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強力なツールとしての表彰
 もう一つ強力なツールがあります。それは毎年恒例で優秀な企業に対して賞を出すということです。
 年間12程度の賞が出されています。色々なカテゴリーがあり、コミュニティ活動の革新賞、環境に貢献した最優秀賞、ダイバーシティ最優秀賞といったものがあります。
 授賞式には、非常に大々的なイベントが開催されることになっており、今年はちょうど20周年記念に当りましたので、800人ぐらいが集まった非常に大きなものになりました。
 そこで10から12の部門別賞の表彰が行われ、最後に最優秀賞として部門にかかわらず一番優秀だった企業に最優秀賞が授与されます。
 最優秀賞に選ばれた企業は、次の年の授賞式を組織し、すべての経費を負担しなくてはいけません。800人分の夕食代も出さなくてはいけないということになる。今年の最優秀受賞をした企業は、「ユナイテッド・ユーティリティ」という公益事業の電力会社でした。
 チャールズ皇太子からじきじきに表彰されたその会社の会長の顔は本当に引きつっていました。笑いたいけれども笑えないといった表情を浮かべていました。
 なぜならば、まずBITCに参加するのに7,500ポンド(140万円)の会費を払い、3つのリーダーシップチームに人を送っているのでそれぞれ1万ポンドの計3万ポンド(570万円)取られ、そしてさらに来年の夕食会800人分を都合しなくてはならないからです。
 ユーモアに満ちていると思われるかもしれませんが、これが実態です。我々としても何とか資金源を獲得しなくてはいけないという事情がありますので。
 
プロヘルププログラム
 次はプロヘルプと称しているプログラムですけれども、これはとても興味深いもので、弁護士、会計士、建築士、マーケティング会社といったいわゆる専門職の人たちが自分のスキルを無料で提供するプログラムです。
 例えば、プロのノウハウを持っている人たちの何時間分を差し上げましょうということで時間を提供します。それはもちろんコミュニティ側は無料でそのサービスを受け取ることができるわけです。
 例えば、新しい契約をちょうど結ぶところだった、もしくは建物を買おうとしているけど契約がまだしっかりしていないといった状況下にあるNPOは、無料で法律相談などのサービスを受けることができます。
 専門職としてのアドバイスを無料で受けられるので、色々なプロジェクトを進行していく上でコスト削減につながるため、NPO側にとても人気を博しています。
 
コミュニティマーク:コミュニティ投資の効果計測
 コミュニティマークという活動もあります。
これは主に中小企業用に開発されたプログラムで、コミュニティに投資した結果がどうなるかということを測定できるものです。
 また、改善の余地があるところはどこかといったようなことも、これをやれば判明するようになります。これにより中小企業側は、コスト低減を図ったり、顧客ベースを改善することができるのです。
 
アカウントマネジメント
 最後に、アカウントマネジメントというのは、例えば、新しい企業メンバーが入ってくると、その企業メンバーの中で、BITCに対応窓口の人を必ずアサインしてもらう。
 そして、その人を介し、BITCの行っている活動やキャンペーンをその企業内外に周知してもらいます。
 具体的な実例を挙げてご説明したいと思います。
 
ブリティシュテレコムの事例
 まずブリティッシュテレコムがやっている「ルーツ・アンド・ウイング・プログラム」というのがあります。
 これは、落ちこぼれ、授業に出ない、家庭環境が非常に恵まれていない、難民なので英語があまり話せないといった14歳から16歳の高校生を対象に、200人ぐらいのメンター(師)になるような人をアサインするプログラムです。
 そしてメンターは、子供の良き友人、良きアドバイザーとして、学業を続け、授業にきちんと出たほうが良いと指導し、雇用の可能性を維持してあげるのです。
 イギリスの子供が最初に直面する公的な試験は、略称でGCSEと呼ばれるものですが、この試験を受けるときにも3年間メンターがついた学生の方が試験の結果が25%良いということが実績値として出ております。
 また、メンターがついた子供のほうが、高等教育への進学率、またその後の就職率が倍に増えているという結果が出ています。
 その中でも女子の成績がめざましく良くなっていくということで、上限3年までメンターについてきちんと教育を受けてきた女子は、100%進学もしくは就職しています。メンターがつかなかった場合には40%程度ということですから、非常に大きな差が出ます。
 ただ、いつの時代でもそうであるように、メンターの数が不足しています。師になってくれる人がなかなかいないのです。我々の理想としては、全ての学生一人一人に必要な人がついてほしいと思っているのですが・・・。
 BITCでは何故わざわざこんなプログラムをやっているのか、ベネフィットは何なのかと言われますが、我々にとっては若い職員を訓練させるベストな方法なわけです。
 コーチングのノウハウを身に付けたり、対人関係やコミュニケーションスキルを開発するのに、こんなにいい現場教育はないのです。
 
