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I−3−2 ビジネス・プロセス技術
<1> 不確定事項の工程組み込み(Theory of Constraint)
期間:199年6月〜2000年5月、コスト総額:21万6,000ドル(造船所72,000ドル、他パートナー72,000ドル、NSRP ASE 72,000ドル)
 本プロジェクトはEli Colrottによって開発された制約の論理を応用して、造船工程の時間を短縮し、コストを下げるプロジェクトであり、アトランティツク・マリンが中心となり、北部フロリダ製造技術センター及びPro−Chain Solutionが参加して実施された。造船工程は複雑な要素、例えばオーバータイム、火災、作業員や機材の流用、安全を配慮した時間設定等々の不確定事項が存在するためどうしても長く、コスト高の工程を組みがちである。本プロジェクトでは作業員の挙動、会社のポリシー等の制約事項に焦点をあてて造船工程の短縮を図ろうとした。なお本プロジェクトは効果が期待出来ないとして第1段階で中止された。
 
<2> 造船サプライチェーン仮想企業(SPARS:Shipbuilding Supply Chain Virtual Enterprise)
期間:2000年4月〜2003年3月、コスト総額:1,288万ドル(造船所644万ドル、NSRP ASE 644万ドル)
 本プロジェクトはビジネスプロセス技術の中心的プロジェクトで、造船所としてはエレクトリック・ボートが中心となりIBMが技術的にバックアップしている。他にバス・アイアン・ワークス、Altarum、アボンデール、インガルス、米国サプライヤー、ニューポートニューズ、NIIIP2が参加している。SPARSプロジェクトはインターネットをベースとして造船所とサプライヤー間のソーシングとサプライチェーン(SC)の仮想企業VE(Virtual Enterprise)を構築することを目的としている。VEは同一の目的を持って一つのプロジェクトに従事する組織の集団であり、異質の集団がその目的遂行のためには統合された同質集団となると定義されている。SPARSの構築により下記が可能となる。
 
2 National Industrial Information Infrastructure Protocols:1993年にARPAのOrder No.B761−00により創設され、米国空軍により管理されている。NIIIPプロジェクトの目標は、バーチャル・エンタープライズ内での互換性の問題を解決し、データ構造、プロセス、コンピューター環境に関らず、組織間の共同作業を可能にすることである。オリジナルのNIIIPプロジェクトは1999年に完了したが、NIIIPの技術は様々な分野に展開している。
 
・サプライ・チェーンの組み込みと長期にわたる仮想企業パートナーシップの構築によりe−コマースによる購買業務と世界的ソーシングを助ける。
・造船契約前にサプライ・チェーンと造船所の設計/技術情報を結び付けることが可能となり、建造戦略、基本工程表作成、作業員や機材配置、能力分析、改善された入札、見積り、コストシステムが可能となる。
・サプライヤーが設計、部品買い付け、生産を通して充分管理を行き届かせその結果船のサイクルタイムや設計/製造のコストも減る。
 
図I−7 SPARSのコンピューター環境
(拡大画面:37KB)
 
 図1−7にSPARSプロジェクトの仮想エンタープライズ(VE)の各要素を示す。VEはVES(仮想企業サーバー)とVEC(仮想企業クライアント)から成り立っている。サーバーは造船所/サプライヤー間のビジネス・技術データを統合して取り引きを支援する。SPARSではほとんどターンキーに近いビジネスプロセスを取込んでいることが特徴である。利用者はこのビジネスプロセス情報に直接アクセスしてリアルタイムに見ることできる。SPARSはまたNSRPがスポンサーとなって開発した部分表示、移行、変換技術を使用しているので設計情報の正確かつコスト効果の高い伝達が可能である。2001年及び2002年にSPARSのプロトタイプアーキテクチャーが完成された。(図I−8)造船所あるいはサプライヤーはデスクトップ(First Tier)からVESにアクセスする。デスクトップはWEBブラウザーベースであり、ドキュメント、フォルダ、作業流れ等造船所のプロセスを示すオブジェクトが入っている。デスクトップ・オブジェクトはサーバーのEJB3オブジェクト(Second Tier)と連動し、さらにWEBサーバー(Third Tier)がWEBとSPARS VESのインターフェース役を果たしている。
 
図I−8 SPARSのプロトタイプ・アーキテクチャー
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 SPARSプロジェクトでは造船所とサプライヤー間のビジネスプロセスを図I−9に示すようにVEの中に取込んでいる。船舶は受注前の見積りから受注(VBID)、設計、建造及び引き渡し時のスペア・パーツの積み込み、さらにはライフサイクルの支援等、それぞれの時点でサプライヤーとの間でビジネスが発生する。現在米国の造船所は未だ大部分を旧来のハードコピーの書式に頼っている。SPARSはこれらを全て電子取り引きに置き換えようとしている。図I−9の中にはSPARSの中に組み込まれている各段階の造船所からサプライヤーヘのビジネスプロセスが示されている。
 
3 EJB:Enterprise JavaBeans Webアプリケーションの構築を支援するJavaべースのサーバサイド・コンポーネント技術。ソフトウェアの実行環境となるコンテナをEJB Serverと呼ぶ。
 
図I−9 SPARSのビジネス・プロセス
(拡大画面:34KB)
 
・REF(Request for Proposal)プロポーザル要請(引合い)
・VFI(Vender Furnished Information)ベンダー情報収集――見積準備入札チームを結成、必要な入札情報(舶用品目情報等)を収集する
・VBID(Vendor Vid)特注品や特注コンポーネントについて、引合仕様書を作成し、舶用機器メーカーの見積仕様書を受け取る。
・VIR(Vender Information Request)ベンダー情報要請――舶用機器メーカーが資材や購入指図書に関連した情報または不適合を要請する。
・VPAR(Vender Procedure Approval Request)工法承認要請――舶用機器メーカーの手順、たとえば溶接、NDT等
・VPA(Vender Payment Authorization)支払い承認
・VDER(Vender Drawing Engineering Review)図面確認
・CR(Condition Report)船舶から造船所へ修理要請を伝達するプロセス
 
 参加した4造船所の中でエレクトリック・ボートが最も早くSPARSの一部であるVIR(ベンダー情報要求)をパイロットプログラムから進展させ、2002年1月3日から完全に生産プロセスの中に取込み電子化させている。エレクトリック・ボートは1,500件のベンダー情報要求を実施し、従来ハードコピーベースで30日かかった作業を8日で完了し、73%の節約に結びつけている。現在では本プロジェクトに参加した他造船所も順次これを採用し恩恵を受けている。







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