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II−10 州の助成プロジェクト
 州の造船業及び船舶修理業に対する助成プロジェクトについて述べる前に州と造船業の関わり合いについて見てみる。米国の造船所及び船舶修理工場について州別の分布を見ると、36以上の事業所がある州は6州あり、これを多い順に並べるとフロリダ、カリフォルニア、ルイジアナ、テキサス、ワシントン、バージニアとなる。造船所の数が多いことと大造船所が存在していることとはあまり関係がなく、6大造船所の所在州はバス・アイアン・ワークス(メイン州)、エレクトリック・ボート(コネチカット州)、ニューポートニューズ(バージニア州)、インガルス(アラバマ州)、アボンデール(ルイジアナ州)、NASSCO(カリフォルニア州)である。また1990年代始めに8ヵ所あった海軍工廠も4ヵ所は閉鎖され、4ヵ所が存続されて艦艇の修理やオーバーホールを実施している。閉鎖された海軍工廠はフィラデルフィア(ペンシルバニア州)、チャールストン(サウスカロライナ州)、ロングビーチ(カリフォルニア州)、メア・アイランド(カリフォルニア州)、存続海軍工廠はポーツマス(ニューハンプシャー州)、ノーフォーク(バージニア州)、ピュージェット・サウンド(ワシントン州)、パール・ハーバー(ハワイ州)である。従って、造船所の多い6州の事業所のほとんどは中小型船、海洋開発関連機器及び船舶、漁船、バージ、リクリエーション用ボート等の新造または修理を対象としている。米国で商業用船舶、海洋開発関連機器及び船舶の建造または修理が最も盛んに行われている地区はメキシコ湾岸諸州である。
 一般に州や地方政府は船舶の設計や製造に関する研究開発に助成金を出すことはない。しかし州や地方の発展に特別な利害をもたらす場合はこの限りではない。特に海軍工廠の閉鎖は跡地利用や従業員の雇用問題と関係があるので州や地方政府が造船関連の研究開発を助成した実績がある。その他フェリーボートの地域オペレーターに対し州政府が環境に優しい推進システムヘの改造助成を実施したりしているが、これらはいずれも研究開発的要素が大きい。また州や地方政府は造船所からの表流水による海域汚染や、船舶からの排気や有害廃棄物の排出については重大な関心を示し、場合によっては独自の排出基準を作って、その規則を満たすための研究開発に対して助成金を出している。環境問題の場合にはEPAを始めとする連邦政府機関との共同助成が多い。さらに最近NSRPの横断的課題パネルでは産業熟練度基準の作成を進めているが、基準作成に州の援助を受けている例が見られる。一般に従業員の訓練や教育は地域経済と密接な関係があるので造船業と州や地方政府との関わり合いの多い分野である。
 
<1>超高速コンテナ船(FastShip)の開発
期間:1994年6月以来現在も進行中、コスト総額不明:(初期投資1,100万ドルのうちデラウエア港湾管理委員会(DRPA)が700万ドルを出資
 DRPAはペンシルバニア及びニュージャージー両州の共同運営体で、出資は両州議会の承認を得て行われた。開発主体はFAI(FastShip Atlantic Inc.)。FastShipの開発プロジェクトはひところ米国のマリン業界を騒がせたプロジェクトであり、英国の航空技術者、David L. Gilesが特許を持つ半滑走モノハル船型(SPMH:Semi−Planning Monohull)と大出力のガスタービン主機、ウォータージェットを組み合わせ、従来のコンテナー船の約2倍の速力で走るコンテナ船を開発するプロジェクトである。SPMHは従来小型艇のみに使用され大型船への適用は始めてであるが、FastShipの技術的困難性は比較的小さいと考えられている。FAIは当初何らかの連邦研究開発助成金を受けるべくあらゆる手を尽くしたが失敗に終っており、DRPAがFastShip就航後の米国側基地をフィラデルフィア海軍工廠の跡地とする条件と引き換えに出資したものである。
 Dockの部分の跡地がクバナ・フィラデルフィア造船所として再生したことは良く知られている。本報告書の主題である研究開発助成とは若干異なるが1997年10月にトム・リッジ・ペンシルバニア州知事(当時)はフィラデルフィア海軍工廠を革新的商船建造施設に変身させるため、1億8,200万ドルの助成金交付を決定した。
 
