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日本の水産業の現状と問題点
 
独立行政法人水産総合研究センター
養殖研究所 松里 寿彦
 
National Research Institute of Aquaculture,
Fisheries Research Agency
Toshihiko MATSUSATO phD.
 
 我が国の漁業は、2000年速報値で、約27万人の漁業者によって、年間638万t、金額では1兆8,700億円の生産となっている。
 近年、漁業者、漁獲量ともに減少し、2000年速報値では、輸入は350万t、金額では1兆7,300億円となっている。
 我が国の漁獲量の減少は、主として、遠洋漁業の衰退と我が国沿岸、沖合でのマイワシ資源の減少による。遠洋漁業の衰退は、海洋資源をめぐる国際情勢の変化によるものであり、我が国周辺のマイワシ資源の減少は、多獲性浮魚魚種特有の周期的資源変動によるものと考えられている。世界の漁獲量は、中国を除くと、1990以降年間9,000万tとほぼ一定となっている。世界の漁獲量を論ずる場合、中国の漁業生産の急激な増大をどのように考えるかが重要である。
 我が国の水産物に対する需要は根強く、動物蛋白換算で約20%、最近30年間ほとんど変化がない。一方、需要の最も強い鮮魚価格は上昇を続け、1960年を基準とすると、食肉類の4倍に対し、実に12倍も高騰しており、この高価格、強い需要が輸入の増加を招いた主因でもある。現在、世界の水産物貿易の30%、水産輸入金額の26%、特にマグロ類やカニ等は、世界の水産総輸入額の50%を我が国が占めており、世界の主要な貿易対象魚種の価格のほとんどが、我が国の市場で決められているような状況は決して健全な姿ではない。
 我が国の養殖業生産は、魚介藻類合計で、2000年速報値で123万t、金額にして5,300億円となっており、生産量、金額ともに停滞している。生産量ではブリ類、コンブ、ワカメ類、金額ではコンブ、ワカメ類の減少が目立つ。内水面に関しては、生産量、金額とともに減少。
 
 我が国の水産業の主な問題をまとめると以下のとおりである。
1 漁業者が減少、高年齢化しているにもかかわらず、漁具・漁法の発達により資源量に対し漁獲圧が高いこと。
2 我が国周辺の総資源量(推定値)が大幅に減少していること。
3 輸入量が増大し続け、水産物の自給率が低下し続けていること。
4 輸入品との直接、間接的競合の結果、我が国の養殖業は後退を余儀なくされつつある。一方、我が国の市場のみを目的とした特殊な養殖業には持続性は期待できず危険である。
5 我が国は、世界の水産業の安定的持続的発展のために、むしろ自給率を70%程度にまで向上させることを目標とし、我が国周辺の資源の回復、養殖業の再建等に努力している。
6 我が国は、過去の多くの経験から、水産業の持続的発展のためには、漁業資源の生態的利用を提唱している。







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