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8. 視覚障害のある人に対するリハビリテーションの諸問題
 我が国においては「障害者プラン」が進められ、「視覚障害をはじめ障害のある人の高年齢化、障害の重度化・多様化とともに、それらのニーズとそれへのサービスも大きく変わろうとしています。そのような中、今日の視覚障害のある人の社会への完全参加を遂げるために、専門的援助方法の1つである視覚障害リハビリテーションが今後どのようなことを配慮し、変化して行かなければならないかについて考えてみましょう。
 
8.1 自己決定及び当事者参加の重視
 自分に必要な制度は自分で選び、不足しているものがあれば、障害のある人自身も参画して新たな制度を作る。すなわち、なにをするにも自らが選び自らが決定し、当事者参加へと発展させて行く必要があります。しかし、これらの原則を貫くことと利己主義とは全く異なることを当事者自身熟知していてもらわなければなりません。そうでないと後になり周囲の者から痛烈な批判を受けたり逆差別と非難されることになってしまいます。
 
8.2 生活の質(QOL:quality of life)の更なる重視
 各種制度がある程度整ってきた状況下では、最低生活の保障ではなく、個人の生活に着目して、より豊かな社会生活を営むための制度をさらに充実させなければなりません。視覚障害のある人自身、アメリカの視覚障害リハビリテーションやその専門職員養成開始時に見られたような考えがますます重要となります。
 
8.3 利用者(当事者)の評価機能の増大
 自己決定や当事者参加による決定がますます重要視されるようになると、利用者は受けているサービスに対しての評価機能をもつようになり、各種のサービスを提供している側の善し悪しとサービス内容の量と質が問われ、ニーズに即応できない、あるいは不十分なサービスは淘汰せざるをえなくなります。従来のように、一度実施された制度は固定化し、時代やニーズの変化に即応しにくかったのですが、今後はこの評価機能が増大することによって柔軟な対応が可能となるでしょう。
 
8.4 利用者負担の増大
 サービスの受益者には、その能力に応じて金銭的一部負担が実施されていますが、財源確保と同時に無駄を省くために、それは応能負担から応益負担へと移行して行くことになるでしょう。いかに公平且つ適切な利用者負担を導入するかは、サービスシステム構築の大きな課題となります。
 
8.5 提供されるサービスから買うサービスヘの移行
 ニーズの個別化や多様化が進むにつれ、また制度利用に際して利用者の金銭的負担が増大すると、サービスを買う方が得策であるという思いが広まると考えられます。アメリカのみならず、我が国の一部の自立生活センターにおける介護者の採用・解雇に関する自己決定は、その1つの例と言えます。介護に必要なだけの金銭を本人に支給し、本入が介護者の採用・不採用・解雇を決定するように、介護サービスを買う形式となるでしょう。
 
8.6 自立を目指した介護支援システムの普及
 我が国では高齢者に対する公的介護保険の適用と施行が実施された以降も、介護の在り方が問われていますが、各種のサービスが受け身的世話型介護に偏重しやすい傾向にあります。しかし、介護支援サービスの提供に際しては保有能力を開発し、本人の意欲を向上させるような積極的自立支援型介護へと転換して行く必要があります。すなわち各個人の主体性や能力が重視される制度を普及して行かなければなりません。援助方法の1つとしてのリハビリテーションは、決して介護と相反するものではなく、両者は車の両輪のようなものなのです。
 
8.7 視覚障害リハビリテーション関係職員の専門職化
 この課題についてはアメリカに学ぶべきところが多くあります。特にリハビリテーション関係職員の専門職化は、早くからアメリカで実現し、大学の学部や大学院課程で歩行訓練指導員やリハビリテーションティーチャー(視覚障害のある人に対してコミュニケーション訓練や日常生活動作訓練を指導する専門家)の養成が行なわれています。1995(平成7)年の時点では12校の大学で歩行訓練指導員が、4校でリハビリテーションティーチャーの養成が実施されています。また注目に価するのがリハビリテーションカウンセラーです。カリフォルニア州の場合、そのほとんどは歩行訓練指導員あるいは、リハビリテーションティーチャーまたは、カウンセラーの有資格者で、長年障害のある人に対するリハビリテーション業務を経験していた者が従事しています。彼らは、自分達に割り当てられた区域内の障害のある人に適切なリハビリテーションサービスを提供する事が任務であって、いわばケースマネジャー(ケアマネージャー)と同様の業務です。このリハビリテーションカウンセラーには視覚障害のある人が多く採用されています。障害受傷後早期の段階で、同じ障害のある経験豊富な有資格者のカウンセラーから適切な助言を受ける事は、リハビリテーションの出発点において好影響が与えられています。正にピアカウンセリングの長所を取り入れているのです。
 我が国の場合、歩行訓練指導員とリハビリテーションティーチャーを別々に資格化する事は、制度上困難かもしれません。せめて両者を1つの資格とし、「視覚障害リハビリテーション専門職員」あるいは「視覚障害生活訓練専門職員」(仮称)として、資格化するのが妥当ではないかと考えられます。さらに、地域リハビリテーションを展開するためには、専門家である訓練指導員を各々の視覚障害関係施設に配置しないと充分なサービス提供ができません。視覚障害のある人に質の高いサービスを提供し、社会への完全参加をスムーズに遂げて行ってもらうために、視覚障害関係施設への専門職員の配置基準の設定と専門家の資格化は不可欠です。
 
8.8 視覚障害リハビリテーションの拠点づくり
 各地方に最低1箇所の「視覚障害リハビリテーションセンター」(仮称)を設置し、そこを拠点に地域リハビリテーションサービスを提供するような体制を整えていかなければなりません。現在、我が国の東北・中国四国・北陸山陰の各地方には、専門的な視覚障害リハビリテーションサービスを総合的に提供している機関は存在しません。
 
8.9 盲学校及びその教育の変貌
 児童・生徒の多様化に伴う盲学校の役割・機能の変化に対応すべく、理療研修センター、就学前教育センター、視覚障害情報提供及び相談センター、教員の研修センター等として新たな役割・機能を持たせ、各地方に存在する視覚障害リハビリテーションセンターと連携し、地域リハビリテーションを推進することも必要です。
 
8.10 権利擁護(アドボカシー)システムの確立
 サービスを選択する能力の乏しい障害者を代弁する第三者を定め、権利を擁護させ、他の人と同等の社会生活が営めるようにしていかなければなりません。さらに、その後見人が正しく役割を担っているかを監督する機関の設置も必要となります。
 
<引用文献>
1)小島蓉子 編著(1993):改訂 障害者福祉論(p117)建帛社
2)日比野清 共著(1994):視覚障害者の社会適応訓練 第2版(p8)社会福祉法人 日本ライトハウス 視覚障害リハビリテーションセンター
3)世界盲人百科事典編集委員会 編集(1972):世界盲人百科事典 社会福祉法人 日本ライトハウス
4)岩橋英行(1966):第3回世界盲人福祉会議(1964年)会議報告書(p302)社会福祉法人 日本ライトハウス
5)前掲書(p303)
6)水野祥太郎・小池文英・稗田正虎・松本征二 監修(1967):リハビリテーション 講座 第1巻(p84)一粒社
7)小島蓉子 編著(1978):社会リハビリテーション(p24)誠信書房
8)厚生省(1966):身体障害者福祉審議会答申書(第3章第3節)厚生省
9)岩橋英行(1968):有能なる社会人への創造(p110)社会福祉法人 日本ライトハウス
10)高橋精一(1968):中途失明者福祉のための基礎的研究 社会福祉法人 全国社会福祉協議会
11)ロバート C.ジェイクル(Robert C.Jaekle)(1970):歩行訓練指導員養成講習会 講義録テープ 社会福祉法人 日本ライトハウス
12)前掲テープ
 バーソルド・ローウェンフェルド・著 高島文一・訳(1968):盲児のしつけ 京都府立盲学校90周年記念事業委員会
13)11)同掲テープ
 トーマス・J・キャロル・著 松本征二・監修 樋口正純・訳(1977):失明 社会福祉法人 日本盲人福祉委員会
14)11)同掲テープ
15)大山信郎・佐藤泰正 編集(1978):視覚障害の教育と福祉(p276)図書文化社
16)社会福祉法人 日本ライトハウス 職業・生活訓練センター(1977):視覚障害者のためのリハビリテーション 1. 歩行訓練 社会福祉法人 日本ライトハウス
 
<参考文献>
1)視覚障害リハビリテーション:社会福祉法人 日本ライトハウス
2)日本ライトハウス21世紀研究会編(2002):わが国の障害者福祉とヘレン・ケラー教育出版







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