<2>TBT汚染表流水の流出防止(Control of TBT and Storm Water Runoff)
期間:現在進行中で今後数年間続行される。コスト総額不明(MarAdより立ち上げ費用6万5,000ドル。その他EPA150万ドル、バージニア州120万ドル、NSRP現物支出)
 プロジェクト実施主体は先進船舶保守修繕センター(CASRM:Center for Advanced Ship Repair and Maintenance)。バージニア州は州として唯一バージニア汚染物質排出システム条例によりバージニア州の造船所から、TBT(Tributyltin)の排出を50ppt以下と定めている。しかし現状では表流水中のTBTをこのレベル以下に抑える技術は存在せず、バージニア州における船舶修理業の存続が岐路に立たされている。
 
<3>圧縮天然ガス推進フェリーの開発(Development of CNG Ferry Boat)
期間:1989年以降、コスト総額不明(バージニア州、連邦政府等の助成による)
 本プロジェクトは世界最初の圧縮天然ガスを燃料とするフェリーボートの開発プロジェクトであり、II−8<6>で紹介したプロジェクトは本プロジェクトで改造されたフェリーが比較対象として使用されている。本プロジェクトの開発主体はバージニア州タイド・ウォーター地区交通局(TRT:Tidewater Regional Transit)である。連邦、州、地方政府はTRTのような地域オペレーターに対し、代替燃料を使って石油への依存度を減らし、併せて環境にプラスとなるように指導してきた。この結果1989年、TRTのフェリーの1隻をCNG化することがバージニア天然ガス公社との間で合意され、可能性調査の結果プロジェクト推進が決定され、投資を受ける基金の調査が行われた。CNGのフェリー・ボートヘの適用は世界最初であり、高圧ボンベの船上貯蔵等USCGも巻き込み船体部、機関部共に大改造が実施された。
 
<4>フロリダ・クリーン・マリーナ・プログラム(Florida Clean Marina Program)
 フロリダ州の沿岸に数多く存在するマリーナやボートの造船所からの水域汚染を防止するため、フロリダ州はこれら施設に対し4つの助成プログラムを実施している。
 
・その地域に適した環境保全法の教育
・複数の手段を用いて成果をあげたマリーナやボート造船所の表彰
・短期間では達成困難な手段に対する技術援助、ローン、助成金等の供与
・上記の結果他が模範とすべき成果をあげたマリーナやボート造船所に対する「Clean Marina」の称号授与
 
<5>クリーン・ウォーター基金(Clean Water Trust)
 クリーン・ウォーター基金は下記3つのプロジェクトを助成している。
 
・ポイ捨て禁止プログラム
 ガルフ沿岸におけるボートや沿岸からのポイ捨てを掲示やチラシで減らすプロジェクト。
・代替燃料プロジェクト
 メリーランド州大豆委員会のリクリエーション用ボート大豆油化研究開発に対する援助
・たれ流し防止プロジェクト
 ガルフ沿岸における船舶燃料の洩れや燃料補給時のたれ流し防止プロジェクト。
 
<6>大型船舶からの排気調査(Tracer Study of Marine Vessel Air Emission)
 1997年6月に連邦、カリフォルニア州のマリン業界は連合して大型船からの排気がカリフォルニア州南岸に与える影響に関する大規模な調査研究を実施した。本プロジェクトは大型船の航路からトレーサーと称する検知物質を排出し陸上でそれを捉えて天候の変化、航路の変更等との相関を調査するものである。プロジェクトはコンソーシアム形式で行われたが構成メンバーと出資額は以下の通りであった。EPA(10万ドル)、海軍(10万ドル)、カリフォルニア大気資源局(3万ドル)、南カリフォルニア沿岸大気委員会(5万ドル)、ロングビーチ市(5万ドル)、ロサンゼルス市(5万ドル)、南カリフォルニア商船協会(2万5,000ドル)、太平洋商船協会(1万5,000ドル)。
 
<7>訓練及び組織基準作成のためのパイロット・プロジェクト(Training and Organization Standards Pilot Project)
 期間:2002年より18ヶ月。NSRP横断的課題パネルでは産業熟練度基準の作成を進めているが現在第1段階を終了し、第2段階に進む段階である(II−6<6>)。その一環として訓練及び組織基準を作ることになっている。またそれらの基準は造船所の実際の作業場をシミュレートした定量的なものを目指している。アラスカ州はこれら基準作成のメンバーとなっているアラスカ造船のため、アラスカ大学Ketchikanキャンパス内に訓練目的を達成するためのシミュレーターを作り、また講座を作って基準作りを助成している。







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