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司会 菊地キャプテン、ありがとうございました。大変豊かな経験のうえからのお話、感銘する部分が多かったかと思います。お時間もまだ少々あります。菊地キャプテンにぜひお聞きしたいという方がいらっしゃいましたら、お手をお挙げになってお名前をお申し出になってご質問をお願いいたします。
質問 日本では外国からいろいろな農産物を船などで輸入していると思いますが、直接人間の口に入るものを船で運んできた場合、運んで帰ったあととか、船は掃除するのですか。
菊地 これは大変いい質問だと思います。まず積む前に広いホールドの中ヘバラで入れるわけですが、ホールドがきれいな状態になっているかどうか検査官が入ります。きれいである証明書をもらったうえで積み荷が始まります。帰ってきて揚げたあとは、もちろん掃除屋を入れてきれいに掃除するわけです。揚げきったあとの検査はどれくらいやっているか私も経験はないのですが、少なくとも積む前にはきれいに検査されていますので、心配ないと思います。
質問 その掃除ですが、ただほうきで掃くわけではなく、日本に来られては困るような害虫などがいたら困ると思うので、強い薬を使っていると聞いたのですが本当なのでしょうか。
菊地 私は直接経験がありませんのでわかりませんが、検疫官が虫の検査をします。揚げ荷前にチェックします。そのときに問題があれば揚げ荷ができなくなってしまうのではないかと思います。それを消毒して揚げるということは聞いたことはないです。
司会 それではそちらの方お願いします。
質問 最後にお話しいただいた、日本の沿岸は無秩序で商船隊にとっては非常に危険な状態にあるとおっしゃった中に、漁船もいっばいあるということですが、漁船以外に最近はヨットなどがたくさんいる。これは遠慮しておっしゃらなかったのだと思いますが、そういうものを含めた管理というか、一般のほうはどうなっているのか。また日本以外の海運国であるアメリカ、イギリス、オランダなどはどういう管理をしているのか。そういう管理をしなくても安全だから大丈夫なのか。日本は特に危険なのか。そのへんのところをお願いします。
菊地 日本が特に危険です。もっと危険なところは、中国とかマラッカ海峡とかありますが、日本は非常に危険です。それでわれわれが研究調査をやりながらやってもらいたいと思っていることは、西行きの船と東行きの船が別なところを通る分離通行帯をつくりましょうということです。これは海上保安庁も漁業者も入って研究していますので、やがて実るだろうと思います。
 それからヨットとかプレジャーボートですが、外国の例を申しますと、たとえばオーストラリアのシドニーはヨット愛好者がものすごく多いので、土曜とか日曜になるとシドニー湾はヨット、プレジャーボートでいっばいになります。そこを船が出ていくのですが、私たちがはらはらしていますとパイロットは、「キャプテン、ノーケア。もしぶつかって沈めば彼らの責任なんだ。船は関係ないんだよ。非常に際どいアクロバット、船の前でUターンしたりひどいことをやりますが、知らん顔をして走りなさい。それで死んだとしても船には迷惑はかかりません」というような社会常識になっています。
 サンフランシスコでもそうです。昔はコーストガードの船がいろいろ世話を焼いていましたが、最近は何もないそうです。というのは、プレジャーボートは自分の責任で運航しなさいということが徹底されているので、商船は気にしなくていいというように変わってきています。そのようなことでよろしいでしょうか。
質問 日本はそのへんはどうなのでしょうか。
菊地 日本はまだまだ大変です。うっかりつぶしたら大変なことになります。
質問 日本の状況を、もう少しお話していただけないでしょうか
菊地 大きな船が来たときに、ヨットに乗っている人とかプレジャーボートの人は恐いですからだいたい逃げます。ですからそんなにたくさん数は起きていないのですが、漁船とプレジャーボートの事故は非常に多くなっているそうです。一般商船の場合、ぶつかったら間違いなく命はありませんから、向こうも気をつけているということで、ヨットをひっくり返したという話はあまり聞きません。でも同じ海をみんなで使っているわけですから、交通ルールとか常識のあるルールがないといけません。それはこれからの話だと思います。
