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■編集後記■
 大学時代、「情報環境論」という授業で、教授から2つの山の話を聞いた。
「人間は自我の山を登りきった時、それよりも遥かに大きく険しそうだが、とても美しいもう一つの山の存在を知る。その山に登るには、今まで登ってきた山を一旦下りてからまた登らなくてはならない。」
 地位、名誉、財産を全て捨て去り、いちから挑む新しい山の頂上では、どんな景色が見えるのだろうか。自分について、将来について新たな感性で考えるきっかけとなった話である。
 昨年の夏、“社会起業家”と出会い、この話を聞いた時と同じような感覚が沸き起こった。うまく表現できないが、今まで使うことの無かった脳の一部が、突然くるくると起動し始めた感じである。
 社会性を追求し起業するということは、共通した何かを探すという人間の本質的な行動なのではないのか。自我の追求のためではなく、家族・地域のことを思ったときに自然と浮かぶ感情のようなもので、それは頭だけで特別に組立てられたものではない。誰しも持っている共通の、楽しい、嬉しいという気持ち、心身共に健康で幸せに生きたいという願いに起因した行動、あるいは無意識の内に起こるものなのだと思う。
 だから社会起業家は、現代に突如として現れた新人類ではなく、ずっと昔から存在していた人々であり、人間本来の自然な姿、望ましい時間の重ね方をしている人々なのだ。
 前述の2つの山の話を聞いた後、「1つ目の山を登らずして、もしくは途中でワープして2つ目の山に行くことは出来ないのか。」という質問をしたが、教授の答えは、「そんな人もいるかも知れない。」といった示唆を含んだものであった。
 本書の編集作業中、このセミナーは、社会に向かって事業や行動を実際に起こしている方々の生の声を提供する場であったと同時に、はからずも、現在2つ目の山に挑んでいる人々を師に迎え、「ワープ予備軍」を一同に集める場でもあったのではないかと気づいた瞬間、自分の本来あるべき姿を思い、ゾクッとしてしまった。
 最後に、今回、熱い人生と温かい雰囲気に直接触れさせてくださったゲストの方々、また、お知恵とネットワークを惜しみなく提供してくださったコーディネーターの方々、本当にありがとうございました。
 東京財団が提供する場では、本来の趣旨+αをお楽しみいただけるよう努力していきたいと思いますので、皆さまどうぞまた足をお運びください。心よりお待ちしております。
 
東京財団研究推進部 内田晴子







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