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 この報告書は、当協会が日本財団の助成金を受けて、海上における人命の安全確保の向上に寄与することを目的として実施した「膨脹式救命いかだ及び救命胴衣艤装用の小型軽量SARTに関する調査研究」について、2ヵ年事業の報告書としてまとめたものである。
 なお、本書に記載されている内容の複写、転載及びアイデアの利用は、関係委員会の指示により禁止いたします。
平成15年3月
社団法人 日本船舶品質管理協会
 
1. まえがき
 全世界的海上遭難安全システム(Global Maritime Distress and Safety System:通称GMDSS)が完全実施されてより3年経過し、船舶の遭難後の救助について徐々に実効があがりつつあることは、誠に喜ばしいことであります。その一方個々の海難事例において貴重な教訓も得られ、改良すべき点も浮かびあがってきております。
(社)日本船舶品質管理協会は、GMDSSの中核をなす救命機器の中の非常用位置指示無線標識装置(Emergency Position Indicating Radio Beacon:略称EPIRB)と、捜索救助用レーダ・トランスポンダー(Search And Rescue Radio Transponder:通称SART)の整備・保守点検等に取り組んでおりますが、平成11年度から2年間にわたり、遭難時のSART利用の実態を踏まえて「投下式レーダ・トランスポンダー」に関しての委員会を設けて調査研究を行なってまいりました。この成果として小型軽量のSARTの目途がつきましたので、平成13年度から2年間にわたり、更に研究をすすめ、救命いかだへ小型軽量SARTを艤装する方策の具体化や、救命胴衣に手軽に装着できるSARTの具現化を図ることといたしました。
 以上の研究によって、現在の各船に1個、又は各舷に1個となっているSARTの備付けを、各救助艇や各救命いかだに備え付けることができるほど小型軽量で安価なものとなるならば、船員の安全性向上のためにこれほど嬉しいことはありません。
 また、救命胴衣に手軽に装着できるSARTができれば小型船舶に搭載しやすいものとなり、更には作業中に海中に転落死亡すると云う事故も多いことから、海難事故による人命の損失が減っていくならば幸いであります。
 平成13年度は、いかだ艤装用SARTの調査研究作業部会と、救命胴衣装着用SARTの調査研究作業部会という2つの作業部会を設けて調査研究を行いました。この内、いかだ艤装用のSARTについては、耐衝撃性を具備した小型軽量SARTを試作し、救命いかだへの艤装方策を具体化することができました。また、救命胴衣装着用SARTについては、先ず、現行SARTの電気部送受信モジュール及び改良アンテナをベースとした胴衣装着を想定したSART(以下、「胴衣装着用SART」と言う。)について、所定の設計、試験を実施し、これらの成果は、先に中間報告書にとりまとめたとおりであります。
 平成14年度は、調査研究の最終年度として、救命胴衣装着用SARTを試作し、実海面試験の実施するとともに胴衣装着用SARTより更に小型軽量かつ低廉価を図り、汎用性の高いSARTの普及を目指したSART(以下、「携帯型SART」と言う。)について、所定の試作、試験を実施し、本文に報告されているような成果をあげることができました。
 本委員会の各委員並びに作業部会の各委員の努力によって目的が達成されたことは喜びに堪えず、各委員に深い感謝の意を表します。
 
 全世界的な海上遭難・安全システム(GMDSS)では、海難が発生し救命いかだ等で本船を離れた場合、海難現場におけるこれらいかだ等の発見は、捜索救助にあたる船舶及び航空機のレーダ探索に委ねられる。
 漂流している救命いかだ等の発見を容易にするためには、レーダトランスポンダー(SART)を恒常的に救命いかだ等に艤装(装着)しておくことが最も望ましいことであるが、現状では、本船から離船するときに救命いかだ等に持ち込むこととなっている。
 このような状況下、バルト海におけるRoRo旅客船エストニア号の重大海難を契機に、国際海事機構(IMO)の無線通信捜索救助小委員会では、現行SARTの機能を補完する方法等が検討され、1999年に開催された第4回小委員会において、この種の船舶に搭載している救命いかだ等には、SARTを艤装することが決定された。
 当会では、平成11年度、12年度の2カ年事業として、投下式SARTに関する調査研究を実施したが、前述の状況に鑑み、2年間で得られた成果を発展させて、救命いかだ等に艤装するための耐衝撃性を具備した小型軽量SARTを試作し、IMOの動向に対処することとした。
 また、海中転落者等の救助率を向上させるためには、転落者等の早期発見が不可欠であることから、小型船舶用救命胴衣の常時着用化にも呼応して、SARTの小型化の技術を更に検討し、救命胴衣に常時装着可能な、胴衣装着用SART及びより汎用性を高めた携帯型SARTの試作・評価を行うとともに、適切な装着方法等を検討して、海上における人命の安全確保の向上に寄与することを目的とした。







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