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2 PRESTIGE号事故の反響
2−1 P号事件で明らかになった問題点
(1)避難水域の確保
(1)スペイン等の措置に対する反応
(2)避難水域に係るガイドラインのあり方について
(2)シングルハル・タンカーの取扱い
(1)EEZ内からの追い出し(LO131/133号)
 UNCLOSの規定に反するや否や。ECのUNCLOSを含めた見直し提案。
(2)フェーズ・アウト時期の前倒し(LO134号)
 ECが2015年から2010年への前倒しを提案。
(3)補償制度のあり方
 CLC、FCに続く第三層基金(LO84号)
(4)船舶検査、PSCのあり方
 MSCは、最優先課題としてIMOモデル・オーディット・スキーム(旗国監督スキーム)を検討するよう要請された。
 
2−2 避難水域に関するIMO/MSC76での議論等
(1)避難水域の確保
(1)スペイン等の措置に対する反応
IMOオニール事務局長をはじめ、スペイン、バハマ及び欧州各国から、現在NAVで検討されているガイドラインの早期取りまとめの必要性が強調され、次回NAV等での検討を経て2003年の23回総会で採択することが決定された。
先に開催された欧州海上保安庁第一回運営委員会においても、同委員会の作業の最優先課題として「困難に陥った船のための避難水域の指定」を取り上げることを合意している(LO132号)。
スペイン政府がP号に避難水域を提供しなかったことについて、各国は表立って非難はしていないが、実際は、スペイン政府がもしP号を早期引き入れれば被害を最小化できたはずとの印象を持っている赴。スペイン政府は引き入れ拒否をUNCLOSの規定に基づく処置として正当化している。
消息筋は、わが国が運用している便宜地籍船の中にもかなりあやしい船(いわゆるサブスタンダード船に近いもの)があり、P号と同様の事故を起こす可能性も否定できないところ、P号と同様の事故が発生した場合、今回のスペインのような措置を取られることへの不安を述べた。また、このような対応が当たり前という雰囲気になった場合、事故が発生した時、沿岸国としては最低限乗組員を救助さえすれば事足り、船は積荷もろとも深海で沈めればいいといった極端な議論にもなりかねず、右を非常に懸念していると述べた。
(2)避難水域に係るガイドラインのあり方について
本件に関し、ガイドライン案の作成者である仏担当者は、ガイドラインは一般的な規定として策定すること自体に意味があり、運用は各国判断に委ねるべきとの意見。P号事故を教訓として、このガイドラインを事案発生時に本当に有効なものとするため、避難を希望する船に対する危険評価を核として、船、船主、沿岸国が同じテキスト(評価方法)で評価し、双方納得の上対応を考えるのが現実的と考えている、今後、その線で作業を進めていくが、次回NAVの検討のみで最終的なものを作るのは非常に困難であると見ている、と述べた。更に、現在のガイドライン案にある避難水域の事前設定に係る規定は、現実的には補償の問題等あり実現困難ではないかとの当方の指摘に対し、仏としても同様の意見であるとした上で、今後、補償に係る新たな枠組みについて検討される必要があると述べた。
独担当者(前回NAV「避難水域」WG議長)は、右ガイドラインを、避難水域提供の可否の判断基準として盛り込み、各国の対応の正当性を証明する手段として活用するとのアイディア。
仏、独いずれのアイディアも、避難水域を提供する、しないの判断を客観的に評価しようとする点で一致しているものの、提供しないことの正当性が認められた場合、いずれの国も受け入れる必要がなくなり、結局、船体・積荷に対する援助への道を塞ぐものと懸念される。)
スペインはMSC76プレナリー等の場において、避難水域の検討に当たっては、補償措置の議論が不可欠とし、また、ガイドラインには船長、乗組員の沿岸国との協力についての規定を盛り込むべきとの発言を行った。右に関し具体的なアイディアについて、スペイン代表から直接聴取を試みるも、本件は現在特別チームで検討中でありコメントは時期尚早として明言を避けた。
INTERTANKOは、避難水域の検討に当たっては、避難水域の確定のみならず、サルベージ船や艀(ハシケ)の提供、技術協力と現場作業での助言、更に財産保護と補償制度について検討すべきと述べた。
英国担当官は、事前に避難水域を確定することは地元対策・補償の関係から実現は困難を伴うとの指摘に対し、英国においても同様の状況であると述べるにとどまった。
(2)シングルハル・タンカーの取扱い
(1)EEZ内からの追い出し
P号事故以来、仏、スペイン、ポルトガルはEEZ内のシングルハル・タンカーの航行を禁止し、スペインは軍艦を使用して航行船舶を排除・監視している(LO131号)。
本件については、当初12月2日(月)から開催されていたMSCにおいては特段議論とならなかったが、13日(金)MSC総括報告書の審議の最終日になって、マルタが事前のアナウンス(つまりは関係国との調整)なしに本件を取り上げ、「ある国で実施されているシングルハルタンカーの追い出しはUNCLOSに違反するもので右の早期回復を望む」と述べたのを皮切りに、各国は本件に対する考えを表明、大勢は当該措置に疑問を投げかけ国際的な解決を望むとした。(LO135号)。これに対し仏は、右措置は環境を保護するための国際法に則った措置であり、仏としては本件に関し、今後IMOにおいて議論を行う用意があるとの冷静な対応であったが、スペインは本件が話題に上ることを事前に知らされていなかったことに不満の意を表明、直ちに本件の検討を終了するようMSC議長に求めた。これに対し議長は、MSCとして今、本件に関し検討し結論を出そうとしているのではない、発言したい者があればその場を提供し、発言を記録に留めたいのであればそのようにするのみであると述べ、スペインがたしなめられた形でとりあえずの議論は幕を下ろした。以上、マルタの突然の発言により、各国及びICSを含む各機関が持っていた不満が気に噴出した形となり仏・スペインは守勢に回った形となった。
13日オニール事務局長は、MSC76のクロージング・リマークスにおいて本件について再度言及し、(1)スペインの努力によりP号乗組員が救助され、また油汚染防除活動が促進されたことを賞賛するとともに、(2)P号事件の原因については未だ明らかにされておらず、我々は専門家の調査を待つ必要がある、(3)IMOはスペインに海岸清掃に係る専門家を派遣し、スペインの現状についてあらゆる情報を持っていると述べた。
 更に、UNCLOSでは、海洋の安全と汚染防止の国際的な実施の責任をIMOのみにあると明示的には規定されていないが、IMOとしては締約国からのいかなる提案やコメントも議題として取り上げ検討する必要がある、避難水域は最優先課題として扱われるべき問題であり、現在の2つの総会決議案の検討に際しては、必要な内容は全て盛り込む等、適切に取扱われるべきと述べた。
本件についてECは、海洋法のあり方を含めた見直しを提案しており(LO133号)、次回COMSARをはじめとして、IMOにおいてどのような検討がなされるのか興味深い。
(2)フェーズ・アウト時期の前倒し(LO134号)
 ECは2015年から2010年への前倒しを提案しており、本件については特にEUへの加入が決まっているマルタ、サイプラスと他国との間で意見の相違が見られるところ、今後のEU内での議論が注目される。
 
