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15. 大学病院の一般病棟におけるスピリチュアルケアに関する研究
大阪市立大学 看護短期大学部・講師 上西洋子
 
I 研究の目的・方法
 大学病院に入院する患者について我々は臨床で時々生命告知された期間より延命する患者に会うことがある。彼らは一般に現実を受け入れ、充実した時間を過ごそうとする姿勢がみられる。しかしどのような要素が延命にかかわっているのかは明確でないが、スピリチュアリティに関する要素が影響しているのでないかと考えられた。この研究では、大学病院の一般病棟に入院中または入院していた終末期癌患者を対象に、生命予後について告知された期間よりも延命できている要因を明らかにすることを目的とする。
研究方法
 調査期間:平成14年5月〜平成15年2月
 対象とデータ収集方法: 告知された余命以上に生存できている某大学病院に入院中または入院していた患者で、調査参加に同意が得られた終末期癌患者8名を対象とした。対象者の選択では、生命予後は約半年から1年ぐらいで、特定の宗教を持たない患者とした。短時間の面接では充分聴けないので、各対象者に2・3回ずつ調査者によって面接を行った。患者の延命に関しては患者の体験を尋ねた。面接は半構成質問紙を用いて行った。具体的内容は患者の生育暦や現在の生活、病気や治療への考え方、生き方などであり、それらについて自由に語ってもらった。患者の了承を得てからテープレコーダーに面接内容を録音し、遂語録を作成した。一回の面接は30分から1時間でプライバシーが保てる場所で行った。
 倫理的配慮:研究対象者で面接の同意を得たあと、面接経過中いつでも対象者が中止できることを説明した。面接で得た録音内容は文章化したあと消去した。またデータから個人が特定できないよう番号で表しデータ処理した。データは鍵のかかる場所に管理した。
 分析:収集した逐語録から、患者の延命につながる文脈から意味を取り出し、共通する意味を表す表題をつけて分類した。さらに類似している表題を集めそれぞれの要素を明文化し、延命につながる要因として取り出した。
II 研究の内容・実施経過
 スピリチュアルに関する概念ついて文献や資料を取り寄せて学習会を行った。終末期患者の全人的苦痛に対しては、身体面・精神面・社会面・スピリチュアルな面からの緩和ケアの重要性が取り上げられている。スピリチュアルについてWHOの定義1)2)3)4)5)では霊的な側面には宗教的な因子だけでなく身体的、心理的、社会的因子を包含した人間の生の全体像を表し、生きている意味や目的などにも関わっているとされている。1998年では健康の概念にスピリチュアルな健康を含めるか否かで議論になり、スピリチュアルへの関心が高まってきている。しかしわが国ではスピリティアルに関しては概念化されておらず6)7)8)検討段階である。スピリチュアルケアやペインの概念化に向けてさまざまな研究9)10)11)がされてきているが、スピリチュアルケアに関して大学病院における看護師の認識に関して研究は見当たらなかった。またホスピス病院や緩和ケア病棟ではスピリチュアルなペインを含む全人的苦痛に対して、さまざまなスピリチュアルケアの実践がされてきている状況である。一方、大学病院に入院する患者の中には終末期を迎える患者もいるが、大学病院では最先端の高度医療が優先し、積極的治療中心であり緩和ケアへの移行が明確でない場合も少なくない。また終末期に近い状態であっても、患者や家族が積極的な治療を希望し急激に重篤に陥ったりする場合もあり、患者の緩和ケア、なかでもスピリチュアルケアに関してはどの程度実践されているか明らかでない。そこで、まず大学病院ではスピリチュアルケアがどの程度実践されているか知るため、スピリチュアルケアに関する認識と実態について某大学病院の一般病棟における看護師を対象に7月に調査を行った。その結果、スピリチュアルペインやケアについては分からないという回答が多かった。これは高橋ら12)研究と同様の結果であった。そして終末期癌患者や家族の生命予後に対する質問では困っている状況が明らかになった。また、スピリチュアルケアが心理的ケアや社会的ケアと混同されている現状も明確になった。この成果については、平成14年11月4日に第7会日本老年看護学会で発表することができた。
 また、スピリチュアルペインやケアについて学習会を行い、淀川キリスト教病院のホスピス病棟の田村師長から2回講義を受けた。スピリチュアルについて某大学病院の終末期癌患者の延命に関する要因についての研究は平成14年8月から平成15年2月までの期間に行った。







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