日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/10/21 朝日新聞朝刊
「地下核施設疑惑」揺らぐ米朝合意 朝鮮半島危機再燃の懸念
 
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発を凍結させた「米朝合意枠組み」が調印から四年で、崩壊に向かいかねない瀬戸際に立っている。北朝鮮が地下施設で核開発を進めようとしているのではないかという疑念が、米議会を中心に広がったためだ。米政府は対北朝鮮政策の見直しに入り、新たな「核疑惑」が解消されない限り、枠組みの棚上げもやむを得ないとの方針を固めた。北朝鮮も朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)による軽水炉建設や重油供給の遅れを批判している。「このままでは朝鮮半島危機が再燃しかねない」との懸念が深まる中で、日本政府は枠組み崩壊の口火役になることの回避も考慮に入れて、KEDOへの協力再開に踏み切った。
 (アメリカ総局・水野孝昭 政治部・本田優)
 ●「新核疑惑」で論争
 新たな「核疑惑」の発端は今年八月のニューヨーク・タイムズ紙の報道だ。合意枠組みで凍結された寧辺(ヨンビョン)の核施設の北東約四〇キロの山中に北朝鮮が建設中の地下施設について、米情報当局は核関連施設で、二年から六年で完成するとみているという。
 日本政府も米情報当局から「問題の地下施設は数カ所」との情報を得ている。
 中央情報局(CIA)元上級分析官のケント・ハリントン氏は「北朝鮮は過去三十年間、一貫して核兵器の開発を目指してきた。それは弾道ミサイル開発とともに、長期的な軍備計画の一環だ」と断言する。
 一方、ケン・キノネス前国務省分析官は「問題の施設の目的はまだはっきりしない」と見る。専門家の間でも論争が起きているが、「検証のため現地の査察が必要」という点ではほぼ一致している。
 ●「軟着陸」への失望
 「われわれは北朝鮮の核開発を凍結させた」(クリントン大統領)。一九九四年の米朝枠組み合意は、クリントン政権にとって核不拡散政策の輝ける成果のはずだった。
 それが揺らぎ出した。「枠組みで、本当に北朝鮮の核開発は止まったのか」。今月の議会でこう質問されたコーエン国防長官は「私も疑っており、この疑いを解消する必要がある」と答えた。
 枠組み署名当時は、ドイッチェ前CIA長官ら「北朝鮮は経済危機で数年以内に崩壊する」という見方が米国では強かった。
 交渉をまとめたガルーチ元特使は「北朝鮮の崩壊論を前提にしていたわけではない」と言うが、「時間がたつほど北朝鮮の国力は弱り、周囲に脅威となる軍事能力を失っていく」という計算があったことは確かだ。
 八月末のテポドン発射と今回の核疑惑は、枠組みの背景にあったこの前提も崩した。「核兵器とミサイル開発のため、北朝鮮が時間稼ぎをしている」と米外交評議会のマニング研究員は指摘する。
 「食料援助や四者会談など、北朝鮮の警戒心を解くような環境づくりを進めてきたのに、平壌の反応は変わらない」(ドレナン米平和研究所研究員)と「軟着陸」路線への失望感が広がっている。
 ●北朝鮮もイライラ
 米政府は対北朝鮮政策を包括的に見直すため、来年一月までに閣僚級の「政策調整官」を任命することになった。権限を奪われる国務省は抵抗したが、議会に押し切られた形だ。
 また、KEDOによる重油供給の費用拠出にも、地下施設の「核疑惑」の解明やミサイル協議の進展を大統領が保証するなどの難しい条件が付いた。
 十一月に地下施設についての協議を開始。来年一月までに北朝鮮政策を見直し、北朝鮮と交渉する。六月までに満足できる成果がなければ、枠組み履行は棚上げとする――これが米国の描くタイムテーブルだ。「瀬戸際外交」を繰り返してきた北朝鮮に、米国はしびれを切らしつつある。
 だが、北朝鮮にも言い分がある。「枠組み」の目玉である軽水炉建設は遅れ、目標の二〇〇三年の完成は絶望的だ。年間五〇万トンの重油供給も滞りがち。米国による制裁解除もいつになっても実現しない……。十七日の北朝鮮の労働新聞は、「米国は合意のうち、どれ一つ十分に履行していない」と批判した。
 ●「奉加帳」からの脱却
 「日本がババを引く手はない」。北朝鮮のテポドン発射以来のKEDOへの協力凍結を一方的に撤回する理由について、政府幹部はそう言った。
 協力凍結を続けていると、重油代の負担に難色を示す米議会と「共闘」のような形になり、KEDOを壊すつもりがないのに、その原因を作ってしまうことになりかねない。そんな懸念が強くなったのだ。
 KEDOは「北朝鮮の核凍結」という戦略の手段。それを「北朝鮮への抗議のメッセージ」や「米政府への影響力行使」という戦術に利用した点に、無理があった。「奉加帳を回されているという意識があった」と認める外務省幹部もいる。
 テポドンに核が結びつくと、深刻な脅威に直面する日本。「北に対する太陽政策」の韓国と、枠組み見直しに入った米国にはさまれて、どの道を選択するか。「協力再開」の先に、正念場が待っている。
 <米朝合意枠組み> 北朝鮮の「核疑惑」をめぐる緊迫を経て、一九九四年十月に米国と北朝鮮が合意した枠組み。米国はKEDOを通じて、軽水炉二基を建設、一基目完成まで年間五十万トンの重油を供給する。北朝鮮は寧辺の核施設を凍結し、使用済み燃料棒の密封と安全貯蔵を認める。
 朝鮮半島非核化共同宣言の履行、南北対話の実施、貿易・投資の障壁の緩和、連絡事務所の相互開設なども定めている。
 ◆日米韓が協調対応を 伊豆見元・静岡県立大教授に聞く
 ――いま北朝鮮をめぐって、何が起きているのですか。
 「合意枠組みの有効性に対する根本的な疑問が出てきているんです。合意に問題があるという人の立場に立てば、再交渉しなければならないとなるし、合意は有効だという人もそれを証明しなければいけない。いずれにしても非常に厳しい状況が生まれてきた」
 
