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2. 英国の一般病院における院内緩和ケアチームに関する研修
東京大学大学院 医学系研究科健康科学・看護学専攻
成人看護学/ターミナルケア看護学・博士後期課程 笹原朋代
 
【研修国名】
英国 (Scotland、England)
 
【研修期間】
2002年9月23日〜2002年12月20日
 
【研修機関】
*Scotland 9月23日〜10月11日
Marie Curie Center, Fairmile
Western General Hospital
Royal Infirmary Edinburgh
St Columba's Hospice
 
*England 10月14日〜12月20日
The University of Sheffield
Royal Hallamshire Hospital
Weston Park Hospital
Cavendish Center
Northern General Hospital
Barnsley Hospice
St Luke's Hospice
Chesterfield Royal Hospital
 
【研修内容】
9月23日〜10月4日 Marie Curie Center、Fairmile
 ホスピスにおける各職種の役割と職種間の連携、ホスピスを中心とした地域における緩和ケアサービスの提供について
10月7日〜10月11日 Western General Hospital
 がん専門病院における院内緩和ケアチームの役割について
10月9日 St Columba's Hospice
 ホスピスにおける各職種の役割と職種間の連携、デイホスピス、コミュニティサービスについて
10月10日 Royal Infirmary Edinburgh
 総合病院における院内緩和ケアチームの役割について
10月14日〜10月17日 The University of Sheffield
 イントロダクション、South Yorkshire地域における緩和ケアサービスの提供、臨床と研究機関との連携について
10月21日〜10月23日 Royal Hallamshire Hospital
 総合病院における院内緩和ケアチームと緩和ケア外来の役割について
10月28日〜10月30日 Weston Park Hospital
 がん専門病院における院内緩和ケアチームと緩和ケア外来の役割について
10月10日 Cavendish Center
 緩和ケアにおけるcomplementary therapyの意義とその役割について
11月4日〜11月14日 Northern General Hospital
院内緩和ケアチームと緩和ケア病棟を併設する総合病院での緩和ケアサービスの提供について
11月18日〜11月21日 Barnsley Hospice
 ホスピスでの多職種チームケアの実際とデイホスピスについて
11月25日〜11月28日、12月9日、12月10日 St Luke's Hospice
 ホスピスでのケアの実際と地域における緩和ケアサービスの提供について
12月2日〜12月5日 Chesterfield Royal Hospital
 総合病院における院内緩和ケアチームと緩和ケア外来の役割、他の診療科との連携について
 
10月14日〜12月20日(毎週金曜日)
 The University of Sheffieldのthe Masters in Medical Science (palliative care)に参加
 「encountering illness and disease」および「research methodology and study skills」について
 
キーワード
 緩和ケア/院内緩和ケアチーム/コンサルテーション
 
I. はじめに
 わが国におけるホスピス・緩和ケア施設の数は、2002年12月までに112施設2115床にのぼっている1)。しかしながら、ホスピス・緩和ケア病棟で死亡する患者の数は、全がん死亡の約2.5%2)にしか満たず、多くの患者は一般病棟あるいは在宅で専門的な緩和ケアサービスを受けずに死亡しているのが現状である。2002年4月、一般病院での緩和ケアサービスを推進する目的で、院内緩和ケアチームの配置が診療報酬の中で認められるようになった3)。今後、多くの施設がこのチームを設置するものと予測される。
今回、多数の院内緩和ケアチームが活動している英国で、その役割と実際の活動状況を学ぶとともに、地域における緩和ケアサービスへの取り組みについて研修したので、ここに報告する。
 
II. 研修目的
 英国における院内緩和ケアチームの役割とその現状について理解し、わが国の社会・文化背景に沿った一般病院および地域における緩和ケアサービスのあり方について検討する。
 
1. 英国における院内緩和ケアチームの役割とその現状について理解すること
2. 地域における緩和ケアサービスへの取り組みについて理解すること
 
III. 研修方法
 目的1に関しては、緩和ケアチーム、特にCNS(Clinical Nurse Specialist:専門看護師)についての病棟ラウンド、多職種合同カンファレンス・研修会への参加、緩和ケア外来の見学を行い、目的2に関しては、ホスピスでの各職種へのインタビュー、在宅ホスピスケアチームとの患者宅訪問、デイホスピス見学、多職種合同カンファレンス参加、病棟でのケア参加を行った。
 
IV. 英国の院内緩和ケアチームの歴史
 英国では、1960年代にCicely Saundersが中心となって近代ホスピスムーブメントが始まった。これは、キリスト教活動の一環として以前から行われていた巡礼者、病人や貧窮者に対するケアを、死に行く患者に対し、より科学的・専門的なアプローチをもって提供しようとするものであった。また、これは治療を目標とした医療から、ケアを重視した医療への大きな転換期でもあった。こうしてホスピスケアの考え方が英国全体に広まり、ホスピスケアを提供する場としてホスピスが造られるようになり、その数は急激に増加していった。英国における患者の主たる療養の場は在宅であり、ホスピスに入院する患者の多くは、苦痛が緩和されると自宅へと戻っていった。そのため患者が在宅で安楽かつ安心して過ごすことができるように、ホスピスのスタッフが患者の自宅を訪問するようになり、それが在宅ホスピスケアチームへと発展した。これもホスピス同様、英国全体に急速に広まっていった。
 このようにしてホスピス・在宅ホスピスケアは発展したが、多くの患者が死亡している場所は、依然として一般病院acute settingであった。そこで、ホスピスケアの考え方を一般病院にも導入し、入院患者のケアを向上し、また在宅療養を推進していくために、New YorkのSt Luke's Hospitalにある院内緩和ケアチームをモデルとして、1976年にLondonのSt Thomas Hospitalに英国初の院内緩和ケアチームが設立された。
 
V. 院内緩和ケアチームの推移
 2002年のHospice and Palliative Care Facts and Figures4)によると、現在、院内緩和ケアチームが存在する病院の数は、英国全体で321にのぼる。そのうち、CNS単独での活動が100となっている。その数の推移は図1のようである。1990年代に入りチーム数は急激に増加し、1998年頃より横ばい状態となっている。
 
VI. 院内緩和ケアチームの特徴
1. 巡回型かつコンサルテーション型
 病棟を持たずに、依頼referされて病棟に行くという形をとっている。これにより、疾患を問わず、多くの患者に緩和ケアサービスを提供することが可能となる。また、緩和ケアチームは、基本的に相談を受けアドバイスをする「コンサルタント」という立場であり、病棟チームに代わって治療・ケアの主導権を握るようなことはしない。治療・ケアの責任の所在はあくまで病棟チームにあるということを院内緩和ケアチーム、病棟チームの双方が認識したうえでケアが行われている。
 
2. ナース主導型チームnurse−led team
 緩和ケアチームの中心はCNSを中心としたナース主導型チームである。英国におけるCNSは、わが国と違い資格ではなくポストである。つまり、各施設が設定した条件に合うナースをCNSとして採用する。がん・緩和ケア領域での研修の有無および経験年数などが条件となるが、その内容は施設によって多少異なっている。CNSのポストの多くはマックミランがん救済財団Macmillan Cancer Reliefにより資金援助されていることが多い。その場合、そのCNSはマックミランナースと呼ばれる。







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