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「マンガ・アニメ講座」を終えて
コーディネーター 森川友義
 
 15コマのシリーズとしてスタートした東京財団・寄付講座「マンガ・アニメ講座」は、様々な専門分野からゲストスピーカーを招き、日本のマンガ・アニメ事情について講義を行った。私自身は政治学者でマンガ・アニメは専門領域ではないが、声優の歴史的研究をここしばらく行っていることもあってこの大役を仰せつかった。
 
 受講者は、国際部交換留学生(希望者のみ)と英語の聴講試験に合格した早稲田大学の学部生で、最終的に51名が登録した。そもそも少人数教育を行う国際部では50人以上の学生が受講することは稀有であり、数字を見ただけでも学生の関心の高さが伺える。
 
 学生の内訳は、米国(17人)、日本(8)、韓国(4)、フランス(3)、エストニア(2)、イギリス(2)、フィリピン(2)、台湾(2)他、実に19ヵ国の学生が日本の文化であるマンガ・アニメを学んだ。彼らのマンガ・アニメに関するバックグランド・知識は多様であり、理解度も千差万別であったが、理解しようとする姿勢は積極的で感銘を受けた。
 
 講義形式はゲストスピーカーに講演を依頼する形を取った。具体的には、2002年10月2日、日下公人東京財団会長の講演に始まり、次いで「漫画・アニメの歴史と現状」について私が講義を行い、視聴率、興行成績等の数値を用いて日本でのマンガとアニメの現状を紹介した。
 
 10月中旬には東映アニメ大泉スタジオを訪問し、「アニメの作画工程」をアニメーターが実際に仕事をしている場所を見学することによって学んだ。その後のゲストスピーカーの講演を理解する上で特に重要であった。
 
 現場で活躍するゲストとして人気TVアニメ番組『ワンピース』の清水慎治プロデューサーに「アニメーションのプロデュースと作業」と題する講義を、翌週はセルシスの川上陽介社長による「デジタル製作過程デモンストレーション」について講演いただいた。アニメの約20%が既にデジタル化されその部分では海外で製作されるものも多いと聞き、アニメ産業のグローバリゼーションに興味が湧いたようである。
 
 11月13日には大学全体に開放した公開講座として、漫画家の松本零士氏に「マンガ原作とアニメーション」と題する講演をお願いした。150名以上の学生が聴講したが、『宇宙戦艦ヤマト』等海外で放映された多くのアニメの原作を手がけた同氏への人気は非常に高く、おそらくこの寄附講座のハイライトとして位置付けられるべきものであった。
 
 引続きアニメ監督の西尾大介氏に「監督の仕事」について、翌週には『ドラゴンボール』の孫悟空役等で知られる声優の野沢雅子氏に声優業全般について講義をいただいた。12月には、堀江信彦コミックバンチ編集長並びに米国向けアニメ出版社TokyoPopのステュアート・リービー社長より、マンガの米国展開の可能性について講義を受けた。最終ゲストは、片岡義朗・マーベラス・エンターテイメント社長に「広告代理店の業務」についてレクチャーをいただいた。
 
 この講座が外国人留学生及び教員である私に与えた影響は計り知れない。それは特に期末試験として課したマンガ創作プロジェクトに端的に表れていた。自分でストーリーを考え、それをマンガという形で具現化してゆく、無から有への自己表現の重要性である。何を表現するかは、すべて学生自身、とかく他人の知識を詰め込むことに能力がはかられる傾向の大学において、学生は創造する大切さを実感したであろうし、教員である私も、日本文化であるマンガ・アニメを通じて、学習意欲旺盛な学生のあるべき姿を垣間見ることが出来たことは何よりの収穫であった。







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