 ――北朝鮮に「地下施設」があることは、前から分かっていたのでは。
 「分かっていた。彼らは『全国の要塞(ようさい)化』と言っている。要塞化という意味は、地下ですよ。朝鮮戦争の教訓。じゅうたん爆撃で大変だったから。今度の問題で新しいのは、それが核関連施設ではないかということです」
 
 ――「核」の根拠は。
 「米国だけでなく韓国の情報当局の判断も入っている。両方が見て、かなり濃厚な疑いがあるということが、説得力を持ち得る議論になっている」
 
 ――北朝鮮には、現状はどう映っていますか。
 「米国内の『意味があったのか』という考えは、北にもあるから危ないんです。枠組みの見直しは、北朝鮮でも始まっていると思う。北にしてみれば核だけを考えたのではなく、米国との正常化にもっていこうとしたわけでしょう。正常化とは、軍事的な脅威をなくすこと。そのために努力してきたが、あまり役に立ってない。北もだんだんじれていると見た方がいい」
 
 ――現状を「プレクライシス」(前危機)と見る米国の識者もいるようです。
 「今の状況はプレクライシスというのが適切。本当に枠組みを壊すという話にまで行ってないから、まだ危機ではない。『九四年の再来だ』という人もいるが、むしろ強硬派に『九四年の再来にならない』と見る人が多い。北朝鮮は暴発しないだろう、と」
 
 ――日本はどうすべきだと考えますか。
 「合意枠組みの重要性をさらっと考えるだけではなくて、日本にとって何の利益があるのかという原点を考えなければいけない。仮に再交渉となったら、日本はどうかかわるのか、日本の利益をどう確保するか。そういうアプローチも考えなければならない。それ抜きだと、状況対応型ばかりで、『ああっ』と言っているうちに大変なことになるかもしれない」
 「日本は重油代を全部出すべきだと思います。米国に任せておいたら無理ですね。大した額ではない。毎年五千万ドルで、十年以下。計五億ドルぐらい。安いもんです。それが日本の安全保障費なら」
 
 ――日米韓の協議は。
 「絶対必要。合意枠組みが四年たって日米韓でギクシャクしたのは、すり合わせがきちっとされてなかったから。米国は独りで取引できない。全部のコストを払えないから。日米韓が協調しないとできません」
 
 <米朝合意枠組みの流れと今後の日程>
1994.10.21
米国と北朝鮮が枠組み合意
95.3.9
KEDOが発足
97.8.19
北朝鮮の琴湖で軽水炉建設の起工式
98.7.28
KEDOの費用分担問題が大筋合意
8.17
ニューヨーク・タイムズが「大規模地下施設建設」を報道
8.31
北朝鮮がテポドン・ロケットを発射
10.15
米政府と上下両院が重油供給費用について条件付き
段階的拠出で合意
10.21〜
朝鮮半島をめぐる四者会談
11月
地下施設をめぐる米朝協議、軽水炉本格工事開始
99.1.1まで
米国は北朝鮮政策調整官を任命
3.1まで
米国は来年度分の重油供給費用3500万ドルの拠出を凍結
3月以降
米国は大統領が次の条件を保証すれば、重油費用1500万ドル拠出。
(1)枠組みの完全な順守
(2)使用済み燃料棒密封作業協力
(3)ミサイル開発・輸出の阻止努力
(4)米国からの援助の横流し防止
6月以降
米国は大統領が次の条件を保証すれば、重油費用2000万ドルを拠出。
(1)朝鮮半島非核化共同宣言の履行に向けて協議開始
(2)地下施設の核疑惑について満足できる方策の合意
(3)ミサイル協議の顕著な進展
著者プロフィール
伊豆見 元 (いずみ はじめ)
1950年生まれ。
中央大学法学部卒業。上智大学大学院修了。
平和・安全保障研究所主任研究員、静岡県立大学助教授、米ハーバード大学客員研究員等を経て現在、静岡県立大学現代韓国朝鮮研究所センター所長。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
12位
(28,647成果物中)

成果物アクセス数
461,633

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年3月25日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【中国について】
2.私はこう考える【ダム建設について】
3.私はこう考える【死刑廃止について】
4.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
5.私はこう考える【天皇制について】
6.私はこう考える【国連について】
7.私はこう考える【自衛隊について】
8.私はこう考える【憲法改正について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から