司会 ほかにどなたかいらっしゃいますでしょうか。
質問 私は船にすごく興味があって、将来、船の上で生活していきたいと思っているのですが、たとえば豪華客船などを見ますと、定員の3分の1くらいは乗務員に占められているような気がします。先ほど先生がおっしゃっておられました子供さんにいろいろ講演をなさっているというお話ですが、現在、いろいろな心の問題を持っている子供さんがずいぶん多いように思います。
 そういう子供さんを体験学習として、船の中で短期間でもいいのですが、乗船しながら一緒に生活してグローバルな視点を体験させるようなことで、たとえば乗務員はこれくらいの定員は確実にプロの方でないといけないという決まりのようなものはあるのでしょうか。それを一般の方が体験学習のようなかたちで、子どのさんなどを乗船させるというようなことをできる可能性としてはあるのでしょうか。
菊地 お尋ねは二つあったと思います。将来そういう体験学習ができるかどうかということですが、たとえば船の科学館さんはそういう計画をいろいろされて、太平洋の真ん中まで行くことはないでしょうけれどもやっていらっしゃいます。今日も入り口でボートをやっていましたね。そういうものは今後期待できると思います。ただ、海運会社の場合、商売のほうが大事ですし、子供さんを乗せた場合、いろいろ大変ですよね。けがをしたらどうするとか。乗組員も最低限度ぎりぎりでやっていますので、一般の商船ではそういうふうにならないのではないかと思います。
 それから乗組員を何名乗せなければならないかという定員については、いまは荷物を運ぶ商船のための定員というか、海技免状持ちはこれだけいなければいけないというのははっきり決まっていますが、食事をつくる人は何人いなければいけないかといったことは自分で考えろということです。50人も60人もいるのにコックさん一人では間に合うわけがないので、それはそれなりに適当にやっていく。特に厳しいルールはないと理解しています。そういうことでよろしいでしょうか。
司会 ありがとうございました。いかがでしょうか。これくらいにいたしましょうか。菊地先生、ありがとうございました。皆さん最後までご清聴ありがとうございました。最後に温かい拍手をお願いしたいと思います。(拍手)
 なお、次回は夏休みをいただいて少し時間が離れるのですが、9月15日に第3回目を開催したいと思います。今回のテーマの最終になるかと思いますが、「船員教育から見る日本の海運」ということで、船員教育の現場からのお話を伺うことになっています。
 それから先ほどの最初のご質問で食糧の運搬のことがありましたが、本日お手元に「海運最前線シリーズ」というのをお渡ししているかと思います。この中にも「バルクキャリアが慎重に運ぶ日本の豊かな食生活」ということで、98ページから99ページにバルクキャリアでの食糧の運搬についてのお話が出ていますので、ご参考にしていただければと思います。本日はありがとうございました。
 また、お帰りの際にもう1冊、『海と船、なるほど豆辞典』というのを本日はご用意しています。日本海事広報協会さんがおつくりになった本ですが、今日は専門的なお話もだいぶ出てきましたので、こういった本でも少し読んでいただけるといろいろとご理解が深まるかと思いますので、お帰りの際にお持ちいただきたいと思います。ありがとうございました。本日の講演会はこれにて終了したいと思います。ありがとうございました。
 
平成14年6月22日(土)
於:フローティングパビリオン“羊蹄丸”
 

講師プロフィール
菊地 剛(きくち つよし)
昭和6年(1931)2月25日生まれ。
昭和27年(1952)、高等商船学校(清水)航海科を卒業後、日本郵船(株)に入社、航海士として海上勤務を始める。
昭和44年(1969)船長に昇進、主要な各航路を船長として海上勤務、ロンドン在勤船長を始めとする陸上勤務等も経験し、昭和61年(1986)に同社を退職する。
コンテナターミナル・オペレーションを行う(株)ユニエックス役員を経て、平成6年(1994)より(社)日本船長協会の専務理事となり、翌平成7年(1995)からは、同協会の会長に就任、昨年まで会長職を務めたが、現在は同協会の顧問として後進の指導や育成に尽くされている。







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