テスコの事例
 次に今やイギリス最大の大手スーパーになったテスコの話です。テスコは、先ほど申し上げたコーズリレイテッドマーケティングをやっている。
 すでに9年ぐらい学校にパソコンを贈るプログラムを運営しており、例えば、私が土曜の朝にテスコに買い物に行くと10ポンド使うごとにクーポンを貰う。
 そのクーポンを親同士で収集し、まとまった数になったときそれをテスコに持っていくとパソコンを買ってもらえるというものです。
 パソコン本体の他、周辺機器やソフトウェアもついていて、我々が贈りたい先の学校にプレゼントしてくれる。
 このプログラムは大成功を博しまして、今までに3万2,000台のPCが学校に贈られており、国の文部省も大ハッピーです。
 これによりテスコは本当に大きなベネフィットを受けている。まず、ライバルを凌駕し、今やイギリス最大のリテールにのし上がった。おまけにマーケットシェアも増やすことができ、知名度も非常にアップして、お客様の信頼度も増しました。本当にこのプログラムに負うところが大きいのです。
 
KPMGの事例
 次にKPMG、大手会計会社の例です。ここは地域の学校の校長先生とパートナーシップを組むというプログラムをやっています。
 今、学校の校長先生というのは中小企業を経営しているというのと同じことです。学校として戦略的な計画をつくり、予算計画も練り、人材管理もしていかなくてはいけません。
 本来の教員としての訓練ではとても太刀打ちできないようなことを求められておりますので、企業側から派遣されたメンターが、組織として新しいアイデアをどうやって活かすか等、色々なことを校長先生に対して伝授するといったプログラムです。
 現在、イギリスの2,500名にものぼる校長先生が実際に企業側とパートナーシップを組んで色々な活動をしており、さらに拡大を続けております。この分の資金については文部省から出ています。
 また、KPMGは「タイムバンク」という制度も持っています。
 これはそれぞれKPMGに働いている人たちが、本来の企業のために使う時間をボランティア活動に認めてもらうと、いわば自分の社員としての時間の一部を有給でボランティア活動に振り向けてもいいというものです。
 これは名称のとおりあらかじめ認められた時間数が決められていて、そこから引き落としをし、自分の好きな時間にコミュニティに行って働くといった制度です。
 
ブリティッシュガスの事例
 また、ブリティッシュガスでは若くして監獄に行った人たちで、特に18歳から22歳程度で出獄間近の人たちを対象に、資格を与えるプログラムをやっています。
 全く無資格で出獄し社会に復帰すると、結局、再犯を犯す可能性が高く、また監獄に舞い戻るということになってしまう。それを防ぐため、ブリティッシュガスではこういった若い出獄者を訓練するわけです。
 例えばフォークリフトトラックの運転手としての資格を与えられる。ヒースロー空港周辺は、物流やその他宅配に使うトラックが頻繁に行き来しており、フォークリフトを運転する人たちの需要が高いためです。
 平均的に申し上げて、若い人でいったん監獄に入ると、出獄しても6割はまた再犯、次の年に監獄に舞い戻る。でも、この訓練プログラムを受けた人たちの舞い戻り率は10%に減っております。
 このプログラムを受けた後80%は職を見つけ、1年以上同じ職に就くという実績が出ており、非常にうまくいっております。今のところ男子対象ですが、今後女子にも広げていきたいと思っています。
 
社会責任を果たすための企業のやり方
 企業側としては、「ではこういう活動をやりたいけど、どうしたらいいのだろう」と当然ながら疑問を持たれると思います。
 まず我々は、社員の中にはプライベートで社会活動に従事している人がいるかもしれないから、その人たちの調査をしてみたてはどうかと社内アンケート調査の実施を提案する。
 次に、どういうテーマを手がけたらいいかという質問になると思いますが、それは企業としてプライオリティがあるかどうか。例えば、地元の社会に特別結びつきが強いからこのプログラムをやりたいというようになります。
 常に重要なのはトップのリーダーシップです。その企業の幹部、役員が自ら関与していかないとうまくいかない。また、社員に対してのブリーフィングなど色々とやっていく上で、やはり外部のブローカーやファシリテーターを使うことが欠かせません。
 何しろ、最初はじっくり時間をかけて地域が一体何を必要としているのか、そのニーズを特定することに手間暇かけるのがいいと思います。そして、十分リソースをかける。
 そのリソースはきちんとベネフィットを企業に対してもコミュニティに対してももたらすように図らなくてはならない。事前に、投入するリソースや予算をはっきり決めておくということです。
 小さく生んで育てるということで、最初から一足飛びに火星に行こうなどとは思わないほうがいいのです。
 
欧州における類似組織
 BITCは色々な外部の人たちとも提携してネットワークを組んでおります。例えば、CSRヨーロッパというブリュッセルにある団体とネットワークを組んでおります。
 それから、セシルインターナショナルは従業員関与のブローカー的なことをやっている組織で、私が特に絡んでコーディネーターをやっています。
 もう一つ、チャールズ皇太子が絡んでいるインターナショナル・ビジネス・リーダーズ・フォーラムでは、特にエンゲージキャンペーンというのをやっております。
 これは国際的な多国籍企業が進出先においてそこのコミュニティに深く関与して活動していくことを標榜している団体です。
 最後に、BITCは新しいホームページ(www.bitc.org.uk)を先週立ち上げたばかりで、非常に情報盛りだくさん、ケーススタディもたくさん載っていますのでぜひご覧ください。
 また、以下関連団体のURLもご参考までにご覧ください。
 
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