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4−6 水素の製造と供給
(水素の製造方法)
 燃料電池への水素の供給方法は種々考案されているが、移動体との組み合わせに適した小型/軽量/低コストの条件に合う水素供給方法は確立されていないのが現状である。水素はそれ自体エネルギー源ではないが、水の形で地球上に無限に存在する。水素は他の元素と結びつき易く、自然環境の中で気体として存在するのは微量なので、常に他のエネルギー源から得たエネルギーを使って分離する必要がある。水素をエネルギーシステムの中で使う場合の問題点は、水素分離の過程で出る大気汚染物質の量とその時に使用するエネルギーの量である。これらが小さい程好ましいことは言うまでもない。水素の製造方法として一般的に利用されている方法は以下のとおりである。
■水の電気分解−純粋な水素が無限に得られる。太陽光発電による電力や水力発電その他のオフ・ピーク時の電力を使うことが考えられている。
■化石燃料からの分離−石炭、石油、天然ガスに水蒸気を送って水素を分離する方法は古くから工業的に行われている。水蒸気改質器が良く知られているが、空気で改質する空気改質器(部分酸化改質器)或いは空気と蒸気の混合気体で改質する水蒸気/空気改質器がある。
■合成燃料からの分離(4−7節)
 
 最近、ゴミ廃棄物等から発生するメタンガスも注目を集めているが、主流は純粋水素や化石燃料又はアルコールから改質器で分離された純度の低い水素である。PAFC、MCFC、SOFC及びPEMFC共に改質器による純度の低い水素での運転が可能である。しかし、燃料電池の種類により、燃料改質の程度が異なってくる。例えば、PEMFCは本質的に低温型燃料電池(80℃)であり、高温改質器が使えない。そのため、化石燃料を蒸気化するか、改質器で蒸気化の温度とするか、または効率の悪い部分酸化改質器を使わざるを得なくなる。これに反し、高温燃料電池、例えばSOFC(1000℃)は効率の良い水蒸気改質の使用が可能である。第4−4表は部分酸化改質器による改質後の成分表である。約半分は水素であるが、一酸化炭素が等量出てくるのでCOをCO2に変換して排出する装置が必要となる。
 水蒸気改質器は、化石燃料の分解及び水蒸気の分解(水素及び酸素)の両方から水素が得られるので、空気改質器によるよりも多くの水素が得られる。天然ガスやメタノールは構造も簡単であり、水蒸気改質器により大量の水素が得られる。水蒸気改質器は水蒸気を作るための熱、及び改質反応そのものが吸熱反応であるため、大量の熱を必要とする。従って改質器の多くは触媒を使って比較的低い温度(760−980℃)で運転している。高温型燃料電池では改質器に必要な熱を自身の排熱で賄えるため効率は益々高くなる。温度が1,100℃になると触媒も不要となる。
 
(船舶用燃料の製造方法)
 舶用燃料電池の燃料としては、天然ガス、メタノール、ディーゼル燃料の改質が考えられる。
 天然ガスは量も多く安価である。大部分がメタンであり、不純分は少ない。PAFC、MCFC、SOFC及びPEMFCの何れも外部改質(低温型)或いは内部改質(高温型)により使用可能である。天然ガスの場合はCNG或いはLNGとして搭載されるが、CNGの場合は燃料タンク容積が大きくなるため、頻繁な燃料補給が可能な沿岸航路用に限られる。メタノールも舶用燃料電池の燃料として有望である。メタノールの利点は、常温で液体であり、船舶への搭載が容易なことである。欠点は価格が高く経済性に欠けること及びディーゼル燃料の約半分の熱当量しかないことから、燃料タンクが約2倍になることである。ディーゼル燃料のような蒸留石油燃料は現在船舶に用いられており、コストも安い上熱当量が大きいという利点がある。現在蒸留石油の改質には殆ど水蒸気/空気改質器が用いられている。重油の改質は難しく、また不純分も多く含んでいる。しかし、コストがディーゼル燃料の半分であり、今後効率の良い重油改質器が開発されることが待たれている。蒸留石油を使った場合の最大の欠点は、燃料電池に悪影響を与える硫黄等の不純分を含むことで、硫黄分除去のための何等かの手段が必要となる。
 
(水素の貯蔵方法)
 水素の貯蔵・供給方法は以下のとおりである。
■圧力容器貯蔵方式−従来この方法が一般的であったが、200気圧に圧縮したとしてもガス・ボンベはかなりの容積となる。1995年北バンクーバーで試験走行したバラード社の60人乗りバスは屋上に水素ボンベ10本を積み、また前述のNECAR1及び2も屋上に大量の水素ボンベを積んでいる。
■極低温液化貯蔵方式−水素は−259℃で液化する。液体水素1リットルから水素778リットルを発生するので、圧縮水素(1リットルで204リットルの水素発生)よりも有利である。但し、冷却のために発生する水素のエネルギーの約30%が使われ、1日1%以上が気化するのであまり経済的とは言えない。液体水素は1999年初旬ダイムラー・クライスラーが発表したNECAR4に使われている。NECAR4は最高時速145Km、燃料電池出力70kW、5人乗りで、荷物を載せるスペースもあるコンパクト・カーである。
■水素吸蔵物質−合金その他の物質の結晶の隙間に水素を吸着させる方法であり、より安価で、多くの水素を吸着できる物質の開発が行われてきた。この方法は、自動車等の損傷時に水素の放出が無いという安全性を持つ代わりに水素を吸着できる量が比較的少ないので、自動車の走行距離が短くなるという欠点を有している。今後、飛躍的に高性能な合金或いは物質が発見されれば見直される技術である。
 舶用としては、前述のドイツの燃料電池推進の潜水艦が、バラスト兼用ということで、水素吸蔵合金を燃料貯蔵用に使用している。また、前述の通りのMARAD支援により実証実験が行われている水素をナトリウム硼素水酸化物として貯蔵し、必要な時に化学的に水素を取り出す技術も、このカテゴリーに属する技術である。
■ガソリン・メタノール或いは合成燃料を従来のインフラストラクチャーで貯蔵、輸送する方法−従来のインフラストラクチャーを使ってガソリン、メタノール或いは合成燃料等を輸送し、車や船舶に改質器を取り付けて水素ガスを得る方法。
 
第4−4表 部分参加改質器による改質結果
Mole Percent
(dry,basis)
Reformer
Effluent
H2 48.0
CO 46.1
CO2 4.3
CH4 0.4
N2 0.3
H2S 0.9
Total 100.0







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