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人工衛星と数値予報
気象庁予報部数値予報課 岡本 幸三(おかもと こうぞう)
はじめに
 数値予報とは、天気予報を発表するために必要な大気の状態を、物理法則と計算機を用いて得る手法のことです。
 現在では天気予報を良くするためには、この数値予報の精度向上が必要不可欠となっています。数値予報の精度を良くするには、計算を始める時点での大気の状態(これを初期値と言います)を正確に知る必要があります。
 このため船舶やブイ、航空機や気象台での観測などさまざまな観測データを用いて現在の大気の状態を理解することから出発し、物理法則に基づいて大気がどのように動いて行くかを計算していきます。これにより数時間先から数日先の天気を予報することが可能となります。
 正確な予報のためには正確な初期値、さらには精度の高い観測が必要です。ところが広大な洋上や上空では観測が難しいためデータ数が限られてきます。このような領域の観測を定常的に行うことができるのが人工衛星(気象衛星)であり、船舶などのデータと並んで、数値予報には欠くことのできない観測手段となっています。
 図1では、船舶や気象台で観測しているデータ(図1上)と気象衛星データの分布(図1下)を比較しています。船舶や気象台での観測データに比べ、衛星データの数が多いことがお分かりになると思います。
 気象衛星データというとよくテレビの天気予報などで使われる「ひまわりからみた雲画像」を想像されるかもしれません。この雲画像データは、雲の動きを直感的にも理解できるため天気予報には欠かせない情報ですが、数値予報で使われている気象衛星はもっとたくさんあります。現在気象庁では、4機のアメリカの衛星、2機のヨーロッパの衛星、それにひまわりの計7つの気象衛星の観測データを数値予報に用いています(2002年3月現在、図2)。
 
衛星データの種類
 それでは現在の数値予報ではどんな衛星データが用いられているのでしょうか?
代表的なものをいくつか紹介します。
(1)風
 ひまわりなどで観測した雲などを連続的に追跡することにより、上空の風の情報を得ることができます。また気象衛星から発射した電波が海上で反射する強度を測ることによって、海面上の風を大変精度よく求めることもできます。これは電波の反射強度が、海面の状態(波の立ち具合など)によって変わるという特性を利用しています。
(2)気温
 大気や地表から放射される赤外線などの強さを観測することにより、大気や地表・海面の温度を推定できます。観測する波長帯を少しずつずらすことにより、高度毎の大気温度を測ることができます。また宇宙から地球を見たときに雲がない所では地上まで見えるように、大気や雲の吸収が少ない波長帯を選べば地表付近の気温や地表温度・海面温度なども求めることができます。
(3)水蒸気
 (2)で述べたのと同じ原理を用いて大気の水蒸気量が測定できます。またカーナビなどに使われているGPS衛星からの電波を正確に測定することにより、大気の鉛直方向の総水蒸気量も測ることができます。
 
衛星データの利用
 数値予報の初期値作成で衛星データを利用する場合、問題がいくつかあります。データ量が多いためその計算処理や保存に多くの計算コストがかかること、いろんな国の気象衛星を利用するためそのデータの収集に時間がかかること(明日の天気予報を出すのに明後日までかかってもしょうがありませんから、観測終了後3時間ぐらいで数値予報の計算を始めています)などです。
 中でも最も問題となるのは、数値予報で必要なのは気温、風、水蒸気、気圧といった気象データなのに対し、気象衛星が観測しているのは大気や地表からの赤外線などの強さ、あるいは気象衛星が発信した電波の反射強度であるということです。船舶や航空機などは気温や気圧を観測していますので、これらはそのまま数値予報に利用することができますが、衛星データを利用するためには気象データに変換する必要があります。
 このとき、この変換のやり方やデータの利用の仕方によっては、同じ衛星データでも初期値の精度に大きな差がでてくることが分かっています。つまり、衛星データの利用をより高度化することにより、数値予報の精度を向上させることができます。
 
今後の衛星計画
 最後に今後の衛星計画と数値予報との関係について紹介します。
 新種の観測機器が、今後10年間で次々と登場します。これらは観測精度を高くしたり、より細かく観測することにより小さな現象を把握できるようにしたり、観測に使う波長を増やしてより多くの情報量を得ることを目標としたりとさまざまです。
 現在は数10波長しか観測できないのに対し、2000〜8000もの膨大な波長を観測する測器も登場します。これにより、気球を使って気温・水蒸気を最高の精度で測っているラジオゾンデ観測に匹敵するデータが得られると期待されています。ただしこのようなデータを処理するには、現在よりもさらに膨大なデータをいかに効率よく処理するかといった手法や、雲があるとそこから下の情報は得られないため雲の有無や高さを正確に判別する技術などの調査研究が必要です。
 気象衛星の数も増える予定です。現在は2機の気象衛星で6時間かかっている全地球観測が、4時間あるいは3時間で可能になります。これにより低気圧や台風などの擾乱発生の早期発見や、発達過程の追跡などがより高精度で行えるようになるでしょう。また、9機の気象衛星をリンクさせ3時間毎に全地球降水観測を行おうという計画が、宇宙開発事業団などを中心に進められています。これにより現在まだ不十分である全地球の水蒸気・降水観測体制が大きく改善されることが期待されます。
 最後になりますが、気象衛星のように気象要素を直接その場で測定していない観測では、観測されたデータと気象要素との対応を正確に把握しておく必要があり、そのためには船舶・ブイ・航空機・ラジオゾンデなどによる観測は重要です。また海上での予報精度を高くするためにも、高品質の海上観測データなどが不可欠です。
 今後とも気象観測へのご理解とご協力をお願いします。
 
図1 (上)船舶や航空機、気象台による観測データ分布、(下)衛星観測データ分布
 
(拡大画面:27KB)
図2 気象衛星観測のイメージ図
 
日本測地系海図は使わないで下さい!
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