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(3)郵送調査結果の概要
(1)調査方法
 地域と高等教育機関などとの連携・協働の実態を把握するため、平成14(2002)年11月に郵送調査を行った。一つの連携・協働事例につき自治体と大学の双方に調査票を送付しており、互いの立場から連携・協働事業をどのように捉えているのかを確認した。
 調査票の記入を依頼したのは、以下の自治体と大学である。
 
  自治体 大学
1 我孫子市 中央学院大学
2 板橋区 大東文化大学
3 稲城市 玉川大学
4 大垣市 岐阜経済大学
5 木更津市 清和大学
6 東金市 城西国際大学
7 浜松市 浜松大学
 
 これらのうち、返答をいただいたのは我孫子市と中央学院大学、板橋区と大東文化大学、大垣市と岐阜経済大学、木更津市と清和大学、東金市、浜松市と浜松大学であった。
 
(2)調査事例の概要
 郵送調査の詳細については、調査票への回答をまとめた図表4−10のとおりであるが、連携・協働事業として、生涯学習をはじめとした公開講座を行っているところが多く、また、図書館の開放や大学教員の委員会参加なども多くの地域でみられた。
 その他の特徴的な事例としては、木更津市では清和大学委託研修事業を行い、市職員の研修体系の一環として、清和大学の履修科目を活用して法務事務の研修や行政政策などの研修をしている。木更津市の職員に、政策法務への関心や法務事務に対応できる必要があるとの認識が高まるなど、大学の専門性を活用している事例である。
 また、大東文化大学と板橋区でも、職員の政策形成能力向上のために大学教員による研修セミナーが行われているほか、共同研究も実施されており、地域デザインフォーラム(地域連携研究)の成果は高く評価されている。
 
(3)連携・協働事例から抽出できること
ア. 経緯
 郵送調査の結果をみると、連携・協働事業の始まった経緯としては、高等教育機関が地域貢献を意識し、行政や地域のニーズに応えている場合が多い。大学が地域貢献を意識する背景には、大学が地域へ施設や知識を開放する時代という認識がある場合や、開学当初から地域開放を唱えている場合が多い。行政や地域の側では、大学の持つ人材や専門性に期待し、何らかの連携・協働を始めたいと考えているが、どこが中心となってどういった面から始めていけばいいのか、動き出しに悩んでいることも多い。また、大学と行政機関の人間関係の進展によって、連携・協働が拡大している例もみられた。
 
イ. 推進体制
 連携・協働事業を推進する組織としては、図書館開放や公開講座については、専門の担当課であることが多く、その他の事業については、大学の事務・総務部や市の企画課、調整課等特定の部局が事務局となっている。また、静岡県西部高等教育ネットワーク会議などでは、連携・協働事業のために市と大学が合同で事務局を設けている。
 逆に、特定の担当機関を設けず、個々人や各組織ごとにランダムに連携・協働事業を行っている場合もあるが、連携・協働事業を積極的に推進しているのは、専門の担当事務局を設けている方に多くみられる。
 
ウ. 効果・評価
 事業の効果を測り、評価をするための具体的な基準を設けている高等教育機関や自治体は見当たらず、数値的なデータは存在しないが、事業そのものの効果があることは明らかである。例えば、図書館などの施設開放は、それ自体、市民サービスの向上となっているし、公開講座や生涯学習の充実についても同様であり、共同研究の調査報告書が内外で高く評価されることもある。
 また、連携・協働事業の副次的な効果としては、一つの事業が成功したり、あるいは事業を通して人脈が形成されることで、他の新たな事業に発展したり、地域の活動に関わる人材が増えるといったこともある。地域と高等教育機関との関わりが深まって、信頼関係が生じることも大学と地域にとって望ましい流れである。
 
エ. 課題や方向性
 連携・協働事業の持つ課題としては、まず、対応窓口や推進体制の明確化があげられる。
 特に高等教育機関では、大学の意思決定プロセスの複雑さや、窓口のわかりにくさが指摘されている。また、事業に参加する職員や教員、学生のインセンティブの保持が、事業やまちづくりの活性化のためには不可欠であり、そのための仕組みづくりが求められているほか、一般市民層の参加についてはPRなどの工夫が必要である。
 事業を円滑に進めていくためには、高等教育機関と行政の両方に、事業に積極的に賛同し関わる人材・組織や、十分な意見交換ができる定例的な場が必要である。また、常設的な組織運営や共同事業の展開にあたっては、行政と大学との間でどのように費用を負担するかという問題も重要である。







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