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3.2 最近の新造船発注と竣工
タンカー:2000年には複数の要因が重なって油送船市況が急騰した。「エリカ」号の事故以後、新型船に対する需要が急増した上に、軟調な新造船価の魅力から、タンカー発注は不可避的に増大した。その結果、1970年代の造船ブーム以来の発注量が生じたのである。タンカー新造発注は1999年の13.3mdwtから2000年には32.1mdwtに飛躍し、翌年もこれに迫る31.0mdwtを記録した。しかし2001年半ば以降、運賃市況の軟化が投資家の信念に水を差したため、新規発注のテンポは目立って鈍化した。タンカーの新規発注量は2001年前半の21.1mdwtから後半にはわずか9.9mdwtと落ち込み、2002年に入ってさらに減少した。
 
 上記の展開の影響で、発注済タンカー船腹量は2000年末の48.4mdwtから2001年末近くには1970年代以来の高水準に達し、そのため大半の船型において過剰建造の恐れが生じた。2002年後半には多少の鈍化があって発注残は59.8mdwtに落ち着いたものの、これでも現有船腹の19.7%に相当する。しかしこの合計数値だけでは船型別の大きな較差が見えてこない。以下に示すように一部の船型では発注残は現有船腹量のかろうじて15%に過ぎないが、他の船型ではその比率が35%に近づいている。
 
タンカー供給量に対する発注量の比率、2002年12月 単位百万dwt.
船型(dwt): 現有船腹量 発注済船腹量 現有船腹対発注済船腹比(%) ダブルハル化未完了の船腹 ダブルハル化未完了分対発注量比(%)
10,000−26,999 12.2 1.5 12.3 7.7 19.6
27,000−37,999 18.2 3.1 17.2 10.7 29.2
38,000−49,999 22.0 7.6 34.7 9.0 85.4
50,000−74,999 18.0 5.6 31.1 13.0 43.3
75,000−119,999 56.8 14.2 24.9 26.8 52.9
120,000−199,999 44.6 9.3 20.7 18.8 49.2
200,000−319,999 119.3 17.7 14.8 59.2 29.9
320,000 & over 11.7 0.8 6.5 10.4 7.3
合計 302.9 59.8 19.7 155.4 38.4
出所:SSY
 
 2000年末以来の新規発注ではハンディマックス型(38,000−49,999dwt)が多い。例えばハンディマックスの発注残は2001年央の98隻、4.1mdwtから1年後には198隻、8.3mdwtと倍増を上回る拡大を示している。それ以降、新規引渡しが引き続き高水準にとどまったのに対し、新規契約の伸びが鈍化したため発注残は目減りしたが、それでもまだ7.6mdwtと、現有船腹量の34.7%に相当する水準にある。
 
 集中的な発注はパナマックス、アフラマックス、スエズマックスにも生じたが、これらの船型の船齢構成の違いを考えれば、発注が将来の市況見通しに及ぼす影響は対照的である。パナマックス(50,000−74,999dwt)の場合は、発注残が現有船腹の31%に相当する。通常これは船腹量の大幅純増を予想させるものであり、従って将来の市況見通しにとって悪材料である。ところがこの船型では既に68%が船齢15年超であり、80隻も発注されているからといって必ずしもこの船型区分が過剰建造の危機に瀕しているというわけではない。
 
 これに対してアフラマックス(75,000−119,999dwt)は過去3年間の大量発注で膨大な発注残が存在する。現在の発注残はこの船型の現有船腹の25%に等しく、2005年より前に引渡し予定の船は100隻を優に超える。報告されている引渡し予定に多少遅れが生じても、2003年だけでこの船型は65ないし70隻が引渡される。これはこの船型の年間引渡し隻数としては新記録となる。一方スエズマックス(120,000−199,999dwt)の現在の発注残は、2001年末以降、沈静化しているとはいえ、まだ現有船舶の21%近くに相当する。これらの船型のオーナーにとってさらに気がかりなことは、発注済新造船の多数が2005年より前に就航することである。それは2001年の大幅下落の後を受けて、船腹の著しい拡大が2002年から3年間続くことを意味する。
 
 上記の船型全てにおいて、発注済船腹は現有船腹に対して著しく高い比率を示している。これに対してタンカーの他の船型では、発注残はかなり低水準にある。ハンディサイズ(27,000−37,999dwt)の3.1mdwt(現有船腹の17.2%に相当)はこの船型の新規発注が、特にアフラマックスやスエズマックスに比べてこの船型の平均船齢が遥かに高いことを考えれば、あまり活発でなかったことを示す。ハンディサイズ未満のタンカー(すなわち10,000−26,999dwtの船)については新規契約は一層低調で、発注残1.5mdwtは現有船腹のわずか12.3%に過ぎない。船型の一方の極限であるVL/ULCCの受注残は、200,000dwt超の船型の現有船腹量の14%をわずかに超えるに過ぎない。
 
