日本財団 図書館


■劇場アニメ
 マンガとテレビアニメが終わりましたので、第3番目の劇場アニメに移りたいと思います。数字でいうと分かりやすいと思いますので、まずは映画の興行収益としてどの劇場アニメが人気を集めたかを言います。またトップ10を当ててもらいたいと思います。
 このトップ10のリストは劇場アニメに限定したものではなく、日本の映画会社がこれまで制作したすべての映画についてです。第10位は『幻のポケモン ルギア爆誕』で、第9位は『ポケットモンスター ミューツーの逆襲』です。第8位の『敦煌』から第4位の『南極物語』まではアニメとは関係ありません。
 さて上位3位ですが、これらはいずれもアニメです。第3位は『猫の恩返し』で今年(2002年)の映画です。現在上映中ですので、まだ数字は確定していません。興行収益は大体65〜70億円になるのではないでしょうか。この映画はスタジオジブリが制作しましたが、宮崎駿監督ではありません。上位2作品の方は宮崎駿監督が制作したものです。第2位が『もののけ姫』で、1997年に110億円の興行収益がありました。第1位はもちろん『千と千尋の神隠し』です。英語版は“Spirited Away”というタイトルです。これは昨年でしたが、300億円の収益があり史上最高記録です。
 トップ10のうち、劇場アニメ上位5作品を見たことがある人はどれくらいいますか?『千と千尋の神隠し』を見た人は手を挙げてください。すごいですね、30人くらいいます。では、『もののけ姫』はどうですか? もっといますね、ほとんど全員です。『猫の恩返し』は6人。『ポケットモンスター ミューツーの逆襲』は2〜3人ですね。それでは『幻のポケモン ルギア爆誕』は・・・5人です。すごいですね。
 劇場アニメについてざっと数字でお話ししましたが、何か質問はありませんか?
 
 学生―『ドラえもん』や『トトロ』、『魔女の宅急便』はどうですか?
 
 森川―『魔女の宅急便』は12位くらいです。『トトロ』は少し人気がなく28位あたりだったと思います。
 
 学生―どんな年齢層の人が見ているのでしょうか?
 
 森川―『千と千尋の神隠し』はほとんどすべての年齢層に人気がありますが、12歳の私の長男は気に入らなかったようです。主人公の少女は小学4年生か5年生ですが、子供が理解するのは少し難しいようです。『もののけ姫』はティーネイジャー向け・・・十代後半からヤングアダルト向けです。『猫の恩返し』を私は見ていません。5人見た人がいるということでしたが、どんな人を対象にした映画ですか。
 
 学生―少女向けで、かなり単純なストーリーです・・・
 
 森川―『ポケモン』はもちろん、小学生向けです。
 
 学生―先ほどのテレビアニメについての質問になりますが、ケーブルテレビを含めばもっと多いのでは?
 
 森川―テレビアニメ、特に、表に載っている番組は、地上波で放送されているものだけです。ケーブルテレビの番組も含めれば、話は全く違います。アニメ専門チャンネルがいくつかありますので、『スクービー・ドゥー』や『トム&ジェリー』などもそのまま見ることができます。また、24時間アニメ放送のチャンネル48(アニマックス)もありますし、アニメを主体とするチャンネルも、あといくつかあります。しかし、それらは含めませんでした。ケーブルテレビのそのような番組を、皆さんは視聴できないに違いないと思ったからです。
 
 学生―僕はホストファミリーの家に住んでいるので見ることが出来ます。
 
 森川―確かに、国際部の学生の中にはホストファミリーと一緒に暮らしている人もいますね。この中にホストファミリーと一緒に住んでいる人はどれくらいいますか?(学生の挙手の具合を見ながら)このクラスでは50%の学生がケーブルテレビを見られる家庭にいるということですね。ホストファミリーがケーブルテレビを受信していれば見ることも可能です。
 
