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2)燃料噴射弁
(1)機能と構造
 ディーゼルエンジンの原理は、圧縮された赤熱空気の中に燃料を細かい霧状にして噴射し、着火燃焼した熱ガスをピストンに作用させこの力を動力源として取り出すものであるが、燃料を噴射する方法に空気噴射式と無気噴射式とがあり、現在のエンジンはほとんど無気噴射式となっている。空気噴射というのは燃料と圧縮空気を同時に噴射する方式であり、燃料の微細化が得られる特長がある。無気噴射は燃料のみを噴射する方式であり空気噴射に比較して構造が簡単である。2・96図に燃料弁の構造を示す。
 制約された場所で良好な燃焼を得るためには種々の条件が必要で、燃料の噴射状態によっても燃焼の良否が大きく左右されるので、当然燃料噴射には次の4条件が必要である。
 (1)霧化、(2)貫通力、(3)分散、(4)分布
 これらの一つひとつにはさらに種々条件が伴い、複雑な問題となるが今ここでは簡単に説明する。
 
2・96図 燃料噴射弁ホルダの構造
(拡大画面:49KB)
 
(1)霧化: 霧化は燃料を細かい霧状にすることで燃料の全受熱面積を増大し、着火および燃焼を良好にすることを目的とする。そのため燃料に圧力を加えて細かい噴孔から噴出させる。圧力を高くすると、より細かい霧となり、圧力が低いと霧化が悪く、遂には棒状となって噴出し燃焼困難となる。一方霧が細か過ぎると、途中で密度の高い空気との摩擦によってやせ細って遂にはガス体となり、すべてが新鮮な空気の中に到達して十分な空気と触れ合うことができないため、かえって燃焼が悪くなることがある。
(2)貫通力: 貫通力は噴射された燃料粒子が密度の高い空気の中を貫き進んで新鮮な空気の中に十分に到達して相互に触れ合う割合を多くすることを目的とし、このためには燃料粒子にある大きさと質量が必要である。また貫通力が強過ぎれば燃料がシリンダ壁にぶつかり、かえって不完全燃焼し、カーボンを生成して悪影響をおよぼす。貫通力と霧化の条件は相容れぬ関係にある。
(3)分散: 分散は、噴射された燃料が燃焼室内各方向に均一に分散し、新しい空気と接触する割合を多くすることを目的とし、多噴孔弁で一部の噴孔が塞ったりすると分散も悪くなる。
(4)分布: 分布は噴射された燃料粒子の密度が噴孔からの遠近および燃焼室内各所において均一であり、より合理的に空気を利用できることを目的としている。
 
 以上の複雑な問題から、噴射圧力のみについて考えると、単に圧力を上げるだけで良い燃焼を得られるとは限らず、種々の実験から最も適当とする噴射圧力を規定している。
(2)燃料噴射弁の種類
 燃料噴射弁は以上のような噴射条件を満たすためにエンジンに応じた機能をもったものとなっている。
 ディーゼルエンジンに用いられている噴射弁は次の3種類がある。なお形状を2・97図に示す。形状
 ピントル形およびスロットル形は副室式エンジンに、またホール形の多孔式は直接噴射式のエンジンに用いられている。
 
2・97図 燃料噴射弁の種類
(拡大画面:20KB)
 
(3)噴射圧力
 噴射弁に与えられる噴射条件を満足させるためにエンジンの型式および燃焼方式等によりそれぞれ噴射圧力が決められているが一般のディーゼルエンジンの噴射圧力は、概略2・8表のような範囲で使用されている。
 
2・8表 噴射弁と噴射圧力
ノズル形式 燃焼室 噴射圧力 MPa(kgf/cm2
単孔ノズル 予燃焼室式 11.8〜15.7(120〜160)
多孔ノズル 直接噴射式 19.6〜34.3(200〜350)
 
(4)点検と整備
(i)噴射弁
 燃料油の中に噴射弁を浸し、ニードルを数回摺動してから円滑に動くか確認する。ニードル弁を約1/3程度抜き出し、垂直に立てて手を離した時、自重で降下し着座すれば良い、作動が固い時は交換する。ニードル弁に摩耗、焼付、腐蝕のあるものは交換する。ニードル弁シートの当りを点検し、カーボンの噛込みや軽微な傷のある場合は摺合せ修正する。シート面に損傷がある場合は交換する。
 噴口の詰りや清掃はニードルを抜き噴口径よりやや細目の針を噴口部へ廻しながら通しておこない、そのあと噴口径と同じ清掃針を通す。最後に燃料油で洗浄し、圧縮空気を吹き付ける。
 噴口がつぶれたり変形拡大したり、腐蝕したものは交換する。
(ii)燃料弁ホルダ
 噴射弁の合せ面にある軽微な損傷は油砥石で修正する。ノックピンの曲ったものや折損したものは交換する。
 ノズルスプリングに損傷、亀裂、へたりなどがある場合は交換する。インタスピンドルの曲り、折損したものは交換する。
 取付ナットは十分清掃し、締付ネジ部にへたりのあるものは交換する。又、かえりなどがあるものは修正する。
(iii)噴射圧力の調整
 噴射弁をホルダに組付けたあと噴射弁の開弁圧力を規定圧力に調整すると共に噴霧状態の点検をする。
 一般に噴射圧力(開弁圧力)は燃焼方式により前記2・8表の範囲内に設定されている。
 2・98図に示すようなノズルテスタに噴射弁ホルダを取付け、調圧バネを締付けながら規定圧力で開弁するように調整する。調圧が終了したら調圧ネジをナットで固定する。
 
2・98図 噴射圧力の調整
 
 最後にノズルテスタのハンドルを1分間に20〜30回の速さで強く押しながら開弁圧力を再点検すると共に噴霧状態を点検する。噴霧テストの場合噴霧を紙の上に吹き出して、その形状、大きさ、広がりなどを点検する。
 ただし、手の平を噴霧に近づけることは危険であり、絶対にやらぬように注意が必要である。噴射圧力は各部が使用中に摩耗して低下するため定められた期間毎に点検調整しなければならない。
(5)噴射圧力と燃焼の関係
〔圧力が低過ぎる場合〕
(1)燃料の霧化が悪く、不完全燃焼により黒煙が出て出力が低下する。
(2)噴射始めが早くなり噴射量が増し着火遅れが大きくなって、一時に着火するため最高圧力が高くなりノッキングを起し易くなる。
(3)噴射終りの切れが悪く、後燃えを生じ燃焼ガスの浸入が起るため噴射弁が摩耗又は膠着し易くなる。
 
2・99図 噴霧テスト
(拡大画面:62KB)
 
〔圧力が高過ぎる場合〕
(1)噴射始めが遅れるが霧化が良くなり、噴射量が少なくなるため完全燃焼し、ガス色は良くなるが出力は低下する。
(2)噴射始めが遅れ噴射期間が短かくなるため最高圧力が下り静かな運転ができる。
(3)圧力が高いので噴射ポンプの寿命やニードル弁シートの傷みも早く、噴射管の管内圧力が高くなるので亀裂を生ずる恐れがある。
(6)噴霧テスト
 噴射弁の形式により噴霧状態は大きく異なる。一般的な噴霧テストによる噴霧状態を直接噴射式および副室式に分けて2・99図に示す。







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