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4. マリンギヤ・軸系装置・プロペラ
1)1800形摩擦クラッチの開発
株式会社 赤阪鐵工所
 
1. はじめに
 当社では主機関出力に合わせ、1140形から1610形(外形1140〜1610mm)まで7形式の摩擦クラッチを提供しております。その経験をもとに最新の技術を盛り込み、当社で最大の伝達能力を持つ1800形摩擦クラッチを開発しました。
 本クラッチは荷役用ポンプやコンプレッサ等の主機関船首側駆動装置を持つ場合に、船尾側クラッチとしてタンカー、セメント船などの2942〜3678kW(4000〜5000PS)クラスの主機関用に適用することができます。
 摩擦クラッチには、油圧多板クラッチと比較して次のように優れた点がたくさんあります。
 
摩擦クラッチの特長
1)摩擦クラッチは、油圧多板クラッチのような張り力を発生させるための油圧を必要としません。従って、作動油ポンプが不要であり、ポンプ設置に伴う諸工事やポンプ動力が省略できます。
2)油圧多板クラッチは軸系ねじり振動を回避するために弾性継手の装備が必要となる場合がありますが、摩擦クラッチにはその必要がなく、ランニングコストの負担が軽減されます。
3)摩擦クラッチは構造が簡単であり、メンテナンス性が良好です。また、検査時の分解が必要ありません。
 このように、大きな特徴を持った摩擦クラッチは油圧多板クラッチよりも経済的なメリットが多いと考えます。
 今回、当社製4ストローク機関として最も出力の大きいA45S−3309kW(4500PS)形機関に装備し、各種検証・試験運転を行い、良好な結果を得られましたのでその概要を紹介致します。
 
写真−1 1800形摩擦クラッチの外観
 
表−1 1800形摩擦クラッチの主要目
外形 1,800mm
500mm
スリップ限界トルク 44,000kgf・m
適用機関 2,942〜3,678kW
出力範囲 (4,000PS〜5,000PS) 210〜230min−1
 
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図−1 1800形摩擦クラッチの構造
 
3. 構造・特徴
 摩擦クラッチは、摩擦片をはずみ車に押し付けることにより発生する摩擦力で主機とスラスト軸を連結して、動力を伝達します。
 従来の構造では、摩擦片の遠心力で摩擦力を発生させていました。新形クラッチでは遠心力に加え、嵌脱リンクに装備した皿ばねの力により摩擦力を発生させています。このばね荷重は、取付け長さを規定寸法に合わせることで調整します。経験に頼らずナットを締めこむだけの作業なので、定量的な管理を非常に簡単に行えるのが大きな特徴です。わかりやすい数値で管理するため、調整ミスに起因する過大な荷重によるリンク系のトラブルを防止し、また張力不足によるスリップの不安を解消します。
 摩擦片の分割数は従来の四分割方式から六分割方式に変更し、ばね構造による張り力の全周均一化を図り、伝達能力(即ち余裕率)を高めています。
 リンク系の軸受は荷重に対して10倍以上の安全率を確保した特殊軸受構造を採用し、摩耗に対する信頼性・耐久性を向上しています。また、リンク系の強度を大幅にアップしています。
 ライニング材は単独試験にて十分な検証を行い、油雰囲気での使用を想定して設計された材質を選定しています。従って、運行中の飛沫油などによる能力低下の影響を極力小さくするようにしています。
 
4. 検証結果
4.1 リンク系強度試験
 リンク系の強度検証では、各構成部品にストレインゲージを取り付けて嵌脱試験を行いました。計測した応力値から、ビンや軸受などの主要部品の強度が計画通り従来に比べて6倍以上アップしていることを確認しました。また、新規に組み込んだ皿ばね構造関係の部品においては、計画通りの能力を発揮していることを確認するとともに、他の部品と同様に高い信頼性を確保していることを確認いたしました。
 
4.2 スリップ限界トルク確認試験
 A45S形機関に適用した場合、本摩擦クラッチは平均駆動トルクの3倍の伝達能力を持っています。このままでは、スリップ限界トルクの確認を行うことが不可能なため、クラッチのスリップ限界を強制的に下げる手法を用いて試験を行いました。スリップ発生の確認は、ストレインゲージにより軸トルクを計測し、クラッチの前後に光センサをつけて前後の位相のずれを位相差計にて計測しました。図−2に計測データの一例を紹介します。クラッチのスリップ限界を平均駆動トルクの1.5倍に下げて実機での運転を行い、スリップがほぼ計画通り発生することを確認し、計画の妥当性を検証しました。今回のクラッチのスリップ限界トルクは平均駆動トルクの3倍に設定してあるため、スリップに対して十分に余裕があります。
 
5. おわりに
 今回紹介しました1800形摩擦クラッチは経済性の確保と信頼性・耐久性の向上を目的に開発を進め、各種試験によりその成果を証明しました。
 本クラッチの初号機は、A45S形機関を搭載した6500klタンカーにご採用頂き、今秋には就航する運びとなっています。今後も就航船のフォローを通じ、更なる信頼性の向上に努めて参りますので、是非ご採用をご検討ください。
 
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図−2 スリップ発生の確認







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