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3. マッサージ実施中の看護者の気づき
 患者からは、「もういいですョ」「看護婦さんもきついでしょう」「ありがとう」など、看護者のことを気遣ってくれたという遠慮と感謝が表されている。また、看護者からは、「気持ちよさそう」「これで眠れそうだ」「ウトウトしはじめた」「眠ってしまった」という観察結果がある。
 アロママッサージをして倦怠感を緩和するという目的達成のために、意図的に用いられた道具的タッチが、アロマオイルとマッサージであり、ケア実施時の圧迫の程度、時間の長さ、頻度などが関係する。また、触れられる部位、触れられる人によって、快の体験にも、不快の体験にもなり、満足感も違ってくると思われる。
 今回の結果のうち、マッサージの圧迫の程度は不明だが、マッサージ中の力の入れ加減が気になった看護者が多い。
 
4. がん患者の倦怠感を緩和するマッサージの方法
 マッサージの方法では、「さする」が一番多く、次に「おさえる」、「もむ」、「たたく」などの順であった。マッサージを実施した時間は、マッサージをはじめて身だしなみを整えるまで、平均25分間を要していた。マッサージを行った回数は、1人平均3.2回であった。しかし、中には最高12回マッサージを希望した患者も含まれている。
 マッサージ部位は、下肢が多く、ついで、背腰部、上肢であった。それらの部位は、患者が希望したり、看護者が症状や主訴等の軽減を目的として患者に合意をとり、行った部位である。マッサージは、緩和ケア病棟の看護師が行っており、患者と日々のケアにて面識があった。通常緩和ケア病棟ではプライマリーナース制をとっており、患者―看護者間のコミュニケーションはとれていた状況であると判断できる。
 高柳7)は、「満足は、ある行為や結果に関する主観的な、かつポジティブな結論である・・・同じ事をしても、期待の程度によって、満足に至るかどうかが決まる。・・・期待度だけでなく、患者の特性により実際に受けた行為と、満足の程度が変わる」という。さらに、患者の閾値がこれを分けると言う。
 一般的に、「看護師がマッサージをする」という認識をもっていない患者が多い。アロママッサージをしてくれないだろうと思っていた患者が、「わたしの為にこんなこともしてくれた」と思ったことが、遠慮や感謝の言葉として表現されているのではなかろうか。すなわち、アロママッサージをしてくれたことが期待以上で、しかも、快の体験結果であり、喜びと満足が、かえって大きかったのかも知れない。
 
5. がん患者にアロママッサージを実施したきっかけ(表6
 倦怠感緩和目的でアロママッサージの対象者として看護者が選んだ患者は、「痛み」がある患者が断然多い。次に、浮腫・不眠・倦怠感とあり、症状軽減が大きな目的である。「眠れない」「だるい」「きつい」と言われてアロママッサージを計画したり、「苦しそう」「体動が激しい」また「閉眼してじっとしている」などがあった。患者から「アロママッサージをしてほしい」と言われて実施しているケースも多い。
 看護者が「倦怠感がある患者にマッサージをすること」をどのように判断しているかをみると、苦痛症状を緩和し軽減すること、苦痛状況を緩和し「眠る」という状態になること、気持ち良い状況で療養すること、又、そのきっかけづくりとしてのケアの一つにマッサージを捉えている。
 
IV. 今後の課題
 倦怠感評価結果から言えることは、がん患者にマッサージを行うことで倦怠感が軽減するが、アロママッサージを使用した方が、より倦怠感が緩和できた。
 しかし、本研究では、がん患者の研究対象数が少数であるため、さらに症例数を集め、より確実な統計学的な判断をすることが課題である。あわせて、アロマテラピーの専門的学習後の看護者のアロママッサージに対する評価を行うことがあげられる。
 
V. 研究の成果等の公表予定
 本研究を、日本死の臨床研究会・日本看護福祉学会・日本看護学会で、口頭発表。ならびに、関連領域への投稿を予定している。
 
引用文献
1)小島操子他:なぜ代替医療か―患者の気持と癒しの可能性―、ターミナルケア、Vol.10 No.5 Sep., p.332-363, 2000
2)奥山徹他:わが国で開発されたがん患者の倦怠感アセスメントスケール、Expert Nurse, Vol.15  No.10  September, p.54−56, 1999
3)岡崎美智子編:基礎看護技術、メジカルフレンド社、p.272-274, 1998
4)Ruth von Braunschweig、手塚千史訳:アロマテラピーのベースオイル、フレグランスジャーナル社、p.72, 2001
5)操華子、川島みどり、菱沼典子編:鎮静を促す技術―タッチングの効果・経験的知識―別冊「ナーシング・トゥディ」、No.9, p.89-93, 1996
6)Wanda Sellar、高山林太郎訳:アロマテラピーのための84の精油、フレグランスジャーナル社、2002
7)高柳和江:医療の質と患者満足度調査、日総研出版、P.44, 1995
 
参考文献
1)阿部正和:看護生理学、メジカルフレンド社、1988
2)岡崎美智子:看護ケアに関する手・タッチングの概念の考察、西南女学院大学紀要、Vol.1 p.11-21, 1997
3)Barbara F. Piper、Patricia C. Buchsel、有永洋子:がん患者の倦怠感どう見る、Expert Nurse、 Vol.15 No.10  September, P.43-65, 1999
4)畑山峰他:看護に対する患者満足度の検討、第30回日本看護学会集録(看護管理)、P.75-77, 1999
5)深井喜代子他:癌性疼痛患者の痛みの評価と緩和ケア、臨床看護、25(10) , P.1555-1561, 1999
6)舟島なをみ:質的研究への挑戦、医学書院、2000
7)石浜みち子他:がん患者の倦怠感に対しフェイス・スケールを用いた評価の試み、看護技術、Vol.48 No.2, P.100-104, 2002-2
8)川島みどり、菱沼典子編、看護技術研究会執筆:看護技術の科学と検証―日常ケアの根拠を明らかにする―、別冊「ナーシング・トゥディ」、No.9、日本看護協会出版会、1996
9)宮内貴子他:終末期がん患者の倦怠感に対するアロマテラピーの有効性の検討、ターミナルケア、Vol.12 No.6 Nov., P.526-530, 2002
10)奥山徹、野末法子、柘植尚子他:全身倦怠感をやわらげる、Expert Nurse、 Vol.14 No.7  June, P.35-47, 1999
11)Penelope Ody、英国ハーブソサエティ編、近藤修他訳:メディカルハーブ、株式会社日本ヴォーグ社、2002
12)瀧島美紀:全身倦怠感、看護技術、Vol.48 No.12, P.193-196, 2002-10増
13)山田朱織:今医療におけるアロマテラピーを考える、Expert Nurse、 Vol.18 No.2  February, P.18-20. 2000
14)吉田聡子他:香りが自律神経系に及ぼす影響、日本看護研究学会雑誌、Vol. 23 No.4 P.11-17, 2000







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