日本財団 図書館


5. スピリチュアリティ、スピリチュアルケアとQOLとの関係
― 北米、英国における文献調査研究を中心に ―
 
関西学院大学 社会学部・専任講師 藤井美和
 
I. 研究の目的・方法
 クオリティ・オブ・ライフ(以下QOLと記す)は、1980年代以降、特に終末期医療、終末期ケアとの関係で特に注目されてきた。QOLは生命の質、生活の質と訳されるものであるが、その中心概念となるのは、いかに『長く生きるか』でなく、いかに『よく生きるか』というものである。どんな状態であっても常に病気を治すことを目的とし、病気と闘うことを価値として認めてきた近代医学に対し、治らない病気に対しても同様に治癒を目的としてよいのか、病気を持つ人にとって高度な技術を用いて少しでも長く生きることが幸せなのかという、これまで近代医学の保持してきた価値に対する疑問と反省から生まれてきた概念がQOLなのである。そこには、治療による治癒(Cure)からよりよい生へのケア(Care)への転換がみられる。この意味でQOLはガン末期の治癒の期待できない患者に対して、「どのように生を支えるか」に焦点を当てるとき特に重要なものと位置付けられるようになった。その結果、「QOLの向上」は終末期医療や終末期ケアの「目的」となり、同時に「QOLの向上」は終末期ケアの「アウトカム」となったのである。したがって、終末期の患者のQOLをどのように高めていけばよいかという課題は、終末期医療にとって要となる部分である。しかし、この課題に取り組むには、まずQOLとは何なのかを明らかにしなければならない。つまりQOLの構成概念を明らかにして初めて、終末期医療がQOLに貢献しているのかを科学的に評価することが出来るのである。
 また、近年QOLに貢献するものとしてスピリチュアリティがあげられている。スピリチュアリティはWHOでもその健康の定義に加えることが検討されている概念であり、特にがん末期の患者や終末期にある人にとってスピリチュアリティはQOLの重要な要素として注目されている。しかし、その概念についてはこれまであまり議論されていない。
 本研究の目的は、1)よりよいケアのアウトカムとされている概念、QOLがどのような構成概念で成り立っているのか、2)スピリチュアリティが何を意味しているのか、3)スピリチュアリティはQOLとどのような関係にあるのか、そして4)スピリチュアルケアはQOLの向上に貢献するのかを明らかにすることである。そのために、QOL研究が進んでおり、かつスピリチュアルケアを実践しているイギリス、アメリカ、カナダの実証研究の文献レビューを中心に研究の目的を達成する。
 
II. 研究の内容・実施経過
 4月から8月まではQOLとスピリチュアリティに関する実証研究の文献収集を精力的に行った。研究の目的に沿って、QOLの構成概念に関するもの、スピリチュアリティの内容に関するもの、QOLとスピリチュアリティとの関係についての実証研究を集め、文献ごとに整理して内容をまとめた。8月以降はその内容を分析する作業に入り、10月は最も新しい研究についての情報と資料を収集するため、カナダでスピリチュアリティの研究者にインタビューを実施した。11月以降はそれらの結果をまとめ、最終報告書を作成した。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION