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第4章 対象地域における文化資源活用の提言
1 対象地域における文化資源活用の課題
 現在から未来に向け、地元地域住民及び茨城県民が心豊かに生きていくことにつながるよう、文化資源の価値・魅力を再認識し、広く地域内外に伝え、しっかりと体感できるような仕組みづくりが必要である。
 
 対象地域では、のどかな風景の中に、多様な文化的要素が重層的・分散的に共存し、それらが競合するでもなく、相乗効果を狙って共同する動きも薄く、個々の要素が原型をとどめつつ分立している。文化的資質を再認識し、地域のアイデンティティにむすびつけるとともに、地域文化を大切にし、後世に伝え、ブラッシュアップしていくための具体的な手法を確立することが必要である。
 
【文化賞源の価値の再認識と保全に向けての課題】
 対象地域は、近年、高速交通網の間に位置づけられ、急激な発展機会を得ずにきたようにみえるが、そのことが、伝統的なコミュニティや景観の温存につながることともなった。人の心身や地球環境にやさしい暮らし方が求められはじめた今、自然や歴史とともにある暮らしぶりの価値が見直される方向にある。
 町村合併、高速道路の順次開通など、新しい変化を受け止め、そのメリットを享受しつつ、地元の風土に根ざした生き方と誇りを再確認していくことは、今、他の地域を含む共通の課題といえる。対象地域には、多くの文化資源が賦存するが、相互の関係性やまとまりのあるイメージ形成は未だ不十分な段階にある。それらの脈絡を汲み取り、広域の視点から体系づけていくことが必要である。
 対象地域では、歴史的環境が廃棄物等で阻害されたり、歴史の記憶が風化しつつある傾向もみられる。市町村合併など、歴史のページがまためくられようとしている今、地元に語り継がれている「まちの記憶」をつむぎ、データベース化したり、文化的な環境づくりに対するモラルやルールを共有していかなければならない時期を迎えているともいえる。
 
【文化資源の活用を何に結びつけるか」ということの明確化】
 生活とともにある「生きている歴史・文化」を有することの価値を評価し、地元の自然や歴史・伝統を大切にする暮らし方の魅力を広く発信していく仕組みにつなげることが重要である(合理的で都市的なライフスタイルとの共存がポイント)。
 
【広域での機能分担により効果を狙う手法の構築】
 現有の、鉄道や道路、都市機能、情報通信ネットワーク等を十分に活用し、文化のストック&フローの装置化を図ることが重要である。例えば、玄関口・宿泊機能、情報拠点機能、オープンエアミュージアム的地域等々の機能配置については、市町村毎のフルセット型というより、広域での機能分担を念頭に置いた設計を考えたい。
 施設配置については、新規整備というより、既存の施設・機関をネットワークすることで無理・無駄のない文化振興を狙いたい。各地域が得意分野で「出番」をつくっていくことが重要である。
 歴史資料館のネットワーク、やっぺえ祭り、古文書研究会などの民間活動等を介した広域的なネットワークがある。これらの力を活かす方向性が考えられる。
 文化のストック&フロー(故きを訪ね新しきをしる)の仕組みづくりは、茨城県のみならず、地方分権の時代を生きる全国各地、不安な時代を生きる現代人に共通の関心事ではないだろうか。新しい可能性を探るためのモデル地域としていきたい。
 
2 対象地域における文化資源活用ビジョン
(1)目標像
歴史が未来に語りかける
新常陸国風土記夢追郷(しんひたちふどき・ゆめおいのさと)
〜多様・分散の風土を活かす〜
 
 北関東の歴史の「のぞき窓」、多様・分散のゆったりした風土文化性が、人と自然にやさしい次世代のライフスタイルをさぐるための「プラットホーム」として、人々の五感に訴える仕組みがある。広域的な分担の上に、文化資源活用を進めるための機能が整備されている。
 
(1)地域イメージの形成 〜文化資源の体系化〜
 時間軸・空間軸をクロスさせて足下の地をみつめると、のどかな里の中に、鮮烈な個性が多様に浮かび上がる。その佇まいには、水戸、筑波研究学園都市、日立・鹿島方面とは異なる「もう一つの茨城」、「もう一つの関東」の姿であり、風土と融合した本来的な北関東の姿を伝える生きた歴史資料館とでもいうべき側面が含まれている。
 地域が文化の系譜を再認識し、住民・来訪者が「私流の風土記」を思い描けるよう、文化資源が磨かれ、ネットワーク化されている。
 
(2)人磨き 〜文化資源の「力」の享受〜
 この地には、今昔の偉人たち(時代を拓いたトリガーや、高い精神性・芸術性をもつ文人など)の「夢の跡」が豊富にある。彼らが、この地から様々なインスピレーションを得たように、現代人は、彼らから様々な刺激やインスピレーションを得るだろう。
 例えば、その発想や精神性を自らに引き寄せ、個人や地域が志を豊かにし、未来への生き方、地域経営のあり方を設計していくためのインセンティブやヒントを汲み取れる仕組みが用意されている。
 
(3)地域磨き 〜豊かさの実体化〜
 歴史や自然を大切にしつつ、現在を生きる人々の活力ある快適な生活が展開している。古都や田園の佇まいが保全されている一方、快適で便利な生活環境があり、先端的な文化に触れる機会がある。
 地域文化を反映した食や物産を味わうことができ、これを通じて、地元での生活や産業が磨かれ、住みたい・訪れたいまちとなっている。
 
(4)文化の創造的継承 〜資源価値マネジメント〜
 個人・地域が未来に向け、「内発」と「交流」により新たな文化を育み、ひいては茨城県文化の新たな顔となるよう、文化のストックとフローをマネジメントし、継承・更新していく仕組みがある。
 
(2)基本方針
 目標像の実現に向けては、次のことを踏まえることとする。
 
文化特性の再認識
個々の資源の固有性、広域での共通性、「価値」の確認
   
文化資源の保全
文化資源(現地)の保全・整備(地元の生活との融合・調整がポイント)
   
文化資源・施設のネットワーク化
地域文化の体系化と、学習・観光・文化活動等多様なニーズヘの対応
   
地域文化の内外へのアピール
IT活用、観光の手法を積極的に取り入れた「体感的」なシステムとして
   
広域的文化振興の体制づくり
個々の住民・地域の主体的な参加及び広域連携の仕組みづくり
 
(3)基本方向
 次のような方向性(テーマ)を設定して、目標像の実現を目指すこととする。
 
I. 体感型「新風土記」をあむ
歴史絵巻の体感
◇本物にふれる(現地主義)
◇深く、わかりやすく識る(資料館機能の整備・充実)
今を生きる文化の体感
◇故郷の山河、小古都や田園の姿を愛しむ(景観賛歌)
◇今昔の美や文芸・伝統技術を味わい、参加する(芸術賛歌)
◇地域文化を五感で味わう(食や物産、体験の重視)
 
II. 交流型「文化回廊」をつくる
交通・情報基盤の活用
◇移動手段の確保
◇PR及び域内情報の提供
回遊・周遊性の確保
◇ルート化・ネットワーク化
「宿場」機能の確保
◇泊・食・情報提供拠点等の設定
住民・来訪者の参加の促進
◇ホスピタリティの育成
◇交流型文化活動の振興・育成
 
III. 未来への夢をつむぐ
文化資源管理システムの構築
◇価値の評価や保全・活用方針などの一定の共通化
◇データベース化
まちづくり・人育てとのリンク
◇地域産業や住民福祉への反映
◇地域教育、人材育成







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