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(ハ)排気タービン過給機の特徴
(a)特長
(1)機関の小形軽量化ができる
 同一出力の無過給機関に比べて過給機関は、軽量小形となり機関室が小さくでき、船の積載量が増加できる。同重量の機関では過給により出力が増加し船速が増す。
(2)馬力あたりの製作費が安い
 機関が小形軽量化できるため、製作費も安くなる。
(3)機械効率の向上ができる
 機関の摩擦損失馬力は、機関の大きさ、回転数による影響が強く、また回転数が一定の場合、平均有効圧力の大小によってはまったく変らない。従って過給機付の場合は、平均有効圧力が上昇し、有効仕事量も増加するが摩擦損失は余り変化しないので機械効率が向上する。
(4)馬力あたりの燃料消費量が少ない
 機械効率の向上に伴い、燃料消費率を無過給機関に比較して2〜10%向上することができる。
(5)過給機の駆動に軸出力を使用しない
 機関と直結か、または単独で送風機を駆動する過給機は、出力の5〜10%が送風機駆動に消費されるが、排気タービン過給機は、送風機駆動のための損失がない。
(6)過給機と機関に機械的な連絡がない
 機関と機械的な連絡がないので、機関の回転数に関係なくクランク軸の所要出力が大きくなると、排気の持つエネルギも大きくなり、自動的に過給機軸の回転が上昇して、吸入空気圧力も高まり、機関の使用状態に適した運転ができる。このため機関の正回転、逆回転にも関係ない。
(7)消音作用がある
 排気ガスタービン過給機は、排気の爆音を少なくする作用が強いので、排気サイレンサは簡単なもので充分である。
 
(b)欠点
(1)燃焼室周辺の温度が無過給機関に比べて少し高温になる
 排気温度は吸気温度の変化に対して、2・152図のように変る。吸気温度10℃の上昇に対し、排気温度はシリンダ出口で18〜23℃位上るが、この傾向は高速エンジン程大きく、吸気温度上昇分の約2〜3倍位高くなる。
 
2・152図 吸気温度と排気温度の関係
 
(2)最高爆発圧力が上昇するので、機関の振動が大きくなる。またシリンダヘッド締付けトルクも高くする必要がある。
(3)排気タービンが故障したときは、機関出力が減少する
 無過給機関に比べて圧縮比が低く、又オーバラップが大きいので、排気タービンが故障して給気圧が上らなくなると、上死点で排気ガスがシリンダ内へ逆流し、そのために同一形式の無過給エンジンより出力が低下する。
 普通、舶用エンジンの場合は過給機が故障した場合でも、タービン軸を固定または応急短絡管を用いれば規定回転数の50〜70%の回転数で使用する事ができる。
(4)低負荷において燃焼が悪くなる。
(5)過給機の取扱いや、保守に注意しなければならない。
(3)構造と機能
(イ)軸流タービン(アキシャルタービン)
 軸流タービンは、排気ガスがタービン翼の中を軸方向に流れる方式で、一般に空気流量の大きい大形機関に採用されている。2・153図にその代表的な断面図を示す。
 
2・153図 アキシャルタービン断面図
(拡大画面:71KB)
 
(a)回転軸およびタービン翼
 回転軸には、タービン翼が固定されていて、翼は600℃〜700℃の高いガス温度と高い回転数によって発生する遠心応力を受ける。したがって、回転部分は十分な動的バランスが取ってある。
 軸受部へのガスの流入、および潤滑油の吸出しを防止するため軸上には、油切リング、および気密ラビリンスを置き、ラビリンス中央部へ送風機より高圧空気を導く構造となっている。
(b)空気入口
 布と金網を重ねたコシ網製のフェルト形、耐蝕性金属を重ねた金網形と、径および長さが10mm程度の金属又はプラスチック製円筒を数多く詰合わせた金環形フィルタ等が取付けてある。
(c)ブロワ羽根車
 ブロワは遠心式のため、回転軸にはめ込まれ、キーまたはスプラインによってトルクが伝達される。羽根入口部は回転方向に湾曲しており、この部分を前翼と云い、これに続く放射状の部分をインペラ、または主翼と呼んでいる。
(d)ノズルとデイフューザ(案内翼)
 排気タービンが規定回転で効率よく作動するためには、タービンノズルとブレード(翼)の面積と形状が、排気エネルギに適し、送風機のディフューザも機関の所要空気量に適したものでなければならない。送風量が機関の所要空気量より多いときは、送風機にサージングが発生し、風量・風圧が脈動し騒音と振動を発生し運転不可能となる。このような場合には、タービンノズルおよびディフューザを交換することによって適正な性能を得ることができる。
 送風機の風量が機関所要空気量より極端に多くなると羽根の前面の圧力が高く背面の圧力が低くなるので流速は羽根の前面で遅く、背面で速くなるため羽根の前面で逆流が起きて渦が発生し空気の流れは不安定になり騒音と振動を発生する。この現象をサージングという。
(e)軸受および給油装置
 現在使用されている給油装置は、玉軸受油浴潤滑方式である。回転軸にはめ込まれた玉軸受は、その外側をダンパで支持され、軸受箱にはめられている。また、軸受外輪は固定されている。回転軸の両端に給油円板がはめ込まれ固定されており、軸の回転とともに給油円板も同時に回転する。潤滑油は円板が2〜5mm入った状態で油面が保持されているため円板が回転することによって、潤滑油は上部に吸い上げられ、その一部は軸受箱上部の潤滑油通路を通って玉軸受の右側に落下して溜り、軸受を潤滑する。
 最近の過給機には、軸受給油装置として、補助ポンプが多く装置されている。タービン軸に固定された油噴射筒の内部に、挿入されたニップルは、油吸入囲に固定され、油吸入囲は、軸受箱に固定されている。油噴射筒とニップルは、リングにより空気気密が保たれる。タービン軸の回転により、油噴射筒も同一回転をし、遠心力により、潤滑油を吸入、吐出する。潤滑油吐出口は、玉軸受に至り、玉軸受を、給油する方式がとられている。
 玉軸受は軸が高速回転し、温度が60℃〜70℃に上昇するので、特に精度の高いベアリングが必要で、使用時間も6,000時間〜8,000時間に制限し安全を守っている。
(f)軸気密(ラビリンスパッキン)
 過給機の軸気密は空気、ガス、油のもれを最小限にする目的で作られている。軸に輪状の溝をきり、板状の不綉鋼などをワイヤで埋めこんでコーキングにより軸に固定したもので、気密性能にすぐれ、軸と接触した時も損傷が少ないなどの特徴がある。しかし分解・組立時の取扱いに注意しないと板状鋼のストリップの尖端を損うことがある。また長時間の運転によって、カーボンなどで摩耗することが多々あり、損耗した場合はこれを交換できる構造になっている。
(ロ)輻流タービン(ラジアルタービン)
 ラジアルタービンは、タービン翼車内をガスが半径方向に流れ円周に配列されたノズルを通り、大きな接線速度を与えられる。そしてタービンの羽根に衝突し、タービン軸を毎分60,000〜160,000回転させながら中心方向に流れ、軸端より軸方向に排出される構造で空気流量の小さい場合はアキシャルタービンより優れており小形高速機関に多く採用されている。2・154図にその代表的な断面を示す。
 
2・154図 ラジアルタービン断面図
(拡大画面:32KB)
 
 タービンと送風機は1本の軸で連結され、送風機の翼はタービンと同じ回転数で駆動される。送風機の中心より軸方向に流入した空気は回転するインペラを通る時、圧力をあげ、大きな接線速度を与えられて、ブロワケース内に入りしだいに減速されながら圧力を増して吸気管に送り込まれる。
 タービン軸はタービンホィールとブロワホィールの中間にあるフローティングメタルで支えられている。フローティングメタルはメタル内外面で油膜が二重になり、メタルはつれ廻りするのでタービン軸の回転数よりも軸受面の滑り速度は低くなり動的安定効果がある。







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