 学生―でも、ホームステイの外国人学生を受け入れられるのは、どちらかというと裕福で、空いた部屋がある家庭と言えるのではないでしょうか。
 
 森川―その通りですね。ですから一般化は出来ないと思いますが。
 
■マンガ・アニメの舞台裏
 マンガ、テレビアニメ、劇場アニメとおおよその話をしましたので、次にアニメとマンガの関係についてお話ししたいと思います。過半数のアニメ番組は、もともとマンガ雑誌に連載されていたものです。マンガ雑誌で人気が出て、成功したものがアニメ番組になります。『サザエさん』といったようにもちろん例外もありますが。しかし、『名探偵コナン』や『犬夜叉』は、現在もそうですが、もともと「少年サンデー」に連載されていたものです。『はじめの一歩』も雑誌の人気連載マンガです。『RAVE[レイヴ]』、『Crossover』、『ドラゴンボイス』、『ドリームス』はこの雑誌に載っています。「ジャンプ」に連載されているのは、『ワンピース』、『こち亀』、『テニスの王子様』、『ヒカルの碁』などです。
 雑誌の連載で人気が出ると、次にコミック本になります。例えば『名探偵コナン』の値段は390円です。これが現在までに40巻ぐらい出ていますが、100万冊以上も売りあげます。そのうちだいたい10%の印税が作者に入ります。仮の計算をしますが、もし各巻100万冊売れれば、4,000万冊となります。それに390円を掛け、その10%が作者の収入になります。ですから青山剛昌は漫画家の中で2番目にお金持ちなのです。
 
 学生―「少年サンデー」とか、そういう雑誌一冊の中に、何種類くらいのマンガが入っているのですか。
 
 森川―これは「ジャンプ」ですが、20です。
 
 学生―アメリカの漫画家は、一冊のうち何章か描きます。
 
 森川―アメリカのコミック雑誌の場合、一冊で読み切りになっている場合が多いですね。次の巻へ続いていますか?ストーリーは終わっていますね。しかし、読者を引きつけるために、終わらせないのです。クライマックスはいつも終わりにあります。読者が次号を買いたくなるようにするためです。女性コミック誌についても、同じような手法を取っていると思います。「サンデー」の場合、もっとも人気があるのは『犬夜叉』と『名探偵コナン』ですが、20くらいのマンガが入っています。「コロコロ」には『ポケモン』や『デジモン』が入っています。
 ひとつ指摘しておかなければならないのは、私が今お話ししたのはサクセスストーリーばかりだという点で、この業界全体が成功物語で溢れているというわけではありません。例えば、漫画家はアシスタントを雇いますが、アシスタントの給料は非常に安いです。2年前の数字ですが、平均年齢は28.6歳で、アシスタント歴は平均7.2年、男性7.8年、女性5.5年といったところです。彼らが仕事をする時間は1日平均10.8時間です。それで彼らの平均年収は247万円です。日本の基準で考えると、これは非常に低い水準です。
 現在、日本人の平均年収は500万円余りだと言われています。もちろん、平均年齢はずっと高いですが、29歳前後で247万円の収入では、非常に少ないと言えます。しかも、11時間近くも働いている。1日の半分近くスタジオで描いて、給料がたったこれだけでは、少し困りますね。
 しかし、どうしてアシスタントを続けているのでしょうか? それは、いつか人気漫画家になれるかもしれないという夢があるからです。言い換えれば、漫画家になりたいと願う人はたくさんいますが、ピラミッドの頂点に立てるのはほんのわずかで、成功した漫画家しか生き残ることができないということです。成功者が何億、何十億円を手にするのです。それが実情です。しかし、アシスタントをすれば、すばらしい実地訓練になります。いい漫画家になるには、有名漫画家のアシスタントになることです。漫画家の世界は二分化がかなりはっきりしています。お金持ちで有名な漫画家がいる一方、人気漫画家になることを夢見る貧しいアシスタントがいます。
 
 学生―有名な漫画家の多くも、最初はアシスタントから始めたのでしょうか?
 
 森川―高校生の時代から自分のマンガを雑誌のコンテストに送っています。そういうふうに始めるのです。
 
 学生―マンガが出版されますといくらぐらい稼げるのでしょうか。
 
 森川―来週、清水さんに聞いてみましょう。彼は『ドラゴンボールZ』や『ワンピース』など、多くの番組を手がけているプロデューサーですので、詳しく知っているはずです。プロデューサーは大きな力を持っていて、マンガ・アニメ関係者をすべて知っています。アニメ番組にして放送できるかどうか漫画家と交渉したり、広告会社と掛け合ったり、スタッフや声優と仕事をしなければなりません。
 
 学生―マンガ喫茶について説明していただけますか?
 
 森川―皆さんのような留学生にとっては奇異な存在ですよね、マンガ喫茶というのは。例えばお金がなかったり、コミック雑誌をわざわざ買いたくない場合には、マンガ喫茶へ行くのが一番です。本棚には市販されているほとんどすべてのマンガが揃っています。会員にならなければなりませんが、わずかなお金を払えばマンガが読めますし、飲み物もあります。ですから、暇つぶしやマンガを読むにはもってこいの場所です。でも、私は大学教授ですので、皆さんには勉強するように言わなければなりませんがね。しかし、この講座ではマンガも勉強の対象ですから、マンガ喫茶も推奨したいと思います。
 
 学生―たくさんのマンガがありますが、次の号が出たらどうなるのですか? 紙はリサイクルして再利用されるのですか?
 
