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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/08/06 朝日新聞朝刊
再開される対北朝鮮交渉 伊豆見元・静岡県立大教授に聞く
 
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が国際社会の表舞台で「素顔」を見せ始めた。初参加したバンコクでの東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)では主役の座を独り占め。九州・沖縄サミット(主要国首脳会議)でもミサイル問題をめぐる大国間の駆け引きを通して「影の主役」に躍り出た。日朝国交正常化交渉の本格化に向けた初の外相会談も実現し、関係改善は少しずつ前進しているように映る。すっかりイメージチェンジした北朝鮮との関係はどう進めるべきか。伊豆見元・静岡県立大学教授(国際関係論)に聞いた。
 (政治部・鮫島浩)
○日本への疑念
 ――北朝鮮がARFへの参加に踏み切った狙いはどこにあるのでしょうか。
 「北朝鮮はよほど悪いことをしない限り、国際社会の中に入っておくほうが隠れみのになることに気づき始めている。当初は参加して袋だたきにあうのを恐れていたが、先に加盟した中国が批判されていないのをみて、安心したのだろう」
 
 ――国際社会とのかかわりを強める北朝鮮の外交姿勢は、今後も続くでしょうか。
 「経済を再建するには国際社会の中で生きていくしかない。北朝鮮の大きな狙いはアジア開発銀行(ADB)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)に加盟し、経済支援を引き出すことだ。問題はAPECには首脳会議があり、金正日総書記自身が出席しなければならないところにある」
 「金総書記は中国の江沢民国家主席、韓国の金大中大統領、ロシアのプーチン大統領と相次いで会談したが、いずれも国内的な権威を傷つけることはなかった。しかしAPECでは、ずらりと並ぶ首脳の一人として写真におさまり、『世界の中の一国の指導者』にすぎないことが印象づけられてしまう。そこを乗り越えられるかどうかだ」
 
 ――そうした流れのなかで初の日朝外相会談が行われ、国交正常化交渉の八月再開が決まりました。
 「国交正常化も過去の清算もするというのが日本の立場だ。ただ、拉致やミサイルの問題があるので無条件ではない。ところが北朝鮮は、日本の真意を疑っている。拉致やミサイルで譲歩したものの、国交正常化や過去の清算に至らなければどうしてくれるのかと。そういう状態で日本の要求にまともにこたえる気にはなれないだろう」
○特使派遣も手
 ――政府・与党内にも「日本にとって正常化のメリットはない」との声があります。なぜ正常化が必要なのかという説明が足りないような気がします。
 「正常化を進めることは、北東アジアの平和と安定に寄与し、北朝鮮の軍事的脅威を取り除くことになる。政府は国民にも北朝鮮にも国際社会にも繰り返し説明することが重要だ」
 
 ――政府は人道支援としてコメを追加支援し、交渉を円滑に進める材料にする方針です。一方、拉致やミサイルの問題で進展はなく、国内世論の反発も予想されます。
 「前回の十万トンをはじめ、これまでの援助は人道的といいながら戦略的な意味があった。これは中途半端で効果も薄い。人道援助と戦略援助は分けるべきだ。北朝鮮は毎年コメが百万トン程度足りないといわれる。人道援助は減らし、拉致やミサイルの問題の進展との見返りに年間百万トンを五年間続けるというような戦略支援を考えるべきだ」
 
 ――韓国の金大統領は日本政府に対し、「金総書記に直接メッセージが伝わる方法の検討」を助言しています。
 「日本が何を考えているかを金総書記に正確に伝え、金総書記の考えを正確に把握することが第一だ。間接的だと、金総書記にメッセージが百%届かないことが分かってきた。首相の特使を平壌に派遣することを検討してはどうか。もっとも、金総書記に会えなければ意味がない」
○日米韓主体で
 ――ロシア、中国が朝鮮半島への関与を強めています。日米韓の連携を続けてきましたが、多国間の枠組みの活用も考えるべきではないですか。
 「日米韓を主体にし、二次的な意味で多国間関係を考えたほうがいい。日米韓の利害対立が指摘されるが、歴史的にみれば二陣営に分かれた冷戦構造のほうが異常だった。多国間の利益がさくそうするのが普通の姿だ。その状況が朝鮮半島にも生まれつつある。そういう時こそ、外交力が問われる。単純構造のときは状況対応型でいいが、複雑になると、主体性がなければ通用しない」
 
 ――当面、国交正常化交渉はどうなるのでしょうか。
 「今月二十一日から始まる東京での交渉の次の第十一回交渉が勝負所だ。北朝鮮は当面、国際社会の脅威となるようなことはしそうにない。八月に河野洋平外相の訪中、九月にはプーチン大統領の訪日、金大統領の訪日がある。日本の経済支援への期待は高く、日朝の国交正常化を求める声が押し寄せてくるだろう。拉致問題についても各国から『木を見て森を見ず』といわれかねない。唯一、クギを刺しそうな米国は大統領選で立ち往生し、日本だけが宙に浮く恐れがある。だが、取り残されることを恐れ、拉致やミサイルの問題を棚上げにしたまま、戦略もなく交渉を進める事態は避けたい」
 「そのためには日本は正常化の意思はあるが、そのための条件もあることを国際社会に納得させる必要がある。日本に経済支援を求めるのなら、支援しやすい環境をつくるよう北朝鮮に働きかけてほしいというメッセージを、国際社会に強く発信するべきだ。私は拉致問題に過度にこだわることには反対だが、ここまでこだわりながら変な形で収めるのはもっと反対だ。日本の外交は何を目指しているのか、国際社会から見ればますます分からなくなるからだ」
 <ARF>
 東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムの略称。一九九四年に始まったアジア太平洋地域の安全保障問題を議論する場で、ASEAN加盟国、日本、米国、ロシア、中国、英国などが参加している。七月二十七日にバンコクであった第七回閣僚会議は初参加した北朝鮮の歓迎ムードが広がる一方、米国が開発を進める戦域ミサイル防衛(TMD)や本土ミサイル防衛(NMD)をめぐるロシア、中国と米国の対立が鮮明になった。
著者プロフィール
伊豆見 元 (いずみ はじめ)
1950年生まれ。
中央大学法学部卒業。上智大学大学院修了。
平和・安全保障研究所主任研究員、静岡県立大学助教授、米ハーバード大学客員研究員等を経て現在、静岡県立大学現代韓国朝鮮研究所センター所長。
 
 
 
 
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