バルクキャリア:ドライバルクキャリアの新規発注は、海上輸送量(特に一般炭貨物)の急増と比較的低水準の新造船価に対応して1990年代末期に増加した。その結果、2001年のバルクキャリア引渡量は新記録に達したが、この船種の発注はその後、以下のような理由から沈静した。
 
・2001年のドライバルク荷動きの伸びが鈍化し、船腹の純増と相俟って、ドライバルク市況の下落を招いた(ただし2002年に入って次第に用船料が好転に向かったが)。
 
・他の船種の集中的発注(主としてタンカーであるが、大型コンテナ船や液化ガス船も同様):このためバルクキャリアを発注しようにも、直近の船台が不足という事態が生じた。引渡しが遠い先でも発注しようという船種は限られている。ただし中古船市場で新型船の入手がむずかしいケープサイズはある程度まで例外といえる。
 
・一部の造船所(特に韓国の造船所)は利幅の狭いドライバルクキャリアよりも、付加価値の高い、上記のような船種に関心を示す傾向が出てきた。
 
 最近の新造船はドライバルクキャリア船隊の特定の船型に際立って集中している。スーパー・ハンディマックス(すなわち50,000−56,999dwt)とパナマックス(70,000−79,999dwt)である。前者が大幅に増大したことは、今やハンディマックス船隊に明確な3区分が存在することを示している。旧型の40,000dwt前後、これより新型の42−49,999dwt、および50,000dwt以上のスーパー・ハンデイマックスの3区分である。50,000dwt未満のハンディマックスは、船主の選好がやや大きい船型に移ったため、この3年間あまり目立った発注はない。
 
 2001年に新造船の引渡しが急増してパナマックスの市況が軟化してから、この船型に対する発注意欲は部分的に減退した。そのため、新規引渡しが新規発注を上回り、発注残は2001年央の9.4mdwtから現在の5.3mdwtへと縮小した。これに対してケープサイズの発注は、対象となる造船所が、これよりうまみのある他の船種の受注で繁忙を極めていたこともあって、2002年後半まであまり目立たなかった。しかし抑えられていた需要は最近数ヵ月の発注増加となって顕在化し、発注残は以前のさして高からぬ水準から現在ではケープサイズ(80,000dwt以上)の全船腹の13.8%に相当する量にまで至っている。この新規発注の復活傾向がいつまで続くかは世界経済の回復、それに伴う工業原材料のトレードの伸び、さらにそれが船腹需要に及ぼす影響にかかっている。
 
 一方ハンディサイズ部門では需要が引き続き他船型・船種に奪われ(平均船齢が急速に上昇しているにもかかわらず)新造船は低水準にとどまった。(比較的小型の)新型ハンディサイズ船腹は少数の大手オペレーターあるいはプールの支配下に入る傾向が進んでいるが、多数の船主はもはやこの船型を将来の投資対象と考えていない模様である。
 
コンテナ船:1990年代末期以来、コンテナ船の新造では超大型船供給の著しい伸びが支配的な特色となっている。オーバーパナマックス発注の集中度はきわめて高く、2001年に引渡されたコンテナ船総計を見ると、隻数では1998年や99年より減少しているものの、積載能力の増大は両年を遥かに上回っている。2001年に0.64mTEUの引渡しがあった後、今年も0.62mTEU相当のコンテナ船が現有船腹に加わることになる。2001年央以降、発注残は(501隻、1.61mTEUから現在の434隻、1.42mTEU)と縮小している。それでもなお、2004年前の引渡しを待つ新規船腹は巨大な規模に上り、著しい船腹拡大の継続が見込まれる。殆ど当然といえるほどに、この追加船腹の大きな部分が4,000TEU超の大型船から成り、2,000年未満の中小型船の今後の引渡しは、1990年代半ばないし末期の水準と比較すれば比較的小規模となろう。
 
液化ガス船:1990年代半ばの比較的無風状態を経て、LPG船建造意欲は同年代末に復活し、2000年の運賃市況の堅調が追い風となった。これに加えて各船型とも1980年以前に建造された船が多数残っていることから、10,000m3超のLPG船の発注残を2001年央には記録的な水準に押し上げた。VLGCが多数発注され、2001年央の発注残は18隻となっている。しかしその後は各船型とも用船料が低落し、特に大型船にその傾向が著しく、現在では新規発注は減少している。それでもなお膨大な数のLPG船の引渡しが2003年に予定され、またまた新記録を達成するものと思われる。そのため2005年前後に向けてLPG船隊は純増が予想される。
 
 1990年代の大半はLNG船新造意欲が見られなかったが、90年代末に向けて中東、カリブ海、西アフリカで生産設備の新設に巨額の投資があったため、LNG船発注はめざましい復活を示した。新規発注分の大半が積載能力135,000−145,000m3の船で、これが現在ではLNG船の標準船型となっている。2000年に記録的な隻数(12隻)の引渡しがあった後、竣工のペースは一時鈍化したが、今後2年間は再び上昇が見込まれる。現在の受注残64隻は隻数ベースでは現有船腹の50%に近い。伝えられる引渡し予定に大きな狂いが生じない限り、2003年には21隻が新たに就航し、新たなピークを見ることになろう。







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