日本財団 図書館


6. 視覚障害の主な原因疾患
1)未熟児網膜症:未熟児で出生した場合に、網膜の未熟性が原因で発症することがあります。在胎週数が短いほど重症になりやすい傾向があります。軽度のものは自然治癒の傾向が強いのですが、重症の場合は治療を行っても網膜剥離を生じ視覚障害の原因となることがあります。
2)網膜色素変性症:症状としては、徐々に進行する夜盲と求心性視野狭窄があります。視力は末期まで比較的良好に保たれます。世界中で盛んに研究が行われていますが、現在のところ有効な治療手段はありません。
3)緑内障:我が国においては主要な中途失明原因(第2位)です。視神経障害の進行に伴い視野障害が進行し、中心視野が障害されると視力が急激に低下します。一度障害された神経の回復は不可能であり、また初期の視野障害は自覚されないことが多いため、視覚障害を最小限にするためには早期発見・早期治療によって可能な限り視野障害(神経障害)の進行を食い止めることが重要です。
4)糖尿病網膜症:我が国においては主要な中途失明原因(第1位)です。糖尿病が原因で眼底出血から網膜剥離・緑内障に進展すると強度の視覚障害を生じます。比較的後期まで自覚症状に乏しいため治療開始が遅れやすい傾向があります。視覚障害を最小限にするためには血糖のコントロールが重要なことは論を待ちませんが、自覚症状がなくても定期的に眼底検査を受け眼科的な治療のタイミングを逃さないようにすることが重要です。
 
7. 眼科医からみた視覚障害者への対応(ロービジョンケア)4)
7.1 はじめに
 ロービジョンケア=視覚補助具の処方ではありません。どちらかというと視覚補助具の処方はごく一部です。眼科医療に係るものにとって視覚補助具の処方はいくつかのポイントをつかめば決して難しいことではありません。一方、ロービジョン者にとっては、この視覚補助具を正確に処方してもらうことで「読み書き」などが大きく改善されることも多いのです。
 
7.2 外来での対応
7.2.1 医学的評価
 視力、視野など正確な評価はケアの内容を決定するのに必要な項目です。一般的な検査方法では「測定不能」であっても、工夫によって測定可能になる場合が多いので、ロービジョンケアのための評価では、「患者さんが最も見やすい」状況でも検査を行い、その結果を把握する必要があります。5cmの距離でも新聞が読めればその距離で読み書きを行うことが可能なわけです。患者さん一人一人見え方が異なりますので、その方に合ったケアを提供するためにも、一人一人に合った検査を工夫して行います。
 
7.2.2 リハビリテーションヘの導入(モチベーションを高める)
 回復困難な視機能障害の診断が得られた場合、すぐに告知、視覚補助具の処方することがロービジョンケアではありません。ケアの対象は人格を持った「ひと」であり、それまでの人生経験などによってさまざまなバックグラウンドを持っています。眼科医療の対象は「目」ではなく「ひと」です。不都合、悩みなどをもった「ひと」が対象ですので、相手に合わせた全人的な対応が必要です。特に中途で視機能障害のため多くの不都合に直面している方は「もとのように見えるようにしてもらいたい」と受診されます。けっして診断・告知が受けたいわけではありません。これまでは診断(・告知)だけでその後のフォローがまったくなされていないことがほとんどでした。信頼関係の構築がケアの継続には必要です。できるだけ時間をとってゆっくり患者さんの話を聞き、患者さんの見えにくさ、不都合の詳細などを知ることはケアの近道であり、信頼関係構築にも役立ちます。さらに「障害の受容」や「積極的に訓練に取り組む」までには時間を要することが多いのです。モチベーションを高める手伝いをすることも眼科での役割です。急がせたりすることがないよう気長に対応しつづけることが重要です。(ただし、高齢者の場合はのんびり待っているとあきらめてしまうことが多いので、例外的に早急な対応が必要です。)
 
