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2003年5月号 『国際問題』
北朝鮮問題の新段階と日本外交
小此木政夫
◆はじめに
 冷戦終結によって、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)をめぐる問題は局地化される傾向にあった。核兵器開発が最初に問題化した一九九三―九四年当時、核兵器そのもののもつ普遍性のために、冷戦とは異なる文脈の下で再び国際化されたが、それも米朝間の「合意された枠組み」によって「凍結」された。この合意に従って、もし「二〇〇三年を目標とする」軽水炉建設が順調に進展し、それに伴って、北朝鮮が国際原子力機関(IAEA)との保障措置協定を「全面的に履行」し、黒鉛原子炉と関連施設が「解体」されていれば、今ごろは、米朝間の政治、経済関係も「完全に正常化」されているずである。双方は連絡事務所の設置と大使級関係への昇格まで約束していたのである。(※1)
 しかし、二〇〇三年現在、北朝鮮問題は再び国際化されている。それどころか、一昨年九月の米国中枢に対する同時多発テロ事件以後、ブッシュ米政権によって、北朝鮮はイラク、イランとともに「ならず者国家」の代表格とみなされ、やがて「悪の枢軸」の一員として名指しされた。さらに、昨年一〇月までにウラン濃縮型の核兵器開発が発覚してから、金正日の北朝鮮はサダムのイラクと同等、ないしそれ以上に危険な存在になった。したがって、原理的には、イラク戦争に勝利した後、ブッシュ政権が北朝鮮の武装解除に着手しても不思議ではない。北朝鮮問題は完全にグローバル化され、イラク問題の「極東版」になったのである。

(※1) “Agreed Framework between the United States of America and the Democratic people's Republic of Korea,”Geneva, Octorber 21, 1994 [http://www.kedo.org].
 
 
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