 森川―これらのマンガには再生紙が使われています。
 
 学生―すべてリサイクルされるのですか?
 
 森川―触ってみると分かりますが、かなりザラザラした低質紙です。基本的に再生紙が使われています。
 
 学生―220円は僕らには高いです。
 
 森川―理髪店や病院へ行けば、待合室にたくさんの雑誌が置いてありますから、そこで読むことも出来ますね。
 
 学生―どうしてマンガは色づけされていないのですか? 以前は、マンガを作る人達がアメリカンスタイルのコミックをまねていましたので、色がついていました。どうして現在はカラーでないのですか?
 
 森川―初期のマンガ雑誌の中には、読者を引きつけるためにカラーにしたものもありました。コストを下げるために、次第に白黒あるいは黄青になっていきました。220円ですから、何か工夫しなければなりません。この雑誌を買うのは小中学生です。お小遣いは一か月500〜800円程度、多くても1,000円くらいでしょう。何が買えますか? 余り多くのものは買えませんね。でも週刊マンガ雑誌なら買えるでしょう。
 
 学生―ほとんどのマンガは、クリエイティブな人が一人で描いているのですか?絵を描く人がストーリーも書いているのですか? それとも、それぞれの作業をする人が別にいて、共同制作しているのですか?
 森川―その質問については二つお話したいと思います。ひとつ目は、漫画家が有名になりますと、作者はアシスタントあるいはゴーストライターに制作を任せるようになります。『ゴルゴ13』を例にして話をします。『ゴルゴ13』は大ヒットしていますが、作者のさいとう・たかをはもう描いていません。彼の名前が使われていますが、制作しているのは他の人です。ですから、原作者がマンガを制作しているとは限りません。もっと多く売るために他の人が名前を使っているのです。
 二つ目は、コミック本がアニメ化される場合、コミック本の方が、制作速度が遅いのです。アニメ化の方が速く進んでいくため、2年間の遅れがあっても追いついてしまいます。例えば『名探偵コナン』やや『犬夜叉』は、もう追い越してしまっています。そういう場合どうするかといいますと、二つ方法があります。一つは、ストーリーを追加します。原作者は大きな力を持っていて、自分が制作しないアニメでも質を落とさないように強く求めます。質が大切なのです。オリジナルと同じクオリティーでなければなりません。ですから、別のライターを使う場合も優秀な人でなければなりません。
 
 学生―マンガを生み出す時、ストーリーを書く人と絵を描く人は同じ人ですか?マンガの制作を始める時、ストーリーと絵は同じ人が描いているのですか?
 
 森川―最初は一人で様々なことをこなします。しかし、需要がどんどん多くなるとアシスタントを雇えるようになります。それでも、あれこれ指示を出すことはできます。例えば、『美味しんぼ』などの場合、はっきりした分業があります。一人がストーリーを作り、もう一人が絵を描きます。その場合、ストーリーを書いた人は文面や絵で、「ああして下さい」「こうして下さい」と指示を与えます。絵を描く人はそのビジョン通りに実行します。また、アシスタントも雇います。このようにチームワークなのです。
 ですから、例えば、すばらしいストーリーがあっても自分では絵が描けないという場合は、絵のうまい人を見つけ、チームを作ってください。皆さんにとって大きなチャンスは、日本でマンガ制作をしている若い国際的な漫画家は、多分まだいないということです。皆さんの文化は、日本の文化と異なっています。ですから、マンガのいい題材になるかもしれません。例えば皆さんが、何らかの面白いカルチャーショックを体験して、それをマンガで表現することができれば、すばらしいビジネスチャンスになりますね。
 
 学生―カルチャーショック?
 
 森川―皆さんのものの見方は、日本人とは少し違います。そこに焦点を当てて、そういう面に目を向けて何かを書けば、面白いものになるはずです。例えば、「留学生が日本で貧乏生活を続けた後、ビジネスで成功する」といったサクセスストーリーなんていうのも面白いですよね。あるいは、全く別な仕事としては、日本ではおかしなとんでもない英語が氾濫していますが、それはマンガの中でも言えることで、文法的にはおかしな英語が使われていることがあります。マンガにおける英語のスペシャリストとしての仕事もできるのではないでしょうか。
 あるいはまた、このマンガ・アニメ講座で、私や他の講師が話すことを書き留めれば、すばらしい本になるかもしれません。現在、英語で書かれたマンガについての本はほんのわずかしかありません。この講義は、日本発の英語による特別な連続講義ですので、これらを書き留めるだけで、いい本になるかもしれません。私自身、やりたいのは山々ですが、話をする方の立場ですので書き留めることはできません。でも皆さんにはできます。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION