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3−4 リムドライブ・プロペラ
(リムドライブ・プロペラとは何か)
 ジェネラル・ダイナミックス社の潜水艦部門であるエレクトリック・ボート(EB)では、船舶推進システムの電化の動きが今後とも加速されるとの予測の下、専らコンテナ船や輸送船を対象に既存のポッド推進システムの効率を上回る新しい形式のポッド推進システムの開発を進めている。EBが開発しているのは、3−2節で述べたようなコアドライブ・モーターを用いたPOD推進システムとは異なり、ダクト付きのプロペラを船底外部に直付けするような形状でリム部の電磁システムにより駆動するリムドライブのPOD推進システムである。
 
 リムドライブの構造は第3−7図に示す通りであり、ダクトの中に固定プロペラ(Propeller Stator)に支持された回転プロペラ(Propeller Rotor)が配置されている。回転プロペラの翼先端にはモーターの回転子の役目をする永久磁石が取り付けられており、ダクトの中の切り込み溝部を回転する構造となっている。翼先端のダクト側にはモーターの固定子の役目をする永久磁石が組み込まれている。リムドライブではプロペラにトルクを与える力が回転軸より離れたリム部で発生するため、低回転でも大きなトルクが出せるのが特色である。
 
 EBのリムドライブ・プロペラは2つの流れに沿って開発が進められている。1つはリムドライブを出力18.5MW(公称18MW)のコンテナ船推進システムとして開発しようとするEB自身のプロジェクト、もう1つは海軍がこのリムドライブ推進システムを艦艇に利用するためにONRが助成しEBと共同で進めているHTSWAC(Hybrid Small Water Plane Area Craft)実験船を用いた2,100hpRDP(Rim−Driven Propulsor POD)の海上実証実験である。
 
(コンテナ船用リムドライブの開発)
 EBでは、商船用リムドライブ推進ポッドCRDP(Commercial Rim−Driven Propulsor)と呼ばれている。EBは、18MW CRDPの1/25の模型を作り、2002年前半にハンブルクの水槽で単独及びコンテナ船模型自航試験、キャビテーション試験、船体圧力変動測定等を実施し、18MW CRDPの性能を以下のとおり予測している。
■プロペラの単独効率は他のPODシステムに比して4.5%上昇し、67.2%に達する。
■フルスケールのプロペラではピーク効率が更に6%上昇する。
■CRDPではピーク効率以外での効率低下が他のPODシステムに比べて小さい。
■コンテナ船模型自航試験の結果、他のPODシステムに比し少ない馬力で同一速力が得られる。
■他のPODシステムに比べ、速度及び角度の広い範囲でキャビテーションの発生が少ない。
■船体圧力変動のピーク値は他のPODシステムに比して少ない。
 
 EBでは18MW CRDPの設計を進めているが、他のPODシステムに比し、外形はコンパクトである。3−2節でコンパクトPODとして紹介したシーメンス・ショッテルのSSPシステムより更にコンパクトであり、具体的には、出力が同じくらいの20MW SSPでは、長さ11m、ハブ径3m、プロペラ径6.25mであるのに対し、18MW CRDPでは長さ3.9m、ハブ径1.46m、プロペラ径4.9m、ダクト径5.85mである。第3−8図は2基の通常のPOD推進システムを有するパナマックス・サイズのクルーズ船(2x 20MW)をEBのCRDP(2x 18.5MW)に換装した場合の速力/出力予想曲線である。速力25.5ノットでは18MW CRDPは出力が2.6MW少なく、また、出力37.4MWのポイントで18MW CRDPは0.4ノット速力が速い。但し、第3−8図の予想曲線にはCRDPモーターの効率の良さの効果は算入されていないので、両者の差は更に拡大する傾向にある(通常のPODシステムに使用されるモーターは巻線型同期電動機であるが、CRDPは永久磁石の磁場で動力を発生するので巻線型に比してエネルギー損失は少ない。)。
 最高出力において、18MW CRDPの効率は巻線型に比して2%高い98.8%であるが、最高出力以下では更に差が広がり、速力4ノットのポイントでは18MW CRDPの方が50%も効率が高い。EBではCRDPの低出力域での効率の優位性による利得をパナマックス・サイズ・コンテナ船の年間運航速力分布を仮定して計算している。EBは充分控え目な速力分布でも18MW CRDPは他のPODシステムに比し、年間4,470MWのエネルギーが節約され、これは$575,000 の節約に繋がると言っている。
 