2−3 今後のIMOでの作業等
(1)今後の作業
(1) MSCは締約国に対し、今後、LEGを含む関連の委員会等に本件に係る提案・コメントを提出するよう要請。
(2) LEGは、本件に関し法的義務と担保(FlNANCIAL SECURITY)の側面を検討することを了承。
(3) COMSAR7は、本件決議案の内容が従来の捜索救助の手続きと矛盾しないかどうかの検討を要請された。
(4) 次回NAV49は、MSC、LEG、COMSAR、MEPCの提案・コメントを考慮した上で、最終決議案を第23回総会に提出することとなった。
2003年 1月13−17日 COMSAR7
  4月28日−5月2日 LEG86
  5月28日−6月6日 MSC77
  6月30日−7月4日 NAV49
  11月24日−12月5日 第23回総会
 
(2)所見
(1) 現行の避難水域のガイドライン等に係る決議案では、伝統的な緊急入域との整理、UNCLOSとの整理など法的な検討が必ずしも十分に行われないまま、実際の運用面での便宜に重点が置かれ、現場における評価や手続きの問題として処理されようとしているように見える。
(2) オニール事務局長の発言により、本件は最優先課題としてIMOで検討されることとなり、決議案についてもある種「しきり直し」の形で、各国から新たな提案が提出され検討されよう。
(3) 先般のナホトカ号事故とP号事故に対するその後の対応を比較すると、ナホトカ号発生後、わが国は油が流出した場合の適切な対応を確保するための枠組みと資機材の整備等を行ったが、P号の場合には仏、スペインはそのような危険な船を沿岸に近づけないといった強硬な態度を取り、右は問題解決のアプローチに大きな違いがあることは明か。この違いがガイドラインを検討する際に浮き彫りになることも考えられる。
(4) いずれにしても、来年12月の総会での採択に向け、今後本件の検討がIMOの場で積極的になされることから、当協会としても国内での検討に資するため、本件検討の推移と各国等の動静の把握のため、積極的な情報収集と分析を行う所存である。







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