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2.11 減速逆転装置
 舶用減速逆転機とは、主機関の回転数を減速してプロペラ軸に伝えたり切ったりすると共にプロペラ軸を任意の方向(右又は左)に回転させる装置で、通常船舶の推進装置として用いられるものである。
 この装置の主要部分は、クラッチ部(摩擦により機関の出力をプロペラに伝えたり切ったりする部分)と歯車部(機関の回転を減速並びに切ったりする部分)で構成されている。
 
1)クラッチ
(1)クラッチの種類と構造
 クラッチには、いろいろな構造のものがあり、最も簡単なものは船外機などに用いられている噛合式クラッチ(通常はドグクラッチと言っている)もあるが舶用機関に多く使用されているのは摩擦式クラッチである。摩擦式クラッチにもいろいろな形式のものがあり、種々分類されているがその一例を下記に示す。
 
 
(イ)ユニオン式クラッチ
 小形機関に広く用いられてきたクラッチで、2・240図に示すような部品で構成され、ハウジングに拡張環を固定すると、推力軸はクランク軸と同じ方向に回転し、ハウジングを制動帯で固定すると推力軸は、クランク軸と反対方向に回転する。
 なお、この拡張環式のユニオンクラッチは、伝達トルクが大きくなるとスリップ等の間題が出てくる。2・242図に示すクラッチは、拡張環の代わりに多板式の摩擦板を使用して、伝達トルクを大きくした摩擦板式ユニオンクラッチである。このクラッチは、クラッチドラムの中に、内側と外側にスプライン状の溝を切った摩擦板を交互に並べ、テコ式の締め付け金具により締め付けることによりクラッチドラムの回転を推力軸に伝達する構造となっている。又ブレーキバンドを締め付けることにより、拡張環式ユニオンクラッチ同様推力軸は反転する。
 
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2・240図 拡張環式ユニオンクラッチ
 
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2・241図 拡張環式ユニオンクラッチの作動図
 
2・242図 摩擦板式ユニオンクラッチ
 
(ロ)ディスク式減速逆転機
 この減速逆転機は、2・243図に示すように、クランク軸端に取り付けられたハウジングの中に、フローティングプレート(中間板)を挟んで前進摩擦板と後進摩擦板が取り付けられており、前進摩擦板、後進摩擦板には、それぞれ軸端に小歯車を取り付けた前進軸及び後進軸が取り付けられている。なお、後進軸は中空になっており中に前進軸が通っている。中間板を前又は後に移動して、ハウジングとの間に前進摩擦板を圧着すれば、前進摩擦板、前進軸、前進小歯車、の順に大歯車を駆動する。又後進摩擦板を圧着すれば、後進摩擦板、後進軸、後進小歯車、中間歯車の順に大歯車を駆動し、中間歯車が入っているので回転方向は反対となる。減速比は、小歯車と、大歯車の歯数を変える事により変更できる。又中間板の操作は、通常テコを利用したレバー式(棒)のものが使用されているが、最近はリモコン操作が出来るようにレバーを油圧で操作するようにしたものもある。
 
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2・243図 ディスク式減速逆転機の構造図
 
2・244図 ディスク式減速逆転桟の作動図
 
(ハ)油圧・湿式単板減速逆転機
 このクラッチは、2・245図に示すように前記のディスク式クラッチの中間板の移動を、油圧で行えるようにしたもので、クラッチに装備した油圧ポンプにより作動油を前後進の切換弁を経て前進又は後進作動筒内に導き、作動筒に固定されている前記の中間板に相当する摩擦板押さえを動かし、前進又は後進の摩擦板をハウジングに圧着させ、前、後進の切換を行うものである。
 なお、作動油は前進軸内に加工された油孔を通って作動筒内のシリンダに導かれている。
(ニ)油圧湿式多板減速逆転機
 小形機関から中大型機関まで幅広く使用されている減速逆転機で、前進用、後進用、別々の多板式クラッチを内蔵しておりその一例を2・246図に示す。図の減速逆転機では、前進、後進各1個のクラッチを使用しているが前進に2個使用したものもある。
 
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2・245図 油圧湿式単板減速逆転機の作動図







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