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2−5 マイクロガスタービン
(マイクロガスタービン開発の背景)
 効率の良さと排気のクリーンなことで知られるマイクロガスタービンが開発されたのは1990年代である。従来型ガスタービン発電装置では、ガスタービンの羽根が回転し、その軸に接続された別の軸が発電機のモーターを回して電力を得ていたが、マイクロガスタービンでは1本の軸にコンプレッサー、タービン、発電機が取り付けられており、空気ベアリングを使って超高速回転させ、高い周波数を得ることにより、小型化に成功している。開発の主役はヨーロッパではアセア・ブラウン・ボベリー(ABB)、米国ではアライド・シグナル社である。
 マイクロガスタービン開発の発端は、効率の良い戦車用動力の開発といわれているが、1990年代軍事技術の民生化の波に乗り、自動車の他、クーラーやヒーターの動力等、あらゆる方面に利用することが考えられた。1996年にアライド・シグナル社で開発された新しい50kWのマイクロガスタービンはフォードのハイブリッド自動車用エンジンとしてテストされ、97年には発電用第1号として出力37kWの発電機が生産され、それに続いて98年秋、アライド・シグナルは出力75kWの超小型発電機パラロン75を発売した。その後、アライド・シグナル社はハネウエルを買収し、知名度の高いハネウエルの社名を名乗っていたが、2001年春GEがハネウエルの買収を申し出た。GEの申し出は直ちに連邦政府に認可され、GEのハネウエル買収は確実と思われたが、ヨーロッパ連合(EU)の反対により、2001年7月、GEのハネウエル買収は阻止された。その後ハネウエルはマイクロガスタービン事業をGEに売却した。GEは航空、発電、船舶用大型ガスタービンの世界的メーカであり、更にマイクロガスタービン事業を取り込んで、ガスタービンの分野でますます強力になると思われる。
 
(マイクロガスタービンと船舶推進システム)
 4−5節で紹介するMARADの港湾用燃料電池発電バージプロジェクトは、マイクロガスタービンがバックアップとして使用されている。高速船の場合も、将来燃料電池が主電源として使用されるような時代が来たとしても、主システムに何等かの故障が生じた場合、近くの避難港まで自力航行するためのバックアップ電源が要求されるので、将来、マイクロガスタービン/燃料電池ハイブリッドエンジンが舶用として脚光を浴びる可能性も高い。マイクロガスタービンのメーカーとして、米国で大手のキャプストン社はFuel Cell Energy社と共同でハイブリッドエンジンを開発し、既に数千時間の運転実績がある。
 
 キャプストン社は、1988年にアライド・シグナルからスピンアウトした人々がカリフォルニアに設立した会社で、マイクロガスタービンの生産では大手の一つに成長している。キャプストンは、アライド・シグナルがパラロン75を発売したのと同時期に30kWの発電装置を市販しているが、2000年9月には60kWの独立型発電装置Capston60を売り出している。キャプストンは1999年211基、2000年790基と急上昇し、現在まで2000基以上の装置を販売している。これらの発電装置に熱水システムを組み込んだシステムも売り出されており、発電のみの効率は28%であるが、熱効率も含めると実に70%となり、コジェネレーション・システムとしての需要が多い。1基の出力30−60kWは一般の家庭用としては多いので、ホテルやレストラン或いは地域全体の需要となるが、大出力の需要に対しても200基、12MW迄の連成が可能である。
 
(マイクロガスタービンの排ガス性能)
 マイクロガスタービンは、NOxの排出量が非常に小さいことである。キャプストンでは、ディーゼル油或いはケロシンを使用した場合は35ppm、天然ガス使用の場合2.4ppm、メタンガス(醗酵ガス)の場合1.3ppmと報告している。キャプストンの製品は日本でも発売され、既に200基がデニーズやマクドナルドで使用されている。
 最近、カリフォルニア南部沿岸大気管理庁は、141基のキャプストン発電装置を発注し、その全てを廃棄物埋め立て処理場から発生するメタンガスで運転すると発表している。燃料電池が水素を燃料としているので、水素燃料マイクロガスタービンと燃料電池とのハイブリッドエンジン開発が今後重要課題となろう。マイクロガスタービンはクリーン・エンジンであり、低公害車であるハイブリッド車に使用されて脚光を浴びている。キャプストンのマイクロガスタービンは、ガス燃料、液体燃料共にカリフォルニア州のCARBからハイブリッド車への使用を認定されている。ディーゼル油燃料使用の場合のNOx排出量は0.94g/kWhであり、この値はCARBが従来認定している最もクリーンなトラックやバス用の天然ガスエンジンから排出される量の半分近くである。キャプストン・エンジンは燃焼後のPM吸着装置を装備していないにもかかわらず、PM排出認定量は0.01g/kWhと、これまた非常にクリーンである。マイクロガスタービンのハイブリッド車への利用は、今の所大部分バス用である。また、バイオ燃料を使用してもクリーンであり、UL(Underwater Laboratory)等の安全性認証も受けているので用途は益々広がっている。
 
(マイクロガスタービンの効率向上)
 前述のアライド・シグナルのパラロン75には、熱を効率よく回収するためキャタピラーのガスタービン子会社、ソーラー社製の再生器(Recuperator)が組み込まれており、これにより発電効率も30%に上昇している。アライド・シグナルは出力500kW迄の機種の開発を手掛けていた。これらの装置はコジェネレーションとして使用される時最も威力を発揮し、その効率は60−80%に達する。マイクロガスタービンによる発電は原子力発電のコストの1/7といわれ、分散型発電となるので送電のロスもない。従来電力の8割を原子力に頼っていたフランスでも、2000年から2003年にかけ1/3の電力を自由化し、マイクロガスタービンに切り替えるといわれている。
 
 船舶も熱電同時使用システムであるが、従来エンジンからの廃熱を利用するという考えは一般的ではなかった。しかし、最近3−1節で紹介するように、ガスタービンと蒸気タービンのコンバインド・サイクルエンジンが採用され、更にエンジンからの残りの廃熱を客室用として利用し、100%エネルギーを使い切ることがクルーズ船で行われており、マイクロガスタービンの舶用化の機が熟している。米国のマイクロガスタービン界で近々市場に出ることが予想されているのは、インガソルランド・システム社(IRPS)のPower Worksである。Power Worksは、アライド・シグナルやキャプストンのような一軸設計とは異なり、タービン2台を内蔵する2軸設計である。第2−8図にPower Worksの全体図、第2−9図に系統図を示す。2002年始めに最初の商業製品である70kWのものが発表されている。本製品は1990年の初期にプロトタイプが完成しテストされている。Power Worksの基本になっているのはインガソルランドのターボ・チャージャーの技術であり、1994年にはインガソルランドの再生器が組み込まれた。発電効率は29%、コジェネレーション効率は70%に達している。天然ガス使用時の排ガスはNOx 9PPm、CO 9PPmとなっている。最終段の排気は清浄であり、且つ、高温(205℃)であるので、未だ利用価値がある。IRPSでは出力250kWのコジェネレーション用及び直接機械ドライブ用Power Worksの開発を進めているが、カリフォルニア・ガス、ニューヨーク・ガス、ガス技術研究所等のガス関連機関が支援していることもあり、今後の成果が期待されている。
 
(欧州の動向)
 マイクロガスタービンの開発は以上の如く米国勢が先行しているが、ヨーロッパではスウェーデンの自動車会社ボルボとスウェーデンとスイスの多国籍企業ABBが作った子会社Turbecが100kW出力のマイクロガスタービン発電装置T100の開発を進め、2002年夏には30基の納入実績をあげている。T100の技術の基本となったのはボルボが永年進めていた自動車用ガスタービン・エンジンである。ボルボのガスタービンは高効率、低NOx、高出力密度が可能なリーン燃焼設計を採用しており、燃焼に際しては液体燃料(当時はディーゼル油)は事前に気化され、空気と混合される。その後、天然ガス燃料用に改造されているが、T100はこの改造後の燃焼機を使用している。NOxの排出量は10PPm以下であるが、Turbecの保証値は15PPmである。NOx排出量を3ppmとするには触媒技術を組み込んだ燃焼器の開発が必要である。Turbecは、欧州共同体の特定分野技術開発協力支援プログラム(Eureka research Programme)の支援を受けた自動車向け先進ガスタービン開発プロジェクト(Advanced Gas Turbine for Automobiles;AGATA)の一員として触媒技術の開発に参加し、NOx排出量3PPmが得られることを確認している。触媒技術でNOx排出量3ppmを得るには、タービン入口温度をセラミック・ガスタービンに特有な1,350℃とする必要があり、プリ・ヒーター等の付属機器が必要となる。因みに現在のマイクロガスタービンの入口温度は1000℃前後である。T100はボルボのガスタービン技術を基にしているが、最初からコジェネレーション発電システムとして設計されており、発電効率30%、熱効率50%、合計80%の高効率を示している。
 
 以上のように、マイクロガスタービンは電力業界では燃料電池より一足早くコジェネレーションの主役になっている。3−2節で述べるように船舶の電気推進が見直されており、また、前述のように、マイクロガスタービンと燃料電池のハイブリッドエンジンも開発途上にあるので、今後注目が必要なデバイスであると考えられる。
 
第2−8図 IRPS社のPowerWorks 全体図
 
第2−9図 Power Worksの系統図
(拡大画面:50KB)
 







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