 また、CRDPの形状が小さいことによる船舶設計上の利点も想定される。第1にCRDPの回転半径は通常PODシステムに比して小さいので、幅の小さい船にも適用可能である。また、3基配置する場合でもクルーズ船「Voyage of the Seas では真中に固定POD、両側に旋回PODをオフセット配置しているが、CRDPでは3基とも同じ条件で配列することが可能であり、特定のオペレーションに対して33%の出力向上が期待される(第3−9図)。船体圧力変動のピーク値が他のPODシステムに比較して低いことは船尾振動が少ないことを意味する。逆に言えば、船体とCRDPの間隔は通常PODに比較して少なくても良いことを意味しており、それだけペイロードの多い船の設計が可能となる。
 
(HYSWAC実験船による海上実証実験)
 EBが進めている2,100hpRDPのHYSWACへの適用研究は、出力は18MW CRDPよりずっと小さいが、18MW DRCPより一足先に実機を実船に搭載して試験するという意味においても、また、海軍が将来大型船へのRDPの採用に対するテスト・ケースと考えているという意味からも非常に重要である。海軍では本開発プロジェクトをAHFID(Advanced Hull Form Inshore Demonstrator)プロジェクトと呼んでいる。
 AHFIDプロジェクトの目的はRDPモーターの海上における性能の確認である。3−2節で述べたように、沿岸駆逐艦DD21計画は消えたが、海軍が今後とも艦艇の電動化とPODシステムの採用を目指している点に変りはない。電気推進システムの利点については3−2節で述べた通りであるが、最大の欠点は出力が戦闘艦に必要なレベルまで大きくなると、他のPODシステムではコンバーター等も含め重量や容積が過大となり、超伝導モーターとの組み合わせでなければ戦闘艦には殆ど使えない点である。このため海軍はRDPの実用化を急ぐ状況に置かれている。
 AHFIDプロジェクトには2,100hpのRDPの設計をEB、船体部改造設計をバス鉄工所、その他パシフィック・マリーン・サプライ社及びメイン大学が参加し、2003年中にハワイ沖で海上試験を実施する予定で作業が進められている。RDPは船首船底にV型ストラットで取り付けられている。(第3−10図)また、RDPへの電力供給用に出力3MWのTF−40小型ガスタービン発電装置が搭載される。
 
 AHFID RDPは、回転子速力307rpmにおいて、出力1,948hp(MCR)、速力24.6ノットが出るように設計されている。この設計点でのトルクは33,350ft-lbs、推力は17,049lbで、ダクトの上部は常に水深10mに保たれる。ダクト外形は将来海軍の大型キャビテーション水槽で試験できるよう72インチとなっている。RDPは横方向の回転機構を持っていない。
 2003年の海上試験に先立ち、海軍では本プロジェクトに関し多くのテストを実施している。2001年6月、海軍海上戦闘センター・カルデロック・ディビジョンNSWCCDは、AHFID RDPの電磁性能テスト計画を発表した。この中にはNSWCCDの中に新しく作られた電磁性能テスト設備での計測、ハワイの真珠湾での浅海域テストその他が含まれている。2001年11月、海軍は直径12インチの模型を使ってNSWCCDのテーラー水槽でRDPプロペラの流体力学試験を実施した。この試験にはリムドライブは組み込まれず、ダイナモ・メーターを使って回転させ、推力その他が計測され、本番の72インチ径プロペラの設計要素が定められた。リムドライブを組み込んでの試験は、ロードアイランド州にあるEBのQuonset Point試験場で行われることになっている。キャビテーションに関しては、ペンシルバニア州立大学及びメンフィスにある海軍大型キャビテーション水槽でテストされる予定である。
 
 いずれにせよ、AHFIDプロジェクトは艦艇のPOD化にとって重要なプロジェクトである。米海軍は艦艇へのPODシステム採用の利点に付き以下の通り指摘している。
■PODシステムは船体の建造前或いは建造中に独立して製造することができ、船体への取り付けも建造主工程に大きな影響を与えないので、建造のフレキシビリティが増加し建造期間が短縮される。
■商船では大型減速機を使わないシステムが一般化しており、減速機を使うシステムはコスト高になっている。艦艇もコスト低減の面からPODシステムを使用し、減速機の使用を止めたい。
■PODシステムは低速における艦艇の操船性を向上させるが、これはこれからの沿岸域でのミッションには必須の性能である。また、タグの支援なしで入出渠可能であり、コスト低減に繋がる。
■RDP PODシステムを用いることによる効率の向上は、エネルギー節約の国家要請に合致する。
 
第3−7図 18MW CRDP
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第3−8図 CRDP船と通常POD船の速力/出力比較
出典:Electric Boat
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第3−9図 CRDPの配置上の利点
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第3−10図 RDPを装備したHYSWAC







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