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東京財団・虎ノ門DOJO「社会起業家シリーズ」を開催して
〜社会起業家は日本人の心を惹きつける〜
 私はここ4〜5年、イギリス原産の“社会起業家”について研究し、それを提唱しているが、その過程で、これが日本人の心を惹きつけることを知った。一方、東京財団の日下会長は、数年前から東京財団でNPOの研究をすることを主張しており、その点でも「社会起業家セミナー」は東京財団が取り上げるに格好のテーマである。
 
 さらに、私は色々な所で社会起業家の話をしているが、聞いた人の中には非常に共感し、今度は実際の社会起業家に会いたいと言う人が大変多くいて、そういった人々の出会いへの好奇心の強さに驚いたこともあった。
 
 このような体験から、いつか社会起業家をずらっと並べて、「さぁ、皆さん、社会起業家はこんな人々ですよ」と、示してみたいとかねてから思っていたのである。
 
 こういった事情で、シリーズ第1回、第2回に登場するETIC.の井上英之さんと話し、一緒に本シリーズのコンテンツを設計してみることにした。井上さんは、ETIC.でソーシャルベンチャーの事業をやっており、日本での「ソーシャル・ベンチャー・パートナーズ」の設立のための活動を展開している人である。
 
 こうして、双方で知り会いの社会起業家に登壇依頼をし、結局、本シリーズでは計10人のゲストスピーカーに登場してもらった。
 
 この10人は、日本の社会起業家のモデルを創造しているような一流の社会起業家や、まだ起業したての若い社会起業家のタマゴ、また、企業理念として強い社会性を持った会社の代表といった、バラエティのある面々である。さらに、ちょうどイギリスから来日していたBusiness in The Community(NPOや大企業に社会責任活動を指導している団体)の幹部も、ブリティッシュ・カウンシルの斡旋でお招きし、欧州での活動について話をしてもらった。
 
 今回ご参加いただいた人のうち、Eメールアドレスを頂戴した約300人に対して、セミナーに参加した感想をアンケート調査によって聞いたが、約100人の方々から感想を寄せていただいた。それは末尾に掲載してある。
 
 これを見ても、社会起業家というコンセプトがいかに日本人の心を惹きつけるかがわかる。具体的にどういう点で惹きつけられるのかを別の事例でお見せする。
 
 オンラインマガジン「HotWired Japan」が、昨春に「社会起業家という生き方」という特集を組み、そこには井上さんも寄稿しているが、読後感をアンケートした結果、そういう生き方に対し共感が428人、反対が43人となり、圧倒的に共感が反対を上回った。
 
 この記事を分析し、人々の共感する由縁を思い浮かべると、「日頃思っていたことが見つかった」「激しくYes」「相当な驚き」「夢のような話、ワクワク」「目指すものに名前があった」「一つの言葉で曖昧な思考が突如解明」「これしかない」「金儲けだけでは私は満足できない」といった気持ちを人々が持ったことが瞬時にわかった。
 
 読者の評価として掲載されていた中には、「日本の産業構造を変えていく力になる」「昔の共同体の姿、元々あった生き方の現代版」「昔から誰でも思っていること」「人間らしく生きる時代がやってきた」「時代に合っている、こういう時代だ」「硬直した行政と闘う方法、日本を変える大きな力」「社会の仕組みを変えて行くもの」「新しい社会構造の柱、新しい動きの中心」「日本で流行る」「私が目指しているもの、体内感情と似たものを感じる」「そう生きようと思った、これは私の任務だ」というものがあった。
 
 こう回答したのは、ITやネットビジネスの近い所で働いている20〜30才代の人々であり、彼らは次の日本の社会と経済を担う人々である。そういった人々がこんなにも共感しているというのは嬉しいことである。
 
 今回、懇談会やアンケートで寄せられた意見にも、同じような傾向が見られる。「第2弾もぜひやって欲しい」「地方でセミナーを開催して欲しい」「講演会だけでなく、実践的なステップに進むために、小規模なミーティングをやって欲しい」など、建設的に社会を変えて行くためなら力を貸しますよといった熱意が感じられ、次の企画もやってみたいという気持ちにさせられる。
 
 このように、本シリーズによってスタートは切れた。次のステップに向かって活動を進化させて行きたいと考えている。参加していただいた皆様のご支援を引き続きお願い申します。
 (社)ソフト化経済センター
 理事長代行 町田 洋次
 
参加者プロフィール(順不同、敬称略)
■ 講師 ■
飯島博 現職の他、霞ヶ浦・北浦をよくする市民連絡会議事務局長、ヒシクイ保護基金代表、牛久の自然を守る会代表。専門は環境計画。学生時代、水俣病等公害事件を知り、自然と人間の共存について考え始めてから、多数の環境教育プログラムの企画運営を行っている。ふるさとづくり賞内閣官房長官賞受賞他多数。著書に『よみがえれアサザ咲く水辺〜霞ヶ浦からの挑戦』(文総合出版)他多数。
 
藤岡亜美 2002年3月明治学院大学国際学部卒業。学生時代から環境NGOナマケモノ倶楽部理事を務める他、ボランティアとしてエクアドルでエコツーリズムのプロジェクトに参加、調査・研究・開発を行う。卒業後、有機コーヒーの焙煎と雑貨輸入業務を開始。ETIC.主催の「STYLE2002」で優秀賞・感動賞を獲得。現在、エクアドル・コタカチ郡における保護林購入資金を集めるプロジェクトの他、「スローウォーターカフェ」を法人化。2003年3月、東京都学生起業家選手権にて優秀賞受賞。2003年11月の出店に向け準備中。http://www.slowwatercafe.com
info@slowwatercafe.com
 