7.2.3 社会資源の活用(福祉への橋渡し)
 外界の情報を入手するのに五感のなかで最も重要な視覚が障害されると、運転免許が取れなくなるなど社会的な不利(ハンディキャップ)も大きくなります。多くの社会的な不利を多少でも補う手段についても相談にのる必要があります。患者さんの生活を抜きにケアはありえません。実際、当分の間生活費の心配せずに訓練(ケア)に専念できるかどうかが非常に重要になるケースも少なくありません。これらの手段として下記のものがあります。
1)身体障害者手帳:手帳を持っていることが公的な援助の条件になっていることが多いので、患者さんの了解が得られれば手帳の申請が第一歩です。
2)医療の給付:育成医療、身体障害者(児)医療費助成、更正医療費の給付、難病の医療費助成(特定疾患治療研究事業)などがあります。
3)保育・教育:盲学校は今後ますます視覚障害への対応においてセンター的な役割を増していくものと思われます。けっして「盲学校に相談に行くこと」=「入学すること」ではありません。多くの情報をもっているセンターとして医療従事者も患者(家族)も連絡をとることをお勧めします。
4)日常生活の支援:補装具の交付、日常生活用具の給付・貸与、盲導犬の貸与などがあります。視覚補助具においては、拡大鏡(図6−1)や遮光眼鏡(図6−2)は補装具、拡大読書器(図6−3)は日常生活用具です。給付される補助額が少ない眼科領域の補装具の場合は、手続きのために役所を訪れるのにかかる交通費、給付までにかかる日数などを考えると、申請手続きの割に補助額が小さいため、手続きをせずに購入を希望するかたも多く、補装具の申請については必ずお勧めすべきとはいえませんが、拡大読書器を入手する場合には日常生活用具の給付を受けると(世帯主あるいは社会保険の被保険者の所得税額によって自己負担額が異なりますが)多くの場合自己負担なしで入手できますので相談の上手続きをしたほうがよいと考えています。
5)所得保障:ここでは給付条件などについてはふれませんが、国民年金(障害基礎年金)、厚生年金(障害年金)などがあります。例えば国民年金の場合、1級で年額約100万円、2級で年額約80万円の給付が受けられます。入所による訓練(ケア)の必要性を感じていても、その間の収入がなくなるようでは訓練(ケア)にふみきれません。給付をうける手続きをすることが入所訓練をうけることにつながることもあります。
 
7.2.4 視覚障害児の教育・就学指導
 先天性視覚障害児に対するリハビリテーションは多くの点で異なる対応を求められます。保護者の相談にのりながら、教育・就学などについては就学前から盲学校などと連絡をとりながら対応することをお勧めします。
 
7.2.5 視覚障害者の就業・能力活用
 現状ではけっして容易ではありませんが、まずそれまでの経験・知識を生かすことのできる雇用継続ができるような方向でケアを計画すべきです。タートルの会(中途視覚障害者の復職を考える会http://www.asahi-net.or.jp/~ae3k-tkhc/turtle/)などで相談にのってもらえます。患者さんや家族と相談して決めることですが、はじめは医療従事者が間に入ったほうがよいかもしれません。
 
7.2.6 生活訓練など
 視覚補助具を有効に使用するためにもトレーニングが必要になることがあるのと同様に、患者さんの行動範囲、活動性、視機能障害の程度などによって必要度は異なりますが、トイレ、食事をはじめ、家庭内・外での行動には専門的なトレーニングが必要になることもあります。一方で、簡単な「手引き歩行」などは多くの人ができたほうが良いと考えています。さらに、安全な行動のための手すりの設置や簡単な歩行(移動)の介助についての助言程度は眼科外来で家族などに対して行うべきです。
 
7.2.7 関連団体との連携(ネットワーク)
 医療機関だけでケアを請け負うことは不可能です。実際、眼科領域でケアを前向きに考えるようになったのはつい最近のことで、言い換えると、これまでケアを担ってきた多くの団体があります。それらの団体と連携をとりながら得意分野を発揮しあい苦手な面では協力し合える体制作りが望まれます。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION