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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/04/24 朝日新聞朝刊
日朝交渉、今こそ再開を 米朝中3者協議に寄せて 伊豆見元氏
 
 北朝鮮の核開発問題をめぐる米国、北朝鮮、中国の3者協議が23日から北京で始まった。日本外交はどう対応すべきか。伊豆見元・静岡県立大学教授兼現代韓国朝鮮研究センター所長の寄稿を掲載する。
 
 米国、北朝鮮、中国による3者協議が決まるまで、米国は「多国間協議」を、北朝鮮は「米朝直接交渉」を主張して平行線だったが、米国の要請が通ったことになる。少なくとも現時点において、北朝鮮が「弱い立場」にあることは間違いないし、ブッシュ政権の一貫した強硬姿勢は功を奏しつつあるかに見える。
 4月初めにワシントンで会ったある米政府高官は、早ければ今後2週間のうちに北朝鮮は「多国間協議」に応じてくるだろう、と語っていた。彼の見立ては、北朝鮮が今後、一方的に核兵器開発プログラムの廃棄に向かう可能性すら排除しない、というものであった。そうした楽観的なシナリオがある種の現実味を帯びるほど、この1カ月に北朝鮮は追い詰められてきていたのである。
 何よりも、北朝鮮の立場に理解を示し米朝直接対話の実現を強く推してくれると期待していた中国と韓国が、米国側に回ったことが大きい。中国は「多国間協議」の開催に積極的となり、韓国はその「多国間協議」に参席を断念する決断までした。これで、北朝鮮は「多国間協議」を受け入れざるを得ないとの覚悟を固めたと考えられる。
 私の得た情報では、米国は3月末に「米朝中3者協議」を提案したが、北朝鮮はいったん拒否したという。その時点では、対イラク戦に米国が苦戦するとの観測があったことが、「強気」な対応を導き出したのであろう。だが、フセイン政権が瓦解(がかい)するに及んで、北朝鮮の姿勢は一変することになった。
○楽観できず
 おそらく、イラク戦争の早期終結を受けて、米国から軍事的な圧力を強力にかけられることを、心底恐れたのであろう。米国の圧力を少しでも緩和するためには、「3者協議」を受け入れて時間を稼ぐしかない――こうした切迫感から、金正日政権は一定の譲歩を選択したと思われる。
 しかし、以上のような事情を踏まえても、私は「3者協議」の行方については悲観的である。米国はこの協議に、交渉や取引をするつもりで臨んでいるわけではない。北朝鮮に、すべての核兵器開発プログラムの放棄・解体をコミットさせるための「国際的な舞台」を提供しようと考えているにすぎないのである。したがって、ラムズフェルド国防長官が述べたように、「北朝鮮が満足する見返りを米国が与えるようなことは想像もできない」ことになる。
 他方、米国による「現体制存続の保障」との引き換えに、核問題での譲歩を考慮するというのが北朝鮮の立場であり、ブッシュ政権の要求を一方的に受け入れることはまず不可能と考えられる。
 とすれば、「3者協議」は早晩、頓挫することが十分に想定される。かりにそうした方向に進むと、米国は軍事的圧力の強化や経済制裁の発動へと向かうであろう。北朝鮮も兵器級プルトニウムの抽出や弾道ミサイルの発射といった挑発行動に出る可能性がある。その結果、朝鮮半島の緊張が一挙に高まるかもしれない。米国が北朝鮮の核関連施設に限定的空爆を行い、北朝鮮が軍事的報復に出る最悪のシナリオを、完全に排除するわけにはいかないのである。
 そうであるが故に、いまこそ日本は日朝交渉を再開し、北朝鮮の核兵器開発プログラムに終止符を打つべく積極的に働きかける必要がある。日本には、北朝鮮の核問題を解決し得る潜在力が備わっているからである。
 まず、「日朝安全保障協議」を立ち上げ、ついで正常化交渉の再開へとつなげてゆくことが望ましい。核問題も拉致問題も、ともに日本の安全にかかわる重大な問題である。したがって、「安保協議」の枠組みを使って議論を開始すべきだ。
 私の得た情報では、すでに北朝鮮から様々なルートを通じて交渉再開の打診があるという。ただし、北朝鮮はそれを公式に提案することはできない。「核問題は米朝間で協議する」というのが公式見解であり、日本と討議する、とは言えないのだ。だから、日本側から「安保協議」の開催を呼びかければ、乗ってくる公算は大きいと私は見る。
 北朝鮮の態度変更を促すには、「強力な圧力」をかけると同時に、「インセンティブ(動機づけ)」を与えることも肝要である。幸い、日本はその双方に有効な手段を有している。
 圧力に関しては、ミサイル開発に使われるかもしれない「汎用(はんよう)品」の輸出を厳しく規制し、麻薬や偽札の密輸取り締まりを一段と強化するだけでも、金正日政権には大きな打撃となる。さらに、北朝鮮が核兵器開発を放棄しないのであれば、「『日朝平壌宣言』を破棄せざるを得ない」と迫ることも、きわめて効果的であろう。
 金正日国防委員長が自ら署名した文書は、北朝鮮では想像を超える重みをもつ。北朝鮮はこの間、対日非難を強めてきたが、にもかかわらず「平壌宣言」は一貫して高く評価し、その履行を訴えかけてきた。いかに宣言を重視しているかを如実に示している。
 「平壌宣言」を日本に一方的に破棄されることは、金正日国防委員長の体面と正統性を深く傷つける。したがって、その可能性を交渉の場で直接突きつけることは、北朝鮮への有効なてことなり得るであろう。
○2つのてこ
 他方、インセンティブとしては、日本は「正常化」と「正常化後の経済協力」という二つの有効なてこを持っている。北朝鮮が完全に核兵器開発プログラムを撤廃し、現有施設の解体に応ずるならば、それは日朝正常化のプロセスを促進する。さらに、弾道ミサイルの開発・生産・配備・輸出をすべて放棄し、また拉致事件の完全解決へと踏み切るのであれば、日朝国交正常化は現実味を帯びてくる。
 もとより、正常化が実現するということは、北朝鮮の対外姿勢が完全に変化することを意味する。つまり、他国の安全を脅かすような行動は一切採らず、国際的規範を順守する北朝鮮に生まれ変わることが求められるのである。金正日政権にとって、それが容易でないのは想像に難くない。しかし、そこまで踏み切るのであれば、日本からの「正常化」と「経済協力」という果実が確実に期待出来ることになる。
 そこが、米国の対応とは異なる重大な点だと言ってよい。核問題に関しては、日本の要求は米国の要求と異なるところはない。しかし、金正日政権は、米国にどれだけ譲歩を重ねても、ブッシュ政権から「体制保障」が得られるという見通しはもてないだろう。
○遠回りだが
 だが、日朝交渉では北朝鮮が重大な譲歩をすれば、正常化が確実に一歩近づく。米国も軍事的手段には慎重にならざるを得なくなる。さらに最終的に正常化に漕(こ)ぎ着け、日本からの大規模な経済援助が実施できるような環境が整うなら、結果として北朝鮮は米国との関係改善の糸口もつかむことになるだろう。
 遠回りのように見えても、まず日本との関係を正常化する方が有効だということになる。
 もちろん、こうした外交には、米国や韓国との緊密な事前のすり合わせが前提になることは言うまでもない。米政権の強硬派を説得するのは容易ではないだろう。だが、これは日本の国益をかけた戦略外交なのだ。
 その際、重要なのは、核問題にしても、拉致問題にしても、事前に日本が求める内容を具体的に明示しておくことだ。それは、米国に過剰な懸念を抱かせないためにも必要である。
 先にも述べたように、日本と国交を結ぶためには、北朝鮮は生まれ変わらなければならない。拉致問題も日本人が納得するかたちで解決することが求められる。しかし、その代わりに金正日政権は何よりも求めていた「体制保障」を手に入れることが可能になる。
 その点を北朝鮮に理解させ、態度変更を促すことができる時間は、さほど残されているわけではない。
 日本は直ちに日朝交渉の再開を北朝鮮に呼びかけるべきだ。私はそう考えている。
 
 ◇日朝平壌宣言の骨子
 ・02年10月中に国交正常化交渉を再開
 ・日本は植民地支配に、痛切な反省と心からのおわびを表明
 ・国交正常化後、日本は経済協力を実施
 ・日本国民の生命と安全にかかわる問題が今後生じないよう、北朝鮮は適切に措置
 ・朝鮮半島の核問題解決のため、国際的合意を 順守
 ・北朝鮮はミサイル発射を03年以降も凍結
 ・日朝安全保障協議を開催
 
 ■小泉訪朝以後の北朝鮮をめぐる動き■
02年
9月17日
小泉首相が訪朝、日朝平壌宣言を採択=写真
 
10月16日
訪朝したケリー米国務次官補に、北朝鮮が高濃縮ウランの核開発計画を認めたと米政府が発表
 
11月14日
朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が北朝鮮への重油供給を凍結
 
12月12日
北朝鮮が核施設の稼働・建設再開を表明
03年
1月6日
国際原子力機関(IAEA)が北朝鮮に核開発の即時破棄を求める決議
 
同 10日
北朝鮮が核不拡散条約(NPT)脱退を宣言
 
2月12日
IAEAが国連安保理付託を決める決議を採択
 
4月9日
国連安保理で核問題を初協議
著者プロフィール
伊豆見 元 (いずみ はじめ)
1950年生まれ。
中央大学法学部卒業。上智大学大学院修了。
平和・安全保障研究所主任研究員、静岡県立大学助教授、米ハーバード大学客員研究員等を経て現在、静岡県立大学現代韓国朝鮮研究所センター所長。
 
 
 
 
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