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刊行によせて
 当財団では、我が国の造船関連事業の振興に資するために、日本財団から競艇公益資金による助成金を受けて「造船関連海外情報収集及び海外業務協力」事業を実施しております。その一環としてジェトロ関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種報告書を作成しています。
 
 本書は、(社)日本中小型造船工業会および日本貿易振興会が共同で運営しているジェトロ・シンガポール・センター船舶部(山崎壽久駐在員)のご協力を得て実施した「タイ国におけるモーダルシフトに伴う新規造船需要実現」に関する調査結果をまとめたものです。
 
 バンコク等の都市部の道路渋滞、交通事故を引き起こしている道路輸送が貨物輸送の90%を占めるタイ国において、これらの解決策のひとつとして同国政府はモーダルシフト施策を取ろうとしており、これにより新たな造船需要が生じるものと見込まれます。タイ国におけるモーダルシフトの具体策について分析・検討した本書は、当該地域に関心をお持ちの皆様の参考になるものと思われます。関係各位にご活用いただければ幸いです。
 
2003年3月
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団
 
 現在タイ国において貨物輸送の約90%が道路輸送であり、船舶による沿岸輸送は約5%に過ぎない。バンコク首都と東部、西部、南部の臨海部との国内貨物も、主に自動車輸送に依存しており、同国東部にある主要国際港の「Laem Chanbang Port」を経由する輸出・輸入貨物の国内輸送もその大部分が自動車輸送で行われている。これらの自動車輸送が、バンコク等の都市部の道路渋滞、交通事故のほか大気汚染、騒音、振動等による環境への悪影響を引き起こしている。
 同国政府は、従来、全国の国道、県道の建設等による陸上交通のネットワークを最優先課題として推進して来たところであるが、上記問題の解決策としてモーダルシフトの重要性を認識しており、2000年6月海事産業振興基本計画が閣議決定され、同国運輸通信省が2001年5月にモーダルシフト振興の政策提言を行った。
 この流れを踏まえジェトロ・シンガポール・センター船舶部は、2000年度にタイ国内でモーダルシフトの可能性がある航路、就航船舶の種類、大きさ等を具体的に掴むためのフィジビィリティースタディーを実施し、「タイ国におけるモーダルシフトに伴う新規造船需要に関する調査報告書(2001年6月)」としてまとめ、この中で、タイ国内の数航路においてRO−RO船を用いたモーダルシフトが可能なことを明らかにした。
 同船舶部では、タイ国運輸省運輸交通政策企画室、同省海事局、タイ国営海運会社であるTMN(Thai Maritime Navigation)に対し、当該成果報告書等を使い、モーダルシフトの実現のための働きかけを行ってきたこともあり、両者ともモーダルシフトに不可欠であり、同国では建造技術のないRO−RO船をODAによる経済協力案件として実現したいとしている。なお、同国造船所にはRO−RO船の建造技術は無い。
 しかしながら、タイはODAの激戦国であり多数の案件が提案されている他、現政権はODA案件になる可能性のある案件に対して、海外債務減少の観点から国内金融機関からの資金借り入れを強く求め、かつコスト低減を強く求めている。
 このような状況下のもとで、我が国造船所が得意とするRO−RO船によるモーダルシフト実現を具体化するためには、TMNを対象にして具体的航路、船の大きさ、隻数等について精査し、RO−RO船によるモーダルシフトがタイの環境改善に寄与するとともに、特定の航路では、内国輸送の運賃の低下によるタイ国内製品の国際競争力を向上できることを示す必要がある。さらに、ODAの金利や返済期間等同国内金融機関に対する優位性を示し、かつ中古RO−RO船に対しても十分競争力があることも示す必要がある。
 このための資料を収集、解析、整理し、我が国造船事業者が同国のモーダルシフトの推進による新たな経済協力案件への対応に資する資料を得ることを目的とした。
 なお、タイ運輸省及びTMNは、本報告書を踏まえ、RO−RO船を利用したタイ内航海運事業の実現に向けて、タイ国政府内で対応していきたいとしている。







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