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第2部 国と地方の役割分担をめぐる論点
1 事務・事業の在り方に関する意見−自主・自立の地域社会をめざして−
 地方分権改革推進会議は、平成13(2001)年7月、内閣総理大臣の諮問機関として、3年間の期限を限って設置された。その初会合において、「国と地方公共団体の役割分担に応じた事務及び事業の在り方並びに税財源配分の在り方、地方公共団体の行財政改革の推進等行政体制整備その他の地方制度に関する重要事項」について、地方分権の一層の推進を図る観点から、調査審議を行うべき旨の諮問がなされた。
 以来約50回の審議を行い、この間、地方分権改革に関する基本的考え方をまとめた「事務・事業の在り方に関する中間報告」(平成14(2002)年6月)を経て、平成14年10月30日「事務・事業の在り方に関する意見」が、その成果としてまとめられ、内閣総理大臣に報告された。
 この意見は、地方分権改革という視点から、「この国の在り方」即ち、21世紀に適合した分権型行政システムの構築への道筋を探ったものであり、国と地方の役割分担に応じた事務事業の在り方について重点的に審議し、地方視察、関係省庁、地方公共団体及び各界からのヒアリングを併せて行ってきた。
 ここでは、本意見について概略を紹介するとともに、構造改革に対応した国と地方公共団体の役割分担とあるべき地方公共団体の姿について考察する。
 
(1)国と地方の役割分担に応じた事務事業の在り方についての意見
 平成14年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を踏まえ、三位一体の改革につながる国と地方の事務事業の在り方等に関する原案を示せとの総理指示に基づき、現在の国と地方の事務事業の見直しを行い、どのような事務分担が望ましいかについて具体的に提言。
 
(2)国庫補助負担事業の在り方についての検討
 平成14年6月17日「事務・事業の在り方に関する中間報告」提出後、6月25日に内閣総理大臣の指示により、国庫補助負担事業の在り方について検討。具体的には、国の関与を大幅に縮減し、地方の権限と責任を大幅に拡大するとの観点から、各分野の主要な国庫補助負担事業について廃止・縮減の方向を提言し、関連する国庫補助負担金の在り方についても言及。
 
(3)各分野について見直し方針と具体的措置の提言
 各分野について聖域なく見直しを行い、各省庁の意見を聞きつつ合意に至らなかった事項についても「地方にできることは地方に委ねる」との原則に基づき、本会議として具体的措置について意見。
 
(1)改革の方向
ア 「補完性の原理」に基づく国と地方の役割の適正化
 これまでは、政策分野ごとに達成すべき目標値である「ナショナル・ミニマム」を設定して、その達成を目指す傾向が見られた。しかし、このような傾向が続く限り、目標を達成するため国が補助金を通して、地方に対して多くの関与を行う状態が続き、国と地方の明確な役割分担に基づいた地方の自主性、自立性は育ち得ない。
 今後は、それぞれの事務の性質に応じて担い手として最もふさわしいレベルの地方公共団体や国に事務権限を配分するという「補完性の原則」に基づき、地方が地域ごとに選択した最適の形態「ローカル・オプティマム」で自主的・自立的にそれを実施することができるようにすべきである。
 
イ 地域における行政の総合化の推進
 このような「ローカル・オプティマム」を追求することで、政策分野の縦割り的発想を脱却し、地域の視点から、複数の分野の政策を総合的かつ柔軟に立案し事業を実施する「行政の総合化」を推進することになる。
 
ウ 地方の創意工夫の発揮と知恵とアイデアの地域間競争
 地方が総合的かつ柔軟な発想をもって、創意工夫をして知恵を絞りアイディアを出し合うことは、地方の個性の発揮を促し地域間競争の展開、さらには地方の活性化と発展に結びつく。
 
エ 地方における自立的な財政運営が可能なシステムの形成
 自己決定・自己責任の下で、上に述べたような地方の行動は、地域住民の福祉の増進をもたらすとともに、地方行政改革の推進、行政運営の効率化にも寄与する。明確に地方の役割とされた事務について、地域住民が、必要な行政サービスの水準を自ら決定できるとともに、そのための負担についても決定できるような仕組み、即ち住民が「歳出」のみならず「歳入」についても自主的に決定できる「受益と負担の関係が明確な仕組み」を作ることによって、初めて規律ある「自立的な財政運営が可能なシステム」が生まれることとなる。
 
オ 国の決定についての地方の参画の確保
 国と地方の適正な役割の下で、地方が自主的・自立的に行動できるようにするため、地方の役割にかかわる制度・計画・負担の決定、地方個別の事務事業に係わる決定等を行う場合には、これまでの国の優位性を前提とした仕組みを改め、国と地方の「対等協力」関係を前提とした「国の決定に地方が参画する機会」を可能な限り制度的に確保されなくてはならない。
 
(2)自主・自立の地域社会の形成
 当会議が改革によって目指しているのは、地域社会が自主的・自立的に活動を行うことによって活力を発揮できるような分権型システムを構築することである。とりわけ、地方自治の自主的・自立的な担い手として、一定の規模としっかりとした行財政基盤を持ち、地域の発展において先導的な役割を果たすようなたくましい地方都市の誕生に期待するものである。
 
(3)分権型行政システムヘの転換に向けた国と地方の意識改革
 いわゆる「右肩上がりの時代」は既に終焉し、少子高齢化の進行に伴い人口が減少していく時代に入っていく中で、これまでどおり需要の増加を前提とし、それを充足することを目標として作られた制度は抜本的に見直されるべきである。
 しかしながら、既存の事業の存在意義や公共事業のさらなる推進を主張したり、創設当初の事業形態を維持し、依然として補助金を政策誘導の手段として位置づける国の意識の改革は重要である。
 それとともに、地方も地方自治の担い手である自覚を強く持ち、国に依存する意識を捨て、自己決定・自己責任の原理に基づき主体的に改革に取り組むことを期待する。







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