日本財団 図書館


3−2 電気推進システム
(電気推進の可能性)
 電気推進システムについてはコンセプトとしては古くから存在しており、過去においてはディーゼルエンジンによりDC発電機を回し、DCモーターに直結するシステムが用いられ、特に低速での運転を必要とするフェリー、タグ或いは砕氷船等のメカニカルなシステムでは得られない性能を必要とする船舶に適用されてきた。
 しかし、電気推進システムはこのところ進歩を遂げており、適用船舶も増えて船舶の全体的エネルギー効率の向上と排ガスの減少に貢献している。現在では周波数コントロール付のACモータードライブシステム及びSCRコントロール付のDCモータードライブシステムという2つのシステムが用いられている(500hp以下の出力ではSCRコントロール付のDCモーターの方がコスト的に有利である。)。両者とも効率は97%に達している。
 電気推進システムは推進用出力がその他用の出力に近いか、それ以下の場合に有利である。大型のクルーズ船は客室用の電力を大量に必要とするため、大部分の新造船はディーゼル電気推進を採用している。電気推進システムの利点として従来挙げられてきたのはトリムが問題となる船舶やディーゼル・メーカニカル・システムがスペースの関係で使えないSWATH(Small Waterplane Area Twin Hull)等の船舶、最低プロペラ回転数で最大トルクを必要とする船舶等への利点が強調されてきたが、船舶の全体的エネルギー効率と排ガスの観点から見直してみる必要がある。
 
(米海軍の取組)
 艦船の全電化については、推進、武器システム等全ての艦上システムを電動とすることによる操作とメンテナンスの容易、それに伴う乗員の減少、民間船との部品の互換性の向上、機械容積の減少に伴う武器容積の増大、燃料の相対的節約、全艦艇に共通統合動力システムを採用することによる海軍全体の費用節約等を目的として、米海軍のみならず英海軍、仏海軍等欧州の海軍でも取組が進んでいる。このような中2004年に発注が開始され、2010年に1号艦が引き渡される予定となっていた米海軍の沿岸駆逐艦DD21は、資金がかかりすぎるという理由でプロジェクトそのものがご破産になったが、DD21には統合動力システムIPS(Integrated Power System)と称する電気推進システムが採用される予定であった。DD21は消えたが、IPSは代替プロジェクトであるDDX用の動力システムとして検討されている。
 DD21のIPSはGEのガスタービンLM2500を発電機として用い、その電力で推進を始めとする艦内全システムを作動させる全電動システムである。米海軍はDD21以降、全ての艦艇を順次IPS化して全電動艦隊を作り上げる予定であった。いずれにせよ、米海軍はIPSの採用により、従来の機械システムに比して15%の燃料が節約され、艦の重量、スペースに余裕を持たせ、使命ゴールを向上させることができると考えていた。上記の議論は商業船でもその基本は同じであり、電気推進船の見直しポイントを含んでいる。
 DD21には艦艇の全体的エネルギー効率向上を目指して、最新の技術ができる限り盛り込まれることとなっていた。検討されていた新技術は、出力マネジメント・デジタル制御システムによるオペレーション・モードの多様化、PEBB(Power Electronics Building Blocks)、永久磁石モーター、超伝導モーター、パルス出力システム、燃料電池、蓄エネルギー装置、POD推進システム等である。超伝導モーターについては3−3節、燃料電池については4章で詳しく述べる。POD推進システムは現在クルーズ船等で盛んに使われている推進システムである。米海軍では超伝導モーターをPOD推進システムに組み込むことを考えている。
 
(電気推進のメリット)
 電気推進船の強みは、環境を考慮して最適な発電プラントを選べる点にある。ガスタービンがクルーズ船に使用される以前は、全てディーゼル電気推進船であった。プリンセス・クルーズ社の「Grand Princess」は6基の中速ディーゼルエンジンで交流発電機を回し、シーメンス推進システムを用いている(第3−4図)。その後、プリンセス・クルーズ社ではGEのLM2500+ガスタービン1基と中速ディーゼルエンジンをCODAG(Combined Diesel and Gas Turbine)として使用し、交流発電機を用いている。プリンセス・クルーズ社の113,000トンのクルーズ船2隻は交流発電機各4基、これより小さい88,000型2隻は交流発電機2基を搭載している。セレブリテイ・クルーズ社のMillenniumは、前節で述べた如くCOGESである。
 これら発電用ディーゼルエンジンの代わりに2章で述べたバイオ燃料エンジン、天然ガスエンジン、混焼エンジン等のクリーン・エンジンを使えば、それなりのクリーン効果が得られることは論を待たない。また、将来、安価な燃料電池が舶用として実用化された場合には燃料電池から直接電力が得られ、内燃機関と発電機が不要となり、コスト効果の高いクリーンな電気推進船が実現する。
 
(POD推進システム)
 POD推進システムは電気推進システムで始めて組み込みが可能なシステムであり、電気推進システムの一部として船舶の全体的な効率を向上させるシステムである。POD推進システムは、現在、クルーズ船に主として使用されているが、次第に小型客船、フェリー等にも使用されるようになっている。
 
■ロールスロイス
 ロールスロイスは世界最大の客船クイーン・メリー(QM2)に4基のMermaid PODを納入している。QM2はPODを4基装備する最初の船舶であり、船尾に配される2基は固定POD、船首に配される2基は旋回PODである。ロールスロイスはこの他、フランスやイタリアで建造中のクルーズ船に10基以上のMermaid PODシステムを受注している。
 
■ABB
 最も実績が多いのはフィンランドのABBのAzipodシステムである。Azipodシステムは1990年以来、70基が納入されている。船主別ではクルーズ船のカーニバル社が多く、少なくとも6隻にAzipodシステムが取り付けられている。ロイヤル・カリビアン社もボイシャー・クラスの3番船、3,840人乗りの「Advantage of the Seas」にAzipodを採用している。この船は2001年10月にフィンランドのクバナ・マサ造船所で引き渡された電気推進船で、発電機として6基のワルチラ・ディーゼル12V46C、合計出力75,600kW(内42,000kWは推進用)を使用し、合計3基(1基固定、2基旋回)のAzipodで運航される。ABBは最近、英国のボスパー・ソニークロフトで英海軍向けに建造されている2隻の海洋調査艦用としてAzipodを受注している。この艦は各1,700kW出力のAzipod2基を備えるが、海洋調査艦とはいえ英海軍でPODシステムを装備した最初の艦となる。
 今後ともタンカー、LNG運搬船等に採用されるPODシステムの数は多くなろう。ワルチラはLNG運搬船に使用される混焼エンジンは得意であり138,000立法メートル積のLNG運搬船にAzipodを使う設計を発表している。同船は20ノット、2軸固定ピッチ・プロペラ推進、舵の代わりにAzipodが取り付けられている。主推進プロペラとPODシステムの必要電力は26MWである。
 
 ABBでは上記の他、小型船用のコンパクトAzipodを売り出している。このコンパクトAzipodを取り付けた最初の船は、ヘルシンキ港近くの島を結ぶ小型客船フェリーである。この船は2001年秋、この厳しい海域で運航を始めた。このダブルエンド・フェリーは2基の400kW自由回転型タイプのコンパクトAzipodを装備している。同船は年間を通し、運航可能なように氷海中でも運航できるように設計されている。このフェリー会社がコンパクトAzipodの採用に踏み切った理由は、部分負荷時における高効率と低排気である。ABBがコンパクトAzipodを売り出したのは2000年6月であるが、上記の他、北海用多目的オフショア・サプライ船にも採用されている。
 
■その他
 以上の他、STNアトラス・マリーン・エレクトロニクスとオランダのリップスが共同開発したドルフィン・システムがある。特色としては、船体の下に流体力学的に最適化された強力な電動システムを備えており、高速船や高運動性能船等幅広い適用が可能なことである。ドルフィンは360゜回転するので、船首や船尾スラスターが不要となる。
 また、第3−5図に示すシーメンス・ショッテルのSSPシステムは永久磁石マグネット電動モーターを使用しており、コンパクトでPODをより下方に装着することが可能である。従って、流体力学的特性が他のシステムよりも優れているという。音や振動も少なく、またPODの前後にプロペラを備えているので、操船性が極めて良好で、客船に適している。この永久磁石とPODのボスの前後にプロペラを備えているツイン・プロペラ技術により、SSPシステムを装備した船は今後急速に増えると思われる。
 
第3−4図 グランド・プリンセス電気系統図
出典:シーメンス
(拡大画面:74KB)
 
 
第3−5図 シーメンス・ショッテルの SSP POD
出典:シーメンス
(拡大画面:245KB)
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION