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2. エンジンの改善
2−1 バイオ燃料エンジン
(エタノール燃料)
 米国で使用されている最も普通なバイオ燃料は、バイオディーゼルとエタノールである。このうち使用量が圧倒的に多いのはエタノールで、毎年15億ガロン(1ガロンは3.79リットル)以上が酸化剤としてガソリンに混入され、車の性能を高め、大気汚染の防止に役立っている。CAAAは、CO値が大気基準を超す31都市地域での酸化剤混入燃料の強制使用と、その他のCO問題区域での任意使用を定めている。冬期これらの地域で売られるガソリンは2.7重量%の酸素を含んでいなければならないが、エタノールは揮発性が強いことと価格の問題から、従来殆どMTBE(Methyl Tertiary Butyl Ether)が使われてきた。しかし、ガソリンよりも水に溶けやすいMTBEが、地中のガソリン・タンクからの洩れその他の理由により飲料水の取水源となる地下水脈や湖に混入して住民の健康を害していることが次第に明らかとなり、EPAはガソリンの酸化剤として、MTBEに代わりエタノールを使用するよう指導している。これまでは巨大化したMTBE産業(化学製品の生産量として1997年第2位)に阻まれ、エタノールの利用はなかなか進まなかったが、カリフォルニア州など州政府によるMTBE使用規制や米国農務省の補助金による後押し等もあり、エタノールの使用量は着実に増加している。
 エタノールは衆知の如くアルコールの一種であるが、バイオディーゼルは脂肪酸アルキッド・エステルより成り立っており、植物油、動物脂肪、リサイクル・グリース等から製造される。これらの原料油はエステル化され、エタノールやメタノール等のアルコールと結合され、エチル・エステルやメチル・エステルに変化する。
 
(バイオ燃料の使用)
 エネルギー方針法98年改正法(Energy Policy Act of 1992、Amend 1998)は、クレジット対象の車が年間450ガロンのバイオディーゼルを使うことを許可しており、使用者もこれに合わせてディーゼル油にバイオディーゼルを混入して使用している。最も一般的な混入率は20%である。2000年の米国のバイオディーゼル年間生産量は5百万ガロンであるが、米国の生産能力は50百万ガロンと言われ、その使用量は年々着実な伸びを示している。
 一方世界全体では、一日に石油換算で25百万バレル(1バレルは42ガロン、159リットル)のバイオ燃料が使用されている。これは石油使用量の14%に達する。発展途上国ではバイオ燃料の占める割合は35%と高くなっている。ブラジルでは、砂糖キビ液を醗酵させたものから1日200千バレルという大量のエチル・アルコールを製造し、ブラジルの自動車が使用する燃料の半分を賄っている。1975年から90年の15年間で、砂糖キビの耕作面積は100万ヘクタールから400万ヘクタールへと増加し、400に及ぶアルコール製造工場が建設された。これによりブラジルは、石油危機を乗り切ると共に、年間9.45百万トンの炭素の排出を減らし、更に砂糖キビの絞り滓を発電用燃料として使用することにより、国全体のエネルギー効率を極めて高いものにしている。
 米国でも年間8,000MW程度の電力が木材、砂糖キビの絞り滓、その他の農業廃材より得られている。現在、バイオ発電で最も利用されているのは低圧ボイラーであるが、効率はlO%以下である。効率を高めるために提案されている技術は、固体バイオ燃料をガス化して低BTUガスとし、このガスでガスタービンを運転する技術である。このBIG/GT(Biomass Integrated Gasifler/Gas Turbine)では、バイオ燃料の経済的使用範囲といわれる20−100MWの小型発電機で45%以上の高効率を出すものと期待されている。
 現在、ブラジルで国連の下部機構であるGEF(Global Environmental Facility)より基金を受け、25MWのデモンストレーション・システムを建設するプロジェクトが米国のGE(General Electric)により進められている。
 
(船舶への適用実験)
 バイオ燃料は、化石燃料(海外のエネルギー)への依存度を減らすというブッシュ政権のエネルギー政策の一つの柱を担う燃料であり、また、既存のディーゼルエンジンを大幅に変更することなく舶用推進に使用可能なので、いくつかのバイオ燃料推進船プロジェクトが実施されている。
 バイオ燃料の実用化に最も熱心なのは農務省である。2001年12月、農務長官Ann Veneman は、バイオ燃料使用促進のためのローン及び基金$260百万を拠出すると発表している。本基金はバイオ燃料の生産、研究開発を含む広範な分野に適用される。バイオ燃料の使用に関する助成基金は他の連邦、州機関でも多く用意されており、船舶関係でもバイオ燃料使用船には数々の恩典が与えられている。
 
■フロリダの水上バス
 2001年9月、フロリダ州ブロワード郡公共交通局は、7隻の70人乗り新造水上タクシーの第一船「Clay Shaw」の引き渡しを受けた。Clay Shawはディーゼル油80%、バイオ燃料20%の混合燃料を使用する100kW ジョン・デイア発電機と推進モーターを組み合わせたクリーン推進システム船である。ブロワード郡公共交通局は、本船の建造に$2百万の連邦公共交通基金を受け取っている。また、運航の最初の3年間は、上記とは別の大気汚染を減らすことを目的とした連邦基金から$1.5百万の運航助成を受けることになっている。
 
■サンフランシスコ湾のコミューターフェリー
 2001年8月、サンフランシスコ湾水上交通局WTAは、サンフランシスコ湾内の大手フェリー運航会社「Blue & Gold Fleet」の400人乗り客船フェリー「Oski」を使って100%大豆油を燃料として使用するテストを実施した。Oskiは100%大豆油で運航された客船フェリーとしては最大の船である。本テスト・プロジェクトは、WTAが主体となり、MARAD及びBlue & Goldの協力の下に実施されたものである。この5ヶ月間にわたるプロジェクトは$25,000を連邦基金から、$57,000をBlue & Goldが負担している。本プロジェクトは、1−4節で述べた代替燃料技術デモンストレーション・プロジェクトの一部である。
 WTAは1999年、サンフランシスコ湾内のフェリー・サービスの新設、拡大のために設立されたが、同時に舶用エンジン及びインターモーダル・サービスに代替燃料を用いる案を立案する任務を与えられた。自社船を提供し、多額の出費をしているBlue & Gold(州政府等からの助成を得て、コミューターフェリーの運航を行っており、その航路拡大に関する期待も大きい)は、プロジェクトへの参加に際し、カリフォルニア州ベンチュラでチャネル島国立公園管理事務所が運航している100%大豆油燃料推進船の調査を実施したが、その船舶は小型で運航プロファイルも実験的なものなので、Oskiのように乗客を400人も乗せて一日に何回もサンフランシスコ港39番埠頭とアルカトラス島の間を往復する船の参考にはならなかったと述べている。Oskiの2ストローク、自然吸気、デトロイトディーゼル12V71エンジンは、テストに際し、本質的に手は加えられていない。各エンジンは800rpm、360hpで、10,000時間以上の運転歴がある。強いて言えば、基本的チューンアップが施されただけである。但し、エンジン中の全ての天然ゴム・ガスケットやシールは、バイオ燃料に耐えるよう人工素材のものに取り替えられた。
 Blue & Goldが実験に使用したバイオ燃料は、マサチューセッツ州のWorld Energy社からガロン当たり$2以下で商業的に調達されたが、この価格はNO.2ディーゼル油の価格(ガロン当たり$1.5−1.6)と比較しても、競争力のある価格であった。本テストの初期的結論は以下のとおり。
 ■燃料消費量の増大−バイオ燃料はカロリーが低いことから、ディーゼル油より5−15%燃料消費量が増大した。つまり、エンジンの効率は減少した。
 ■NOxは増大−アイドル、オペレーション、フル状態の平均値でいずれも増大。連続的に水を注入するとNOxは著しく減少する。
 ■エンジン内部の検査結果−エンジン内部は非常に清浄度が高かった。
 ■PMは極端に減少−すす係数は非常に低く、クリーンに燃焼し、不快臭もない。
 ■HCは減少。
 
■その他
 バイオディーゼルは、ニューヨーク市交通局でも、スタッテン島とマンハッタンを結ぶフェリーに採用を検討中である。現在は調査と陸上機器テストの段階であり、実船運航が近々行われる段階にはなっていない。







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