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No.19/36
海の安全II
1. 海流
 海洋は陸水(りくすい)とともに水圏(すいけん)を構成し、体積においてその97%を占めています。海洋が陸水と著しく異なる点は、地球上でただ一つであること、すなわち、地球上の海水はすべてつながっているということです。つまり海水全体が一体となって絶えず地球表面上を流動しているのです。海水は、その上に接している大気の運動(風)に引きづられて地球表面上を動き回ります。海洋は3次元的な広がりを持っているので、熱や塩分等海水の密度の不均による対流的な循環(じゅんかん)も生じ、地球の自転の影響や、更に大陸があるので、実際の流れは風と全く同じではなく、複雑です。このような海水の動きの中で、特に狭い部分に集中して、いつも同じような方向に流れる運動を海流と呼んでいます。ただインド洋の低緯度海域だけは様子が異なり、北半球の夏季には南西季節風が吹くので、北東季節風の吹く冬季とは海流系が一変し、アフリカ沿岸沿いに北東へ流れるソマリー海流という最大4ノットにも達する強い海流が現れます。このように、海流は風系の変化に伴う季節的な変化はあるにせよ、パターンとしてはほとんど変わらないと考えられます。図に示すのはいずれも1,000km以上のスケールを持つ大きな流れです。このような大規模な海水の動きを、大気の大循環に習って「海洋大循環」と呼びます。もちろん、このような大循環は大気と同様先に述べたように3次元的な構成を持つものであり、何千mという深層にも定常的な流れは存在するので、図に示した海流とは、海洋の表層大循環のことです。この海流に乗って、いろいろな物が世界の海を巡っているのです。
 
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2. 廃油ボール
 海に浮いている油のうち、膜(まく)としてではなく破片や塊(かたまり)で存在するとき、その硬軟(こうなん)・大小に関わりなく「廃油ボール」と呼んでいます。原油や重油の海洋流出事故から、日数が経過すれば油は海水と混合してだんだん比重が重くなり、最終的に海底に集積(しゅうせき)することは知られています。これが目につき始めたのは1965年(昭和40)頃からです。被害としては、海水浴中又は砂浜で遊んでいるときなどに、衣類や体にべっとりと付いてしまうというものから、漁業被害など幅広いものです。漂着しやすい地形としては、太平洋沿岸の黒潮の影響が強いところで、表層を漂ってくるものに関してはなだらかな砂浜が、また油の中に砂が混じり合い比重の重くなって沈んだものに関しては、磯に多いようです。最近では、お台場海浜公園でも発見されています。
 
 
3. プラスティックの海で・・・
 基本的な原料である石油を、化学的に合成した高分子(こうぶんし)物質をブラスティックと呼んでいますが、これに商品や材料としての特性を持たせるため、可塑剤(かそざい)・熱安定剤・紫外線(しがいせん)吸収剤・難燃(なんねん)剤・発泡剤・着色剤などの様々な添加(てんか)剤が用いられています。いわゆる環境ホルモンと称されるものが多量に含まれているのです。プラスティックが多用される要因の一つは原価が安いことです。そしてもう一つの大きな要因は「軽くて強い」「電気絶縁(ぜつえん)性が良い」「加工しやすい」などの長所を持つことにあり、この「腐らず錆びない(さびない)」という特性は、特に自然生態系への影響が大きいものです。腐らないということは、自然界に入ってもそのまま存在し続けることを意味します。プラスティックによる環境汚染はとても深刻です。プラスティックを製品に加工する上での最初の形は、レジンペレットと呼ばれるものです。小さな粒状のもので、ぬいぐるみの中にも入っています。これが工場に運ばれ製品として加工されるのです。このレジンペレットは、紙で造られた袋に入れられているので、これが荷役作業の時に海に落ちたり、破けたりといったことで海に流れてしまうのです。それ以外にも、製造工場の排水溝から川に流れていくこともあります。鳥は捕食(ほしょく)したものをかみ砕いているわけではなく、胃の後部に砂嚢(さのう)という器官があり、この中には常時小石が保持され、胃袋で消化できなかった穀物や魚類の骨などを括約筋(かつやくきん)の周期的な収縮弛緩(しかん)により小石とともに攪拌(かくはん)し、いわばミキサーのような働きで消化速度を速めています。小石は次第にすり減って小さくなり小腸へと移行してしまうため、この砂嚢に小石を定期的に補給する必要があるのです。近年の調査でほぼ全ての海鳥にこの現象があることが分かってきました。そして最近では小石の代わりに多数のプラスティック破片とレジンペレットが砂嚢から発見されています。その中に含まれる化学物質による影響や、プラスティック片を食べてしまうことにより、満腹感が与えられ餓死してしまうのです。廃棄物となったプラスティックではどうでしょう。残念ながら、この被害も相当なものであるのが事実です。よく取り上げられるのはウミガメと、アシカやアザラシなどの海洋哺乳類です。亀の捕食対象は種類によって異なるものの、クラゲや海綿(かいめん)、底棲生物などがその対象であるため、水中を漂うビニールシートの切れ端などを餌と間違え食べてしまうのです。すると、消化されないプラスティックが消化管に詰まることによる栄養失調、消化管の潰瘍(かいよう)とそれらに伴う感染症などを起こす可能性があります。このような被害をもたらすゴミは、私たちの周りにあるごく一般的な、缶ビールやジュースをまとめるリング状の物や、ビニール袋、菓子やおにぎりなどの梱包、釣り糸などで引き起こされている被害なのです。これらの事例からみると、プラスティックやその製品、廃棄物による被害は海岸付近と海表面に限られるように思われがちですが、実は深海性の魚の調査でその被害域の広さを知ることができます。水魚(みずうお)という深海魚がいますが、調査では胃袋の中から鯖などの魚の他に、羽、木片、そしてプラスティック製品が見つかっています。腐らないブラスティックは深海にまでその脅威(きょうい)が及んでいるのです。プラスティックは軽いので海流にのって移動します。他国から日本に流れ着くことがあれば、日本からのゴミが他国に流れて行くこともあります。もしかすると近い将来、私たちはプラスティックの海で遊ぶのかも知れません。
 
 







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