日本財団 図書館


3)電子制御システムの構成
 図5は電子制御システム構成の要点を示す。
 ECM(エンジンコントロールモジュール)がシステムの心臓部であり、制御コンピュータと、制御プログラム、データ用のメモリを内蔵している。
 ECMは、クランク位置、各部圧力、温度等のセンサ類よりのエンジン運転状態を示す信号と、スロットル等によるユーザ操作要求信号を取り入れ、これらに基ずいて、制御プログラム、および制御用データによる演算、判断を行い、この結果でユニットインジェクタの電磁ソレノイドに燃料噴射量、時期の制御信号を発信すると共に、コントロールパネル部に、各種表示、警報信号を送る。
 これらの、情報、信号のやり取りは、すべて堅牢な特殊防水防油ソケットを使用したワイヤハーネスにより行われる。
 また、制御プログラムには、通常の電子ガバナの機能が組み込まれているので、ドループ特性など、従来のガバナと同じ使い勝手が得られる。
 
(拡大画面:119KB)
図5 エンジン電子制御システム
 
4)燃料噴射のメカニズム
 この電子制御システムで、ECMよりの制御指令に即応し、高圧燃料噴射を実現するハードウエアの中心が、図6に示すメカニズムである。
 シリンダヘッドには、電磁ソレノイドで作動する燃料流量制御弁を組み込みこんだ、ユニットインジェクタを装着しており、高圧の下で、燃料噴射時期、噴射パターンが自由にコントロール出来る。
 (HEUI式の場合は、蓄圧室に保有する高圧作動油で、このプランジャを、油圧駆動することにより高圧噴射を得ており、より自由に噴射時期を制御できる。)
 ユニットインジェクタ部全体は、ヘッドカバー内部に密閉されており、ECMよりの制御信号は、シリンダヘッド部に設けられた、特殊防水ソケットを介して送り込まれる。
 これで分かるように、ここで扱っている電子制御エンジンでは、従来のガバナハンドルに相当するスロットルはあるが、噴射量コントロールの燃料ラックやリンク類はなく、これに相当するコントロールは、すべてECMよりの制御指令信号により、電磁制御弁が直接行う
 また、エンジン回転速度や、燃料噴射量の制限は、制御プログラム内に設定されるため、機械的な方法でこの制限を変更する事は出来ない。
 
図6 EUl燃料噴射部
 
5)制御信号と燃料噴射
 コンピュータ搭載のECMが受け取る信号は、ホール効果スピード/タイミングセンサ信号、スロットルセンサよりのPWM(パルス幅変調)信号、およびその他のセンサよりの、アナログ信号である。
 アナログ信号はすべて、0−5VレベルでECMに取り入れ、ここで10ビットのデジタル信号に変換して演算処理する。
 ECMより発信される制御信号は、ユニットインジェクタに組み込まれた、150-200MPa(機種により多少異なる)の燃料制御弁を100V程度の電磁ソレノイドで操作し、最適燃料噴射パターンと噴射時期を実現する。
 特に、噴射時期については、クランク位置の上死点に対し、どの進角で噴射させるかを、実クランク位置に対し精密に制御する必要があり、このため、エンジンの各サイクル毎に、機械的クランク位置を基準にして、コンピュータ演算とのタイミング合わせを行う。
 このため、カム軸には、特殊歯形パターンを持つタイミング車が装着されており、この歯形パターンに対応する電磁ピックアップ信号を基準にして、図7に示すように、サイクル毎にタイミングを合わせる。このタイミング信号に基づき、燃料制御弁の作動、燃料加圧の遅れ等を考慮し、しかも必要な噴射パターンになるようなタイミングで弁リフト信号を送り、燃料噴射をコントロールする。
 
図7 燃料噴射タイミング
 
燃料噴射の具体的なステップは、およそ次のようになる。
− カム山の回転により、ロッド、ロッカを介して、ユニットインジェクタのプランジャが押下げられ、燃料加圧が始まる。
− ECM搭載のコンピュータは、回転速度その他、エンジン状態を示す各センサと、ユーザの要求信号(スロットル位置など)をもとに、内蔵の最適噴射データ、ガバナ特性等のデータに従って噴射時期、噴射パターンを計算する。
− ECMは、燃料噴射開始をするため、約100Vの電圧を、ユニットインジェクタ内蔵の燃料電磁弁に送る。
− この電圧で、燃料電磁弁が作動し、燃料逃がし孔を閉める。
− 燃料はプランジャバレル内にとじ込まれ、この状態でプランジャによる加圧が続き、この圧力がノズルの開弁圧に達すると燃料噴射が始まる。
− ECMが、燃料噴射を終了させるため、燃料電磁弁への約100Vの電圧発信を止めるまで噴射が続く。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION