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第3章 文化資源の広域的活用の手法
1 文化資源の広域的活用の狙い
 対象地域においては、次のような狙いをもって文化資源の広域的活用を展望するものである。
 
 広域的な対応力の中で住民の文化ニーズヘの対応力を高めるとともに、広域的な視点から文化的特性をアイデンティファイし、個々の地域と個人が、心豊かに、誇りをもって、未来を目指せるような力を醸成する。
広域化のインセンティブ
   ◆現在の地域を活かし、未来につなぐ「骨太」な地域文化の創造
◆文化資源を、今を生きる人々の心の豊かさにつなぐ、「生きた」文化振興手法の確立
 
●文化資源を広域的に捉えなおすことによる地域文化の活性化
 個々の地域に賦存する文化資源は、広域的に俯瞰することで、他との共通性や固有性をより鮮明に浮かび上がらせることとなる。
 広域の中で個々の文化的要素をつなぎ、または補完しあうことで、より「骨太」な地域文化づくりを展望することができるだろう。それは、全県・全国(あるいは世界)に確固たる地域イメージを示すとともに、個々の地域・個人の文化的要素(文化資源・文化活動・土地に生きる誇り等)をきめ細かに磨いていく素ともなる。
 文化は、もとより心豊かに生きようとする人々の“内”なる営みや努力と、“外”に求め、あるいは持ち込まれた知識・技術・刺激の相互作用により、更新や高質化、複合化や分化を繰り返すものである。地域において、この「内外」の概念は、空間的・地理的な関係だけでなく、「情報」の隔たりとして捉えることが重要である。例えば、同じ地域の中にありながら、歴史の中に再発見された事実が、現在の人々や地域に刺激を与えることもある。また、これまで関わりの薄かった分野間(例えば人同士・技術同士、産業と歴史等々)の出会いが新しい文化創造につながることも大いにありうる。空間軸・時間軸・情報軸の構成は、広域の中で一層豊富な関係性を秘め、ある時は「共通性の連携」をもって相互に意義を強めあい、またある時は「異質性の連携」によって新たなインセンティブをもたらす。
 
●文化の享受や文化活動ニーズの充足力の拡大
 住民の生活行動圏の広域化、文化ニーズの高度化などを背景に、住民の文化ニーズを広域的な分担を前提に充足させていくべき時代が到来している。
 広域での共同・連携により、文化関連の施設・サービスの利用機会、文化活動機会の拡大が図れるとともに、例えば、博物館・資料館ネットワークづくりなどにより、文化資源に関する情報の共有化、文化資源の保全・活用・管理・PR等に関わる体系的かつ効率的な取り組みへの展開可能性もひらけてくる。また、例えば、歴史的環境の保全に力を入れる地域と、現代的な都市環境を提供する地域の具体的なタイアップシステムをつくることにより、住民・来訪者が相互の機能や魅力の共有感を楽しむ可能性がひろがる。
 
●ライブな文化行政、文化にセンシティブなまちづくり行政モデルの開発
 市町村アンケートでは、「広域的な中で分担や特性強化、連携を図ることで文化振興のパワーが得られる」など、各市町村とも広域的文化振興に前向きであることがわかった。
 広域の中でそれぞれの地域の文化をみつめるにあたっては、すでにリストアップされた地域内の文化資源を眺めるだけではなく、広域に分布する文化資源との同質性・異質性の確認、未認識の資源性の再確認を含め、自分たちの地域は未来に向けて何を大切にし、どんな誇りを育てたいのか、考えないわけにはいかない。そこでは、総合的なまちづくり行政と、文化行政とのタイアップ体制がものをいうこととなる。
 開発と右肩上がりの経済発展が目指された前世紀を卒業し、今世紀は、地球環境や人の心身が健やかたらんことを目指して、更に高度な社会システムをつくること、人々が心豊かに生きることが、国・地域共通の課題として明確に意識されるようになってきている。生活の文化化、地域経営システムの文化化が問われている時代ともいえる。
 このような中で、文化のストックとフローのマネジメント、すなわち「内発」と「交流」による文化形成の動力学的展開を、いかに今を生きる地域・個人の豊かさに活かしていけるか、現在の地域を生かすための地域文化創造に貢献する、ライブな文化行政と、文化にセンシティブなまちづくり行政のあり方のモデル開発も狙うものである。
 
図表3−1 広域的文化振興の狙い
(拡大画面:62KB)
 
 以上のようなことを進めることで、次のような効果が期待できる。
交流効果
「地域の顔」づくり(アイデンティティ、オリジナリティ、地域イメージの明確化)
交流人口の拡大(観光、文化活動等による人の流動の活発化)
地域産業の販路拡大(地域イメージの明確化による広告効果の獲得)
文化の受発信による相乗的な文化振興(文化的な「喜び」を伴う交流の促進、相互にインセンティブを授受することによる文化の創造等)
   
内発効果
地域文化の再認識(狭い地域だけではみえなかった物語性=文化の脈絡が広域の中で浮かび上がり、地元文化及び、そこに暮らすことの価値を再認識)
都市化・広域化する住民の文化ニーズへの対応(文化的な施設の広域的ネットワークにより、文化活動の受け皿を相互に拡充)
住民の文化活動の振興(文化資源の保全・活用への住民参加機会の拡大、地元文化をバックボーンとする取り組み甲斐のある様々な活動の展開等)
地域の生活・産業への投影(文化関連産業の振興、地域イメージ→地域産業ブランド形成、美しく快適な生活環境の実現等)
文化行政の活性化(文化財の番人から、地元文化のストック&フローのマネジメント拠点へ)
まちづくりへの文化性の投入(文化を多彩な分野に投影させ、心豊かな地元生活を実感できるような仕組みをまち全体でつくっていく回路づくり)







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