船が主な対象となっている。このパターンは、特に世界経済の回復が遅れ(それによりコンテナ船需要の伸びが抑えられ)れば、または石油価格が堅調を維持し運航費を押し上げれば、今後も継続する公算が高い。
 
 液化ガス船部門では、LPG船発注量の高水準と解撤の低水準との間の乖離は既に2002年に終わっている。市況の軟調に対応して新規発注は鈍化し、解撤は増加した。これは2003年にも再現して欲しい状況である。一方LNG船部門では、過去2年間に異例の高水準の発注が行われ、その間解撤が皆無という対照的な状況が生じた。2008年までに各種の供給源から貨物の供給が増大する見通しから、新規発注と解撤の間のこの乖離は、少なくとも2005年まで存続すると思われる。その頃には現在計画中の数件のLNGプロジェクトの状況が明らかになり、その新規生産能力が生み出す船腹需要についても詳細が明らかになろう。
 
 以上をまとめれば、海運市場では1990年代末期から船腹供給の著しい増加があった。さらに主要な各船種(タンカー、バルクキャリア、コンテナ船、液化ガス船)いずれにおいても大量の発注残がある。これらの船舶の引渡しに伴い、過剰船腹を避けるためには、引き続き解撤も大量に行われる必要がある。
 

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EUにおける燃料油とバンカーの硫黄分最大許容限度について懸案の新規規制がこの種の貨物輸送をさらに落ち込ませない限り、そういう見通しは持てる。燃料油の輸送にダブルハル船を使用する場合の輸送コストがあまりにも高いということになれば、近年におけるこれらの品目の内航輸送に見られた拡大傾向は、一部逆転する可能性もある。これに対して国内精油所は、この燃料油を再処理して各種のクリーン石油製品の生産を拡大することができる。
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この船腹供給増は、後述のハンディサイズ部門ときわめて対照的である。







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