日本財団 図書館


3)アンケートIIとインタビュー調査より
 スピリチュアルケアにおいて「よく聴くこと」が必要な資質として、チャプレンからも医師・看護師からも1番に上げられた。(図3)医師はそれに次いで「優しい柔和な対応」「人格的なバランス」「きちんと関わってくれること」を選んでいるのに対し、看護師は「安心して相談できること」「きちんと関わってくれること」「受容力があること」を選んでいる。一方、チャプレンの方は、「共感力があること」が2番目に多く次いで「受容力があること」「人格的なバランス」という順で選んでいた。
 チームの中での大切なチャプレンのあり方としては、医師と看護師はチャプレンと同様(表4)に「チーム全体の動きを把握してケアができること」を期待して上位に上げているが、「チャプレンが患者や家族との関わりの情報をきちんと報告してくれること」も同等程度に期待度の中に入っていることがわかった。(表5
 スピリチュアルケアのあり方に関しては、医師、看護師ともに「スピリチュアルペインに応じて適切なケアの方法を知っていること」をチャプレンへの期待の1番目とし、2番目は「スピリチュアルペインを表出しやすい雰囲気を相手に提供できること」を選んでいる。(表7)これはチャプレンのスピリチュアルケアのあり方においての課題とするところ、上位2つと同様である。(表6
 チャプレンがスピリチュアルケアにおいて評価している働きは、17人中13人の人が1番につけた「宗教的援助」次いで「スタッフのスピリチュアルケアの相談とアドバイス」や「宗教的儀式の執行」さらに「スピリチュアルケアをチームの中でチャプレンがリーダーシップをとって実践すること」が上げられ、最後に「話しをよく聴くこと」が上げられた。(表8)医師、看護師は反対に1番に「話しをよく聴くこと」が圧倒的に多くの人数によって選ばれていた。次いで「スタッフのスピリチュアルケアの相談とアドバイス」3番目に「宗教的援助」や「宗教的儀式の執行」、そして最後に「スピリチュアルケアをチームの中でチャプレンがリーダーシップをとって実践すること」が上げられた。
 インタビュー調査で、チャプレン8人、看護師8人とお会いしたとき、表7表8からわかる意識の違いを感じた。つまり、チャプレンにとってスピリチュアルケアのあり方で1番大切なことは「宗教的援助」である。チャプレンは、宗教的援助が提供できてこそ独自の働きの満足度を得ることができるのであり、そのためか、宗教カラーが言動上強くなったり、ついついあせってチャプレンのニーズで伝道(宣教)にまで至るケースがある。チャプレンでなければならない出番が中々到来しないことに焦りを感じたり、宗教的な話しを一切しない訪問に戸惑いを感じるチャプレンのストレスをインタビュー時によくお聞きした。
 しかし、医師、看護師が望んでいるチャプレンの像は、「話しをよく聴いてくれる人」であり、「宗教を押しつけずに心のケア全般にかかわってくれる人」「チームに情報をきちんと報告してくれる人」「スタッフのよき相談相手となり、スタッフの心のケアのできる人」である。
 インタビュー時、8人の看護師からお聞きしたチャプレンへの期待は、スピリチュアルケアの技術的なあり方への期待ではなく、8人全員がチャプレンの人格に関する願いやチームワーク性に関する希望ばかりであった。チャプレンたちは、スピリチュアルケアの技術マスターに関心を傾けている方が多かったが、チャプレンはスピリチュアルケアに取り組むとき、もっと自らのマナーに注意し、患者や家族、そしてチームのほかのメンバーが何をチャプレンに求めているのかを知らなければならない。
 
2. まとめ
 1990年に出されたWHOの「スピリチュアル」の定義によると「スピリチュアル」は「宗教的」と同じ意味ではないとされており、従ってスピリチュアルケアは宗教的ケアと同一ではない。スピリチュアルケアにおいて、宗教的援助(教えや儀式)が大きな助けとなることもあるが、誤ってスピリチュアルケアは宗教的ケアそのものであるという意識やスピリチュアルケアは伝道(宣教)活動の機会であるという意識を持っている場合、チャプレンの言動が宗教の押しつけと理解され、患者やスタッフからクレームがつくことがある。それゆえにチャプレンはスピリチュアルケアに対する正しい理解を持っておく必要がある。
 スピリチュアルケアは、チームケアでありチャプレンもチームの一員として独自の立場を使った働きが期待されている。そのためにチームの中でまず他のメンバーに対して和む存在となり、スピリチュアルケアについてスタッフのよき相談相手になることや患者や家族との関わりから得たスピリチュアルペインの情報やチャプレン自身が提供したケアのあり方をチームに十分に還元できるものとなる必要がある。
 チャプレンが宗教的ケアばかりでなく、スピリチュアルケアを含める心のケア全般にかかわることを他のチームメンバーは望んでおり、そのためにもチャプレンが誰とでも関わりを作っていける人柄や関わり方をもっている必要がある。医師や看護師から、高度な専門技術に関する期待ではなく、基本的な人としてのあり方に関するチャプレンへの要望が多かったことが、今回の研究で印象的だった。
 
IV. 今後の課題
 17人中11人のチャプレンがホスピス以外の病棟を兼務しており、しかも人数が少ないため業務が多くて、ホスピス患者、家族への十分なスピリチュアルケアに携われない現状にある。
 現職のホスピスチャプレンは、全国でも数少なくほとんどがキリスト教主義の病院でしか働く道が開かれていない。宗教的援助だけでなく広く心のケアを提供するイメージをもっと打ち出して、チャプレンが国立系の病院でも必要とされるようになりたいと願う。
 チャプレンになるための教育システムが、日本では確立されていない。チャプレンになったあとの成長に関わる研修システムもない。各チャプレンは現場で、チームワークの組み方に関しても、ケアの方法に関しても、経験を通して成長することになるが、それは孤独な道のりである。
 チャプレンの場合、所属する宗派がまちまちで、そのためにスピリチュアルケアとして必要な宗教的アプローチの仕方において、それぞれの教えや信仰によってなされるので、考えを統一したり、アプローチをマニュアル化することができない。
 ホスピスチャプレンとして、今後必要な研修プログラムとしては、コミュニケーション技術のプログラム、自己の内面への探求と癒しのプログラム、自己表現のプログラム、他者を受容するためのプログラム、体験したことを咀嚼するプログラムなどを上げたい。
 今後チャプレンが、チームメンバーに必要とされ、孤独ながらもこつこつとスピリチュアルケアに携わり続けることができるようにこの研究から得たものを今後まとめて、チャプレン仲間に分かち合いたいと思っている。
 チャプレンのスピリチュアルケアのあり方に関しての大切な鍵は、チームワーク性にある。しっかりチームワークの組めるチャプレンはおのずと提供するスピリチュアルケアも豊かになり実るのである。
 筆者自身チャプレンとして、今回の研究からチャプレンのあり方に多くの課題があることを考えさせられ、今後もこれらの課題と向き合い、取り組んでいきたいと考えている。
 
V. 研究の成果等公表予定
 関連学会および関連学会誌で公表する予定である。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION