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1.4 ボルト締結の信頼性
 ボルト締結の信頼性を上げるための要因図を補・9図に上げる。
 
補・9図
 
1)適正な寸法と形状の決定
 普通標準ボルトを締付けた場合、ボルトにかかる応力分布は補・10図のようになる。
 
補・10図
 
 したがってトルク勾配法または回転角度法などによって降伏点または塑性域でボルトを締結する場合はボルト自体もそれに対応した形状にする必要がある。その一例を補・11図に示す。いずれにしても補・10図の集中応力のかかる部分の応力を緩和する設計上の対策が必要でボルト幹部で伸びが主として発生するような形状になっていることが肝要である。
 
補・11図
(拡大画面:9KB)
 
 また疲労強度を上げる対策として、ボルトヘッドを冷間打ち出しにする、ねじ部を転造ねじにする、幹部の表面粗さを小さくする、ボルトヘッド頸部にショットピーニングまたは冷間ロール加工を施すなどの対策も場合によっては必要になってくる。
 
2)適切な締付け法と締付力
 締付け法については前項で述べたが、ここでは力の荷重点がボルトの軸心より大きく離れた補・12図のような場合の締付力について考えてみる。
 
補・12図
(拡大画面:18KB)
 
 この場合の締付け釣合三角形は補・12図のようになり接手部合せ面が分離することによってボルト側にかかる繰返し力が大巾に増大することが分かる。連接棒大端ボルトがこのケースに該当する。すなわち補・13図のように連接棒大端部は内部にクランクピン軸受を内蔵し、ボルトを締付ける場合にはこの軸受にクラッシュを与えて締付けるためこの段階でボルト軸芯からずれた偏った荷重がかかる。また連接棒大端部側のボルト座面形状がボルト軸芯に対して左右非対称で有効座面面積が異なるため軸芯に対して左右の座側ばね常数も異なってくる。この様な状態で燃焼圧力と慣性力による合成変動荷重がボルト軸芯に対し大きな偏心荷重として加わるためにボルトの締付力が不適当な場合、大端部合せ面が開くなどしてボルトに曲げをともなった過大な繰り返し荷重がかかり大端部合せ面のフレッティング、ボルトの折損など大きなトラブルに発展する危険性が生じる。特に大端部が斜め割方式の連接棒の場合は更に左右ボルトにかかる変動荷重のかかり方が複雑になるのでボルトの締付力にバラ付きが生じない締付法で充分高い締付力を与えないと合せ面セレーションの歯の切損などのトラブルが発生する危険性が高い。
 
補・13図
 
2)ゆるみ対策
 ボルトの加工精度が標準精度に充分入っている場合でボルトに適当な長さがあり、外力に対する締付釣合三角形の残存締付力が充分確保されている場合はボルトは基本的にゆるまないので回り止めを用いる必要はない。むしろ回り止めを用いることによって締付面の数が増えることによって合せ面の直角度、平面度、表面粗さなどが複雑になり結果的に締付け精度の低下をきたすことになる。したがって重要な締付け部には座金など一切用いないで軸力にばらつきが少ない適正締付法で充分大きな締付力を与えることが最も確実な「ゆるみ対策」といえる。
 シリンダブロックにシリンダヘッドを取りつける場合、軟質ガスケットを使用している場合は所定運転時間後「増し締め」を行う場合もあるが硬質ガスケットを使用している場合、またはシリンダヘッド直付けの場合は増し締めを行う必要はない。
 ボルトおよび座側に設計上充分な長さ、または厚みがとれない場合に限り回り止めを使用する。この場合でも設計を工夫することによって回り止めを不用にする方法がある場合はなるべく回り止めを使用しない様な設計に変更すべきである。その一例を補・14図に示す。
 
補・14図
 
 回り止めには色々の形状のものがあるが、ばね座金のように使用することによって座面を傷つけるもの、割ピンのように締付け角度に大きな制約を与えるものは避けるべきである。
 
3)ボルトの締付け環境
 ボルトの締付け作業を行う環境はなるべく埃の少ない、恒温防塵環境で行うのが好ましいが、実際上の機関室内の作業環境は必ずしも良い環境にない場合が多い。したがってボルト締付け作業を行う場合、ボルトねじ部、接手合せ面および座面は締付け前に充分清浄な状態にしておくべきである。さもないと、ねじ部、合せ面に介在するごみ、ほこり、金属粉などによって適切な締付力が確保されなくなる場合が考えられる。
 またハズミ車取付ボルトなど機関外部に用いられるボルトで海水などがかかる可能性のあるボルトの場合、発錆、電触などに充分注意すると共に高張力ボルトにたまに経験される遅れ破壊に対しても充分注意をはらう必要がある。
 遅れ破壊とはボルトを締付けてから、或る時間経過後に突然ボルトが脆性破壊する現象をいう。この遅れ破壊を起こす原因として金属またはその雰囲気に介在する水素が原因と見なされ、一名、水素脆性とも称されている。この遅れ破壊は一般に高張力合金鋼を使用した高張力ボルト程多く発生するといわれているので、水などのかかる可能性のある部品には高張力合金ボルトは避けるべきである。







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