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◆北朝鮮だけは許さない米国
 このように、核をめぐる世界の状況を検証してみると、核疑惑追及は米国の北朝鮮いじめであることがわかる。米国がこの問題を再三、安保理に持ち込んでいるのは、「北朝鮮にだけは絶対に核保有を認めない」という決意の表れである。
 米国は冷戦の“鬼っ子”ともいうべき北朝鮮を力でねじ伏せようとしているのに対し、片や北朝鮮は現体制の存亡をかけて核カードを切っているうちに、ついに米国主導の国際システム全体を敵に回し、孤独な挑戦を強いられる結果になってしまったというのが昨今の状況といえよう。
 IAEAは本来、技術者集団であり、査察官は純技術者だ。筆者はブリクス事務局長にかつて三年間仕えた経験を有しており、その一挙手一投足を熟知している。彼は毎日のようにワシントンに電話をかけ、指示を仰いでいる。その意味で、北朝鮮が米国だけを相手にし、IAEAを米国の手先とみなしているのは正しい。
 過去二年間、寧辺地区の核関連施設を訪れたIAEAの査察官の心証では、北朝鮮はまだ核兵器を完成、保有はしていないようである。しかし、北朝鮮がIAEAとのシーソーゲームを繰り返し、時間稼ぎする間に着々と核兵器製造が進むことを米国は懸念している。
 米国としては、同盟国であるイスラエルとパキスタン、あるいは思惑の違いはあってもインドやブラジルが核保有をしても黙認できるが、北朝鮮だけは容認できない。なぜなら、北朝鮮には、チュチェ思想で指導されている偏狭な社会主義、個人崇拝による独裁、世襲専制政治、テロ、人権抑圧など、米国あるいは西欧社会の価値観と根本的に相容れないものが存在しているからだ。双方に横たわる相互不信は大きい。
 金日成主席が一番恐れているのは北朝鮮のルーマニア化であり、おのれがチャウセスクの二の舞を演じることであるという。現体制維持の外的保障なしには、虎の子の「核開発疑惑」は絶対に手放せないわけだ。北には最後にNPT脱退という切り札がある。
 
 
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