木下斉 2000年8月現職に就任。全国各地の地元発展を志す商店街及び個々の商店の新スタイルを創出。商店街以外の人材・組織との事業展開も積極的に行い、振興型社会企業として独創的な事業を送り出す。2000年度新語流行語大賞を「IT革命」にて受賞、2002年度防災功労賞内閣総理大臣賞受賞、他多数。東京都電子都庁懇談会委員等役職多数。早稲田大学政治経済学部政治学科に在籍中。http://www.shoutengai.co.jp
 
増田秀暁 商事会社を経て、1984年、ヤマト運輸(株)に入社。営業開発、国際営業、特販事業、ロジスティクス事業営業戦略本部プロジェクトマネージャーの他、社内向け「産業カウンセラ」としても活躍。2001年に(株)スワン出向後、現職。知的障害福祉の現場にも市場経済の視点を取り入れるべきと、焼きたてパン屋をチェーン展開。昨年暮れ、東京・赤坂に大型店を開設。知的障害者14人を雇用し、エスプレッソ作りやレジなどを任せる。
 
南山達郎 明治学院大学社会福祉学部卒。学生時代よりボランティアとしてぱれっとの運営にかかわる。卒業後、社会福祉法人東京コロニーで授産施設の営業部に勤務。1990年より現職。障害者及び外国人とともに企業としての利益追求と、NPOマネジメントの両方を手がける。ぱれっとを支える会は、「障害、人種、年齢などに関係なく、誰でもが暮らしやすい地域づくり」を理念に、余暇、就労、暮らしなどの様々な選択肢を作り、障害者の生活をサポートしている。1999年にはスリランカに現地の障害者が働く作業所を開所した。
 
蟹瀬令子 上智大学英文学科卒業後、1975年博報堂に入社。87年ミシガン大学ビジネス学科にて企業戦略・マーケティングを学ぶ為、一年間の休職。帰国後、生活総合研究所主任研究員を経て、第四制作室コピーディレクターとなる。92年日本ヒーブ協議会第14期会長を務める。93年、ケイ・アソシエイツを設立。99年から現職。経済同友会会員、NPO法人グローバルスポーツアライアンスナビゲーター等を務める。
 
ビル・ウァーリン(Bill Werlin) コロラド州立大学卒。70年フリーランスのセールス・レップとしてキャリアをスタート。73年ノース・フェイスに入社。87年ゼネラル・マネージャーとしてシエラ・デザインに入社。社長に昇進し統括指揮を執る。89年ノース・フェイスに社長として戻る。95年アクション・スポーツ・グループ社長。アウトドア産業保護同盟会長、米国アウトドア・レクレーション連盟設立メンバー等歴任。00年現職に就任。
 
和氣政広 大阪市立大学工学部大学院修士課程卒。1983年、三洋電機に入社以来、太陽電池および太陽光発電システムの研究開発に従事。セネガル、モンゴル、サウジアラビア等で太陽光発電システムの建設に関わる。1999年にはJICAの民間セクターアドバイザー専門家としてカリブ海諸国を訪問。2002年10月より現職。日本太陽エネルギー学会・進歩賞、日本電機工業会・優秀技術賞を受賞。大阪府出身。
 
片岡勝 1969年慶應義塾大学卒業。同年三菱信託銀行に入行。1984年に退職後、1年間の海外放浪へ。1984年(株)プレス・オールターナティブ設立。1989年永代信用組合とともに「市民バンク」設立。1990年女性のための世界銀行(WWB)の世界39カ国目の支部として設立。山口大学や福岡大学等で「起業」について教鞭を執る。著書には『若者よ、問題解決で起業せよ!』(明石書店)、『儲けはあとからついてくる』(日本経済新聞社)、『資金ゼロでも独立・開業できる本』(ダイヤモンド社)等多数。
 
デービッド・ハリー ニュージーランド大学、ソルボンヌ大学卒業後、IBMコーポレーション(米)でインターナショナル・マーケティング・マネージャー、IBMロンドンの地域マネージャー、DECNZのマーケティング/ディストリビューション担当部長等歴任。1990年から2年間、アクション・リソース・センター(英国の慈善団体)に出向。1995年、BITCとアクション・リソース・センターの合併後現職。
 
■ コーディネーター/司会 ■
町田洋次 慶應義塾大学経済学部卒業。長銀総合研究所取締役産業調査部長を経て、現職。専門は、産業・企業調査。著書に『E型ビジネスの衝撃(共著)』(PHP研究所)、『“転職”で勝つ』(祥伝社)、『社会起業家−良い社会を作る人たち−』(PHP新書)等がある。
 
井上英之 慶應義塾大学経済学部卒業、ジョージワシントン大学大学院(公共経営)、ワシントンDC市政府を経て、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)戦略グループ勤務。学生時代の、奥尻島やルワンダでのNGO経験から、社会分野でのマネジメントに関心があり、昨年よりETICに参画。著作は、「社会起業家という生き方(www.hotwired.co.jp/matrix/0202/)等。
 
猪尾愛隆 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程卒。(株)博報堂勤務。大学院在学時、金子郁容研究室に所属し、「企業の社会活動と企業ブランドの関係性」、「ソーシャルベンチャーの資金調達のあり方」などの研究を行い、修士論文『非金銭的投資誘因を活用した資金調達のあり方−コミュニティリターンの可能